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誰が「玉城デニー当選なら沖縄は中国に」というデマを流したのか

台風24号の直撃を受ける中行われた沖縄県知事選で、与党が推す候補者に圧勝した玉城デニー氏。沖縄県民は、米軍普天間飛行場の辺野古への移設に反対の立場を崩さなかった翁長前知事の遺志を継ぐ玉城氏を選択したわけですが、選挙期間中、様々な誹謗中傷等が流れたのも事実です。元全国紙社会部記者の新 恭さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、その最たるものである「玉城デニーが当選すると沖縄が中国に乗っ取られる」というデマゴギーが囁かれた背景を探るとともに、その荒唐無稽さを明らかにしています。

沖縄知事選で乱れ飛んだ「玉城勝利なら沖縄が中国になる」という噂

沖縄県民は翁長路線を継承する玉城デニー氏を新知事に選んだ。

ジュゴンの棲む美しい海を埋め立てて、米海兵隊の辺野古基地を建設しようとする日本政府の計画を阻止すべく、死の間際まで闘った前知事の遺志は県民の心にしっかりと生きていた

それにしても、思いのほかの圧勝だった。猛烈な台風に襲われるなか、投票率は63.24%にのぼり、玉城デニー候補39万6,632票、佐喜真淳候補31万6,458票と、実に8万票以上得票率にして11.2%もの差がついた。

安倍政権はかつてないほどの応援部隊を送り込み、総力戦を繰り広げたが、空回りしがちだったと見える。

菅官房長官が小泉進次郎氏を従えて「ケータイ料金を4割下げる」と、昨今の持
をぶったのも、カネや人気をあてこんで人心を釣ろうとする魂胆をさらけ出し、県民感情を逆なでした。

公明党は自主投票だった前回と違って自民党に足並みをそろえた。だが、創価学会員の一部は、公明党本部の方針に従わず、玉城陣営についたといわれる。

接戦が伝えられるなかで、自民党は異常なほどのネガティブキャンペーンを繰り広げた。さまざまなデマ、フェイクニュースが乱れ飛んだ。ほとんどは取るに足らない誹謗中傷ばかりだった。

翁長県政の継承者として「弔い合戦」に挑む玉城氏へのあまりに酷い流言飛語は発信者の意思とは逆に作用したかもしれない。安倍政権への強い不信感を増幅させたともいえる。

ただ、気になるものがひとつだけあった。「玉城デニーが当選すると沖縄が中国に乗っ取られる」というたぐいの言説や噂だ。「中国になりたくない」と若者が本気で言っているという情報がネット上をかけめぐった。

どこからそのようなデマが流されているのか不思議だった。翁長前知事も玉城デニー氏も、辺野古基地建設に反対しているだけであって、日米関係を否定しているわけでもなく、沖縄の全ての基地を撤去せよと求めていることもない。

それでも、極端論者はどんなときにも口を出すものである。たとえば、元東京新聞論説副主幹長谷川幸洋氏。玉城氏の基地反対は「お花畑論」だとして、次のように書いた。

こんな人物が知事になったら、沖縄の支持者だけでなく、中国や北朝鮮は大喜びだろう。祝電どころか、祝意表明の代表団を送ってくるかもしれない。そうなったら、歓迎の中国国旗(五星紅旗)が沖縄中にはためくのではないか。光景を想像するだけでも、ぞっとする。
(9月26日、夕刊フジ・ニュースの核心)

評論家八幡和郎氏は「アゴラ」という言論サイトに、「玉城デニーの沖縄アイデンティティは中国に無警戒」「沖縄が中国人に乗っ取られる日」と題する記事を連続投稿し、こう指摘した。

(中国が)太平洋への進出を狙っているのは、南シナ海での埋め立てや軍事基地化でも明らかである。また、中国からの移民圧力も強いし、それを中国政府は後押ししている。そういうなかで、よほど、気をつけていないと、中国は軍事拠点として沖縄を狙うだろうし、移民などを送り込んで来る危険性が高いのである。…いずれ、沖縄住民の多数派になってしまう可能性も強い。

この二人の識者に共通するのは、辺野古基地建設に反対するような人が知事になったりしたら、沖縄を虎視眈々と狙う覇権国家・中国の餌食になってしまうということである。

中国が沖縄に何らかの野心を持っていると考えることに不思議はない。その昔、琉球が中国の支配下にあったのも確かである。だからといって、辺野古の基地建設に反対する知事は、日米安保を軽んじて中国には無防備であるかのごとき印象操作をするのはいかがなものか。

