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客に媚びない。日本や台湾の若手らが炙り出す、10年後の自国の姿

5人の若手監督がそれぞれ10年後の香港を描いたオムニバス映画『十年』。社会問題を鋭くえぐるこの作品はたちまち話題となりましたが、刺激を受けた日本、台湾、タイの若手作家がそれぞれ自国の10年後を撮るという国際共同製作プロジェクトが注目を浴びています。台湾出身の評論家・黄文雄さんは、メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で3国それぞれの作品内容を紹介するとともに、買い手が喜ぶものばかりが溢れる現代において、当作品は「創り手の意思を感じさせるもの」と評価しています。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年11月6日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【アジア】アジア各国の社会問題をあぶり出す映画プロジェクトに期待

香港映画『十年』がアジアで大プロジェクト化!日本版総指揮は是枝監督、タイ版はアピチャッポン監督が名乗り!台湾も参加し国際共同プロジェクトへ!

映画『十年 日本』が公開されました。この映画については、11月6日(火)朝のNHKニュースで紹介されていたので、ご覧になった方も多いでしょう。5人の若手監督が、それぞれ10年後の日本がどうなっているかを想定してテーマを考えてつくったオムニバス映画です。

11月3日より東京で公開されていますが、この作品は日本で公開される前に釜山映画祭に出品されています。映画の内容は後程少し触れますが、それよりもこの映画がアジア各国を越境した一大プロジェクトだという点に注目して頂きたいと思います。もともとの始まりは香港映画でした。

2015年、香港の若手映画監督5人がそれぞれ10年後の香港を描いたオムニバス映画『十年』が製作されました。香港では、2014年に市民による反政府デモである雨傘革命が起こりました。その後も、選挙制度をめぐって中国政府のいいなりになっている梁行政長官が「香港の選挙制度改革は北京の政府に実質的決定権がある」「香港の問題は香港が解決するとの主張は違法だ」などと発言し、香港市民と行政との溝が深まり社会が混とんとして委縮しはじめた頃でした。

そんな現状を憂えた若手映画監督5人が、10年後の香港がどうなっているのかを予想して描いたオムニバス映画が香港版『十年』です。必然的に政治的な色が濃い作品が多い印象です。

しかし、社会問題を抱えているのは香港だけではありません。香港は中国との特殊な関係性を抱えていることは独特ですが、報道の自由問題や環境汚染問題などは世界各国共通の問題です。そこで、映画『十年』プロジェクトが発足しました。参加国は今のところ日本台湾タイの3国で、日本版の若手5人の監督が選んだテーマは、空気汚染、高齢者社会、徴兵制、IT、デジタル社会の5つです。詳しい内容については以下のサイトをご参照下さい。

香港映画『十年』がアジアで大プロジェクト化!日本版総指揮は是枝監督、タイ版はアピチャッポン監督が名乗り!台湾も参加し国際共同プロジェクトへ!

そして、日本版の若手監督のまとめ役であるエグゼクティブプロデューサーを務めたのは『万引き家族の是枝裕和監督です。釜山映画祭で日本版『十年』が上映された後の記者会見で、このプロジェクトに参画し、どう支援してきたかと質問された是枝監督は以下のように答えています。

20年位前に侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督と懇意にさせていただいている中で、彼が将来的にアジアの国境を越えて、日本と韓国と台湾と香港と中国の監督達が一同に集まってインディペンデントで、その当時はまだ発想として16ミリでしたけど、それぞれ映画を作って公開をしていく、国境をこえたプロジェクトを作りたいんだと、1993年に話をされていたんです。

 

その時、僕はまだ映画監督でなかったけど、ホウさんがそういう話をされていて、「そういうの作ったら、お前が監督になったらそこに来て作れよ」って誘ってくれたんですよ。それがもう25年近く前になりますけど、未だに僕の頭の中に残っていて、今回のプロジェクトの話を頂いた時、真っ先に思い出したのはそのことでした。

是枝監督は、近隣諸国、そして世界と関係することで世界観を刺激させベテランが若手の創作場所を提供することが自分の役割だとも言っています。なにかと保守界隈では批判も多い是枝監督ですが、アジア各国のさまざまな問題点をあぶり出すこの映画プロジェクトは、意義のあることでしょう。

もちろん作り手の意図が反映されているため、厳密に公平な内容かどうかはわかりませんが、さまざまな問題がアジアに存在していることを知るだけでも意味があります。

ご存知の方も多いと思いますが、侯孝賢監督は台湾の映画監督で、2.28事件を扱った映画『悲情城市』では、ベネチア国際映画祭のグランプリを受賞しています。侯孝賢監督はやはり先見の明がありますね。ただ、それが実現するまでになんと25年もかかるとは、時間がかかりすぎな感じがしますが。ともあれ『十年』は香港、日本、台湾、タイの連携でスタートしました。

