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知らなきゃ損する、夫の年金受給額を下げた「妻の240ヶ月の壁」

配偶者の扶養に入り、国民年金保険料を支払わずとも国民年金保険料を支払ったものとみなされる国民年金第三号被保険者。この制度の条件が平成28年10月から変更となり、今までは130万未満の年収ならば入ることが可能だった扶養の条件が106万に引き下げられました。厚生年金に加入できる基準が下がったともいえるのですが、実は思わぬデメリットも隠されているそうです。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、106万の壁と配偶者加給年金について詳しく解説しています。

自分が年金を貰い始めたら配偶者の年金が停止されてしまったというよくある事態

最近は高齢者の雇用促進の話や、女性の雇用拡大の事についても話題となってきています。まあ、それは年金財政にとっては非常に有効でもあります。普通なら年金生活に入ってる人が年金を支える側に回ったり、配偶者の扶養に入ってる国民年金第三号被保険者の人が保険料を支払う側へ回るからですね。

実際そんな中、平成28年10月からは配偶者の扶養に入れる条件を一定満たすと、130万円未満ではなく106万円未満まで下がって厳しくなりました。一応原則は130万円未満ではありますが。これを世間では106万円の壁とも呼ばれるようになりました。

今までは130万円未満の年収でパートなどで働いていれば、配偶者の扶養に入って国民年金保険料を支払わずとも国民年金保険料を支払ったものとみなされる国民年金第三号被保険者になる事が出来たわけです。しかし、その130万円未満の基準が、106万円未満に下がった事で国民年金第三号被保険者にはなりにくくなりました。もし106万円以上で働くような人は扶養に入るのではなく、自ら厚生年金に加入するという事になりました。つまり厚生年金保険料が毎月給与から天引きされるという事です。

とはいえ、106万円以上(月額88,000円以上)の収入で働く人が全て厚生年金に加入するのではなく、基本的には501人以上の会社で働く人が対象となっています。501人未満でも場合によってはやってる会社もある。

その他、週労働時間が20時間以上、雇用期間が1年以上見込まれる事などが条件となっているので誰もかれもが厚生年金に加入できるようになったわけではありません。これにより新たに厚生年金に加入する人が爆発的に増えたというわけではなく、とりあえず20~30万人くらい増えはしました。とはいえこういう制限も今後は緩和されていくでしょうけどね^^;

厚生年金に加入できる基準が下がった事で、保険料の負担が増えるというデメリット感が大きいかもしれませんが、将来の年金が増えたり病気で働けなくなった時の医療の給付が手厚くなったりするので一概にデメリットであるというわけではありません

ただ、厚生年金に加入できる条件が下がった事で今回の事例のような思わぬデメリットもあります。それは配偶者加給年金に影響してきます。その辺を見ていきましょう。

1.昭和28年6月27日生まれの男性(今は65歳)

何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)

現在老齢厚生年金90万円、老齢基礎年金65万円が支給されている。また、65歳未満の生計を維持してる妻(昭和34年10月15日生まれの現在59歳)がいるため配偶者加給年金389,800円が老齢厚生年金に加算されている。

配偶者加給年金は妻が65歳になるまで加算されるという事だったから、あと6年間ほどは配偶者加給年金が貰えると思っていた。よって現在の夫の年金総額は

じゃあ、その妻の年金記録。

2.昭和34年10月15日生まれの妻(今は59歳)

20歳になる昭和54年10月から昭和55年3月までの6ヶ月は短期大学へ行っていた。この期間は国民年金には強制加入ではなく、任意加入だったが加入しなかった。この6ヶ月はカラ期間となる(年金額には反映しないが、年金を貰うための年金受給資格期間の10年に組み込まれるだけ)。

昭和55年4月から昭和58年5月までの38ヶ月は国民年金保険料未納。昭和58(1983)年6月から平成14(2002)年2月までの225ヶ月は厚生年金に加入。この間の平均給与(平均標準報酬月額)は28万円とします。一応、この当時は自営業の前夫と婚姻はしていたが平成18年5月に離婚。

平成14年3月から平成20年6月までの76ヶ月は国民年金保険料未納。平成20年7月に現在の夫(サラリーマンだった)と婚姻し、その夫の扶養に入って国民年金第三号被保険者となる。夫が65歳と4ヶ月になる平成30年10月まで厚生年金に加入していたが(厚生年金は最大70歳までは加入できる)、65歳の前月である平成30年5月までは妻は国民年金第三号被保険者になる事が出来た。


