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ねじれた「自由の国」。新聞各紙は米中間選挙をどう捉えたか?

トランプ大統領の注目度もあり、我が国でもかつてないほど大きく報道された米中間選挙ですが、上院はトランプ氏率いる共和党、下院は民主党がそれぞれ勝利を収めました。この結果を新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。

新聞各紙は米中間選挙の結果をどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「民主下院奪還 議会ねじれ」
《読売》…「上院共和 下院は民主」
《毎日》…「下院は民主 ねじれに」
《東京》…「トランプ共和 下院敗北」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「トランプ審判 白黒つかず」
《読売》…「再選 手応えと陰り」
《毎日》…「トランプ流 先鋭化も 米国第一 拍車に警戒」
《東京》…「内政運営に民主の壁 対外強硬策に拍車か」

ハドル

米中間選挙の結果に対する各紙の評価に焦点を当てます。前にもどこかに書きましたが、これまで、米中間選挙が日本でこれほど大きな話題に上ったことはありませんでした。良くも悪くもトランプならでは…ということでしょう。

トランプ氏は負けていない

【朝日】は1面トップの他、2面3面、7面に関連記事。10面に下院当選者の顔ぶれ、11面にも記事と識者の声、15面にはマイケル・ムーア監督へのインタビュー(朝日新聞と共同通信、毎日新聞が合同で行ったもの)。14面社説。見出しから。

1面

2面

3面

7面

10面

11面

14面

uttiiの眼

膨大な記事量があるので、要約も困難だが、中間選挙の結果に対する《朝日》の見方を一番良く示しているのが、2面記事の以下の大見出し。

トランプ審判 白黒つかず

今回の中間選挙が、いつも以上に「大統領に対する信任如何」という意義を持つことになったのは、トランプ氏が暴力的な政策の数々を積み上げてきたからで、米国社会は、そのトランプ氏を支持するか、否定するかで真っ二つに割れてきたということだ。

トランプ氏の選挙戦略は、少々奇妙なものだ。下院を早々に見限り、上院、それも大統領選でトランプ氏が勝利を得たフロリダ、オハイオ、ミズーリなど10州を徹底的に回ることだったという。さらに、中南米から米国を目指して北上する「移民キャラバン」を「犯罪者集団と呼んで危機感をあおるなどして、共和党は上院で議席を積み増すことに成功してしまった。トランプ氏は、自らツイッターに「ものすごい成功だ」と投稿したが、狙ったとおりの結果を得たわけで、決して「強がり」ではないと《朝日》は見ていることになる。

他方、民主は下院で過半数を確保し、共和党が強いと言われる「郊外」(都市と地方の中間)で女性候補が次々当選していった。これで「弾劾訴追の可能性が出てきたわけで、そもそも予算を伴う法案を通さなければ政権運営は行き詰まる。

では、選挙の結果が「白黒つかず」となったことで、この先、何が起こるか。この点で各紙の論調は比較的そろっていて、トランプ氏はいっそう分断をあおり独断専行を繰り返すやり方は、いっそう激しくなるだろうと見ている。《朝日》も1面のアメリカ総局長・沢村亙記者による解説の中で、「トランプ氏は『議会のせいで政策が実現しない』と責任を転嫁するはずだ」とし、「外交や通商では、支持層をつなぎとめようと、より保護主義的な政策に傾く可能性がある。強いリーダー像を演出するため独断専行の外交にも拍車が掛かりそうだ」としている。

《朝日》から全体に立ち上ってくるのは、トランプ氏の用意周到さと選挙戦術の巧みさだ。氏は勢いを駆って2年後の大統領選での再選を目指し、そのために求心力を高めるべく、熱狂的な支持層を中心にキャンペーンを張り続けるのだろう。

対中強硬姿勢は民主党も賛成?

【読売】は1面トップに2面、3面は解説記事「スキャナー」と社説、6面と7面は特集、9面経済面にも関連記事。見出しから。

1面

2面

3面

6面・7面

9面

uttiiの眼

《読売》も、選挙の結果、トランプ氏は大統領令を多用し、これまで以上に「トランプ流の外交を加速させるだろうと言っている。他紙と色合いが違うのは、外交の中でも特に重要と思われる対中路線についての以下の議論だ。