こうした言説が、SNSなどで拡散され、独り歩きしたのが「玉城知事になったら沖縄は中国に占領される」という短絡的なストーリーなのかもしれない。

もちろん、沖縄県が近年とくに中国企業との経済交流を活発化しているという側面はある。

アジアの巨大マーケットの中心に位置する地理的優位性を生かし、国際ビジネス都市に飛躍しようというねらいで2015年9月に「沖縄県アジア経済戦略構想」を策定した。アジアをつなぐ物流拠点▽世界水準の観光リゾート地の実現▽沖縄IT産業戦略センター(仮称)の設立などを掲げている。

アジアの巨大マーケットといえば当然中国ということになる。昨年には、沖縄県と福建省が友好県省を締結して20周年を迎え、翁長知事ら約110名が訪中し、中国のベンチャー企業関係者らと交流した。

経済交流を活発にしたら中国に乗っ取られるというのなら、いまの日本経済全体が中国の旺盛な消費に依存している現状も、問題にされなくてはならないだろう。

ところが、中国との経済協力をもって、沖縄の中国化や独立運動の盛り上がりを指摘する論者が後を絶たない。

陸上自衛隊少年工科学校で学んだ経歴を持つ日本沖縄政策研究フォーラム理事長仲村覚氏は昨年6月25日のオピニオンサイト「iRONNA」に、「中国の『沖縄包囲網』は最終段階に入った」と題する文章を寄稿した。

沖縄県と福建省の経済的な動きは既に加速度的に進み始めている。(中略)日本では日中国交正常化以来、中国に進出した企業の多くは、人件費の高騰や政策変更などリスクがつきまとい、撤退を始めている。(中略)しかし、現在の沖縄では、福建省に進出するといえば誰でももうけさせてもらえるような、上げ膳据え膳のサポート態勢が整いつつある。(中略)一方、観光客のみならず、さまざまな切り口で沖縄に中国人を呼び込むプロジェクトも進められている。(中略)このままいけば、沖縄では中国人観光客があふれるだけではなく、「社員が中国人」という会社が多くなり、「私の会社の社長は中国人」というケースも増えていくことになるだろう。(後略)

こういった議論は第2次安倍政権が発足して以降、顕著にみられるようになった。元海上自衛官のジャーナリスト恵隆之介氏は2013年の時点で『中国が沖縄を奪う日』という、センセーショナルな題名の本を刊行した。

そこには、沖縄県と福建省の親密な関係とともに、中国の陰謀めいた沖縄介入ストーリーがまことしやかに書かれている。その概略はこうだ。

中国は1960年代から日本国内の左翼勢力を煽動して沖縄復帰運動を支援した。2013年5月8日には「人民日報」に、尖閣諸島は中国固有の領土という従来通りの論調を展開したうえで、沖縄についても「帰属問題は未解決である」と主張した。

東シナ海の支配と西太平洋の制海権確保を目論む中国軍が照準を定めている沖縄では、相変わらず反米・反日運動や独立運動が展開されている。2013年5月15日、本土に復帰して41回目の記念日に日本から独立することを目標に「琉球民族独立総合研究学会」という団体が発足した。沖縄では近年、基地反対運動などにおいても中国人の存在が目立つようになっている。中国が沖縄の極左グループを背後で操り、執拗にオスプレイ反対運動を展開している。

日本の基地反対運動を中国が背後から支援したり操ったりしているというのだが、その具体的証拠がこの本に示されているわけではない。誰がどう動いているのかなど、仔細な説明が必要であろう。

沖縄の若者にもネトウヨが増えていると聞く。「玉城デニーが当選すると沖縄が中国に乗っ取られる」という、まったく根拠のない言説や風評が、基地問題に無関心な層にかなりの程度で浸透したことがネット上の数々のコメントでうかがえる。

辺野古基地新設反対派は左翼で左翼は反日売国奴親中であるというステレオタイプな物の見方が広がっているとすれば、危険きわまりない。

しかし幸いなことに、デマが沖縄県知事選の結果を左右する愚は避けられた。中国の脅威がないわけではないが、辺野古の米海兵隊基地が建設されなければ日本の防衛ができないというのはウソである。

左右のイデオロギー対立が問題の本質ではない。人の命と生活、素晴らしい自然環境。それを守るのが新知事の使命であろう。

image by: 自由党 - Home | Facebook

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