著者による解説
この「高級外車の売却益隠し」とは、簡単に言えば次のようなことです。
まず事業用の車として、高級外車を買います。外車を買った費用は、事業の経費から支出されます。車の場合は、固定資産に該当しますので、買ったときに一度に経費化するのではなく、耐用年数に応じて減価償却費として経費計上していくことになります。この減価償却により、高級外車の帳簿価値は年々、減っていくことになります。
たとえば、1,000万円で購入した高級外車でも、2年後には帳簿上は500万円以下になっていたりします。が、高級外車というのは、少しばかり年数が経っても、市場価値はあまり減りません。たとえば、1,000万円で購入した外車が2年後には800万円で売られていたりします。つまり、高級外車の場合、帳簿上の価格と、市場価格に開差があることが多いのです。だから、事業用として購入した高級外車を、売却した場合、利益がでることが多いのです。
たとえば、帳簿上、500万円のものを800万円で売れば300万円の利益がでます。この300万円の利益は、事業の収入として計上しなくてはなりません。事業用として購入し、事業の経費から代金を支払っているわけですから、それを売って利益が出たなら、当然、事業の収入としなければならないのです。
しかし、高級外車の売却益というのは、事業者たちにとっては、普通の事業の収入ではありません。たとえば、この記事で挙げられている歯科医師や呉服店の社長などは、普段は歯科や呉服販売を行っているわけです。車の売却で得た利益と言うのは、普段の事業ではない利益です。
事業者がこういう利益を得た場合、得てして、「これは申告しなくてもいいのではないか」という心理が働くようです。本業の収益ならば、税務署が見張っているので、隠したらヤバイ。でも、本業以外の収益であれば、税務署もあまり監視していないのではないか、だから申告しなくてもばれないのではないか。そういうふうに考える事業者が多いようです。
が、残念ながら、税務署はそういう事業者の心理は、何十年も前からお見通しなのです。自動車など固定資産の売却益を隠す脱税が多いということは、筆者が新人のころから税務調査の教科書に載っていることなのです。筆者は50代ですので、筆者が新人のころというと、30数年前のことです。そのころからすでに、「定番の脱税手口」だったのです。