参考

夫は65歳過ぎてからもプラス4ヶ月の期間厚生年金に加入してますが、65歳到達時時点で老齢基礎年金を貰う権利がある人なので、妻は夫が65歳になるまでしか国民年金第三号被保険者になれない。なお、国民年金第三号被保険者になれるのは妻が20歳以上60歳になるまでの期間のみ。


この女性の国民年金第三号被保険者期間は平成20年7月から平成30年5月までの119ヶ月間。その後は、妻が60歳平成31年→新年号元年9月分までになるまでは自分の国民年金保険料を支払わなければならない


参考

国民年金保険料は配偶者の夫が払ってもいい(というか本人が支払えない場合は、世帯主と配偶者は連帯して納付する義務がある)。支払った国民年金保険料は夫の社会保険料控除に使える。


しかし、平成30年6月からパートで厚生年金に加入するようになった。一応60歳(平成31年9月)まで加入するつもり。この16ヶ月間の平均標準報酬額は88,000円とします。

はい、じゃあですねそういう年金記録で行くとして考えてみましょう。

この妻の生年月日だと61歳平成32年→新年号2年10月から自分の厚生年金の受給権が発生する。

年金支給開始年齢(日本年金機構)

この61歳時点の厚生年金額を算出。

特に何もなければ、この金額が65歳まで続く。しかし、この61歳時点で夫の年金に問題が生じるんですね。それは夫の配偶者加給年金389,800円が停止になってしまうという事。原因は妻が年金を貰える年齢になったから。もっと言うと、240ヶ月以上の期間に相当する厚生年金を貰えるようになったから。この妻の厚生年金期間を見てみたら、241ヶ月の期間がありますよね。だから夫の配偶者加給年金は妻が61歳になった時点で停止になった。

妻が65歳になるまでは配偶者加給年金が貰えると思っていたのに、妻が自分自身の240ヶ月以上の厚生年金を貰えるようになった事で妻が61歳時点で夫の配偶者加給年金はストップ。夫の年金総額は1,939,800円から155万円に減額となる。

まあ…でも夫婦の年金総額を合わせたら、夫の年金155万円+妻の年金456,592円=2,006,592円だから、前よりは世帯収入は増えてはいますね^^;


注意

この妻の老齢厚生年金がもし全額停止になるような事があれば夫の配偶者加給年金の停止が解除となる。例えば、この妻の厚生年金が61歳以降も在職する事により、給料が高いので年金が全額停止になってるとか、もしくはこの妻がハローワークの失業手当を貰ってる間は65歳未満の老齢厚生年金は全額停止になる。そういう事になれば、夫の配偶者加給年金の停止は解除となる。つまりまた支給再開という事。


というわけでですね、厚生年金に加入できる条件が緩和の方向ですが、何も考えずに厚生年金期間を積み上げると今回のような事も起こります。ちょくちょくこういう事態があっていきなり40万円近くの年金が吹っ飛んでしまうから、受給者の人からは「こんなに年金減らすとは何事だo(`ω´ )o!!」ってよく怒られましたね^^;制度だから仕方ないと言ったら事務的すぎますが、どうしようもない。根気強く説得するしかない(笑)。夫婦の年金総額を合わせたら増えてますよとか。

なお、もしこの妻の厚生年金期間が239ヶ月で抑えられていたら、配偶者加給年金は妻が65歳になるまで止まらなかった。たった1ヶ月や1日の違いで、ガラッと変わってしまうのも公的年金の特徴です。

最後に65歳時点の妻の年金総額を算出。65歳になると妻も老齢基礎年金が発生する。

よって、

妻が65歳を迎えた事により、夫の配偶者加給年金は消滅する(それまでは停止の状態だった)。

追記

年金貰い始めてから後悔しても遅いんですが、この妻がもし240ヶ月未満に厚生年金期間を抑えていたら夫の配偶者加給年金から振替えられて加算される「振替加算」が妻が65歳になった時に妻の老齢基礎年金に付いていた。

もし振替加算が付いていたなら、妻の生年月日に応じた額26,916円(平成30年度価額)が加算されていた。振替加算が付いていたならさっきの

振替加算は厚生年金期間が240ヶ月以上になるような事が無ければ、終身加算される。

加給年金と振替加算(日本年金機構)

あ!もし離婚する時があるなら、その時に配偶者から厚生年金記録を分けてもらう離婚分割する時も気を付けていてくださいね^^;

というわけで、現代は70歳までの雇用も盛んにはなってきましたが、夫婦によっては加給年金と振替加算に影響してしまう事にもなるので時々年金のメンテナンスというか立ち止まって考えてもらえたらなと思います。

image by: Shutterstock.com

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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