タイ版の監督代表はアピチャッポン・ウィーラセタクン氏。2010年、『ブンミおじさんの森』が第63回カンヌ国際映画祭でタイ映画史上初めてとなるパルム・ドールを受賞したタイを代表するベテラン監督です。タイ版『十年』は、今年10月に行われた東京国際映画祭とカンヌ映画祭に出品されています。内容は以下の通りです。不安定な政治情勢を反映して、政治色の濃い作品が多いようです。

1.アーティット・アッサラット(『ワンダフル・タウン』TIFF2008)は、「Sunset」で表現の自由が制限された展覧会を、2.ウィシット・サーサナティアン(『快盗ブラック・タイガー』)は、「Catopia」で猫人間に支配された社会を、3.美術家のチュラヤーンノン・シリポンは、「Planetarium」で独裁者の女性が君臨する極彩色でグラフィックな世界を、4.アピチャッポンは、「Song of the City」で鼓笛隊の奏でる行進曲が響くなか、銅像の立つ工事中の公園と、そこで休息し語り合う人々を、それぞれ描いている。

十年 Ten Years Thailand

そして、我らが台湾の『十年』は台湾で今年7月に公開されました。若手5人の監督と、作品内容は以下の通りです。

『悪霊缶頭』を手がけた勒嘎・舒米監督は、プロジェクトに選ばれたと知った時はとてもうれしかったとした上で、先住民族の1人として映画を通じて先住民族の見方と、先住民族に関して速やかに広く知られるべきことを伝えたかったと話す。勒嘎・舒米さんは、「こうしたことをみな問題だと考えることに慣れてしまっているが、『十年台湾』はこの土地に様々な暮らしの姿があることを伝えている。台湾は海に浮かぶ島だが、そこには多様な生活がある」と述べている。

 

『睏眠』の廖克発監督はマレーシア出身。台湾で10年間映画を学んだ。廖さんは今回の機会を利用して自らの過去を振り返り、未来を展望したという。『睏眠』は睡眠と記憶を題材に社会を見つめた作品。面白いのは、タイトルから「目」を取り去ると、「困民」となること。初上映会で廖さんは、観客からの面白い質問に期待した。

 

『蝦餃』の謝沛如監督はユーモラスな手法で少子化問題を提起。『路半』の呂柏勲監督は、プロジェクト参加が決まってから、10年後にどんなことが起きるのかと考え続けたという。呂さんは、『路半』では地方に残った人と地方を離れた人たちの間でどのような出来事が起きるかを見てほしいと話している。

台湾版『十年』、5人の映画監督が未来を占う

こうして、香港、台湾、タイ、日本の『十年』が完成しました。10年なんてあっという間ですが、変化のスピードの速い現代社会において、それぞれの10年後がどうなっているのか、実に多くのことを考えさせられる映画です。そして、それぞれの社会がどのような問題を抱えているのかを若手監督たちが浮き彫りにしてくれています

映画は、新聞や出版と同様にメディア関係の斜陽産業のひとつです。私もかつて、プロデューサーや監督などの映画関係者と手を組んでビジネスをしたことがありましたが、やはり大変でした。映画を製作しても、10本に1本、あるいは100本に1本ヒットすればいいほうで、ヒット作が製作会社の明暗を分けます。

映画の製作費は億単位の資金を必要としますので、やはり資金問題は切実です。もちろん、最近日本でヒットした『カメラを止めるな』のような低予算の映画もありますが、そうした映画がヒットするのはそれこそ万にひとつの可能性です。

先進国の映画市場は頭打ちです。ハリウッドが中国市場を狙って映画を製作しているという話が出るのはそのためで、映画市場に活況を呈しているのは中国やインドの新興国です。韓流も流行がひと段落して、今は農閑期といった感じでしょうか。さらに、ネットの普及によってテレビドラマや映画がいつでもどこでも見られるようになりました。そのため、従来の「視聴率」を人気のバロメーターにすることが難しくなってきています。

産業界を見渡すと、次はAI業界が主流になってきています。これほど時代の変化が速いと、次の世代に、いったい何をやらせれば戸惑っている教師や保護者も少なくないでしょう。映画をはじめ、いかなる産業も観客、視聴者、消費者といった買い手が影響力を有する時代です。そのため、買い手が喜ぶようなコンテンツや商品が市場に溢れているのです。映画もしかりです。そんな産業構造の中において、この『十年』という作品は、創り手の意思を感じさせるものだと思います。

image by: 十年 Ten Years International Project - Home | Facebook

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年11月6日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込648円)。

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