北海道胆振東部地震の影響によりキャンセルが相次ぎ、経営的なピンチに陥っている同地の旅館や観光業。他の観光協会が「もう地震の影響はなく、元気におもてなしができます」と伝えるなか、まったく真逆のPRで話題を呼び成功したのが十勝川温泉です。今回の無料メルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』で著者の佐藤きよあきさんが、その戦略を紹介しています。
「自虐的PR」で成功!『元気ないです 十勝川温泉』
北海道音更町にある十勝川温泉。有名温泉地ではないものの、琥珀色の「モール温泉」として、知る人ぞ知る存在です。「モール温泉」とは、植物起源の有機質を含んだ温泉のことで、世界的にも珍しい温泉だと言われています。
この地も、先の北海道胆振東部地震の影響を大きく受け、宿泊キャンセルが相次ぎ、元気をなくしてしまいました。1万人を超えるキャンセルとなり、突如、経営のピンチとなってしまったのです。
そこで、旅館組合と観光協会の関係者が集まり、対策を協議。PRのセオリーで考えれば、「地震の影響はなく、これまで通りのおもてなしができます。私たちは元気です」となります。実際、「元気です」キャンペーンをやっている地域は多くありました。
しかし、正直な気持ちとして、元気とは言えない状況だったので、気乗りせず、別のアプローチを考えたのです。加えて、他と同じことをやっても、埋没してしまうのではないかという危惧もありました。
ここで閃いたのが、苦境であることを正直に伝え、「来てください」とストレートにお願いすることでした。その表現方法を面白くすれば、暗くならずに、笑ってもらえるのではないかと考えたのです。
まず製作したのは、観光ポスター。メインとなるキャッチフレーズは、「元気ないです 十勝川温泉」。そのものズバリです。
一番下には、「ヒマ過ぎちゃって、サービス向上」のフレーズ。ポスターのテーマを「ヒマ」として、ビジュアルでは、ヒマな従業員たちの写真を掲載しています。
- 仕込み中に試食ばかりする料理人
- 空いた部屋で英会話の勉強をしながら、バランスボールで運動をする仲居さん
- 見まわりのついでに温泉につかるスタッフ
かなり自虐的な表現となっていますが、笑えます。この大胆なポスターが注目を集めることになったのです。逆境にめげず、それを逆手に取って、面白可笑しくアピールしたことで、いま、予約が戻りつつあります。
また、これまで知らなかった人が、十勝川温泉の存在を認知するようになったのです。これは大きな成果です。
自虐的PRは、苦し紛れの思いつきだったかもしれません。しかし、他と違うことをするという大きな勇気が、結果的に功を奏したのです。自分たちの置かれた立場を正直に語り、率直にお願いしたことが、お客さまの心を捉え、これからの元気に繋がったのです。
image by: 音更町十勝川温泉観光協会 公式ホームページ