《読売》2面記事は、民主党に下院を押さえられたことで「トランプ米政権は通商・外交面で対立を深める中国に、さらに厳しく対応していくと見られる」としたうえで、実は、「民主党は貿易面では共和党より保護主義的で中国の人権問題への関心も強く、トランプ政権にさらなる圧力強化を求める可能性が高いためだ」と書いている。対中強硬姿勢は共和党ではなく、むしろ民主党のものであって、トランプ氏は対中強硬策については議会の後押しを受けながら、政策を実行していくことができるというわけだろう。それだけではない。《読売》はそれ以上の分析も予想も立てていないが、この点を利用すれば、民主党内にくさびを打ち込むことも可能になるかもしれない。

2面掲載の花田吉雄・アメリカ総局長のコラムは、トランプ氏がグローバリゼーションから取り残された白人労働者層の感情をくすぐり、米社会の分裂を広げてきたことを指摘し、トランプ氏はこれからも人種間の対立などを煽って求心力を高めていこうとするだろうとする。そして、最後に次のような指摘をしている。分断化が進行する中、「両党の二極化を敬遠してか、無党派層が両党の支持層を上回る最大勢力になっている」という。両党は特定の勢力だけに焦点を当てるだけでなく、「中道層や無党派層にも受け入れられる裾野の広い寛容な政治に取り組むしかない」と、トランプ氏や民主党を窘(たしな)めている。

米国の焦燥感

【毎日】は1面トップに関連記事が、2面、3面の解説記事「クローズアップ」、5面に社説、6面関連、8面と9面は特集扱い、11面には識者の見方。見出しから。

1面

2面

3面

5面

6面

8面

9面

uttiiの眼

《毎日》は、少し時間と空間を広げることによって今回の中間選挙の意義を確認しようとしているように見える。1面の及川正也論説副委員長(前北米総局長)のコラムは、「難民排斥など地球規模のポピュリズムの潮流」があることを指摘。「トランプ政治を生んだのは、歴史的な変容期に身構える米国の焦燥感」と捉えている。米国の白人は、人口が減り始め、30年以内に半分以下になると言われている。「収入はアジア系に及ばず、失業率改善の恩恵は黒人に向かう」とも。国力はといえば、10年余で中国に「世界一の経済大国」の座を奪われるとの予測があり、「軍事的にも中露の追い上げが激しい」とする。

《毎日》は、日本にとっては「アジアで緊張を高めないこと」が利益に合致したことであり、「米国に自制を求めることも必要になろう」という。

正直言えば、自制を求めようが求めまいが、凋落しつつある米国がその悲しさに身悶えしているさまが変わることはあるまい。必要なのは「自制を求める」ことではなく、米国に依存しない社会体制をつくっていくことではないだろうか。

ヘイトクライムで騒然とするなか…

【東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、3面、6面、7面に関連記事。5面に社説。見出しから。

1面

2面

3面

5面

7面

uttiiの眼

《東京》1面掲載の後藤孝好・アメリカ総局長のコラム。選挙結果については「民主党が下院を奪還して独善的な政治手法に待ったをかけた。民主主義が一定の修復力を示したといえる」と評価しながらも、白人層のトランプ支持も底堅く、「米国第一主義はさらに先鋭化するに違いない」と予測する。

後藤記者は選挙の周辺で起こったいくつかの事件を挙げている。 オバマ氏ら民主党有力者やCNNに爆発物が送りつけられた事件、人種差別的な言動に触発された男がシナゴーグで銃を乱射、11人を殺害した事件、ブラジルでも極右の元軍人が大統領選で勝利したこと、ドイツのメルケル首相が地方選の敗北から党首退任に追い込まれたことなど。記者は「国際社会は人々の心の奥底に潜む不満や差別意識を呼び覚ますトランプ主義の試練に向き合う覚悟が問われている」と結んでいる。

識者の意見のなかで気になったのは2点。1つは、トランプ氏が連邦最高裁判事に指名したカバノー氏に対する民主党側からの攻撃が余りに激しかったため、人工妊娠中絶や同性婚を否定するキリスト教右派を共和党支持に駆り立ててしまった(西山隆行成蹊大教授)というもの。西山教授は、民主党の選挙戦略が拙速だったと批判している。

もう1点。民主党は党内に分裂を抱えており、サンダース上院議員が影響を与えているような支持者を動員しようとすればすれほど党が左傾化してしまうという問題。そうなると、政策が「非アメリカ的」と見做される危険があり、民主党としてはジレンマを抱えながら次の大統領選に臨まなければならないという点だ(山岸敬和南山大教授)。

この2つ目の点は、主にオバマケア後の医療政策をめぐる議論を題材にしていて中央集権的な医療保険制度を提案すればすぐに「社会主義的」とレッテルを貼られてしまうことを指している。結局は、どのような主張と勢力が民主党内で主導権を握るか、という問題なのだろう。

image by: shutterstock

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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