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ゴーン事件から学ぶ「社員に心を砕く経営者」がいなくなった理由

カルロス・ゴーン容疑者が逮捕されて、徐々に明らかになる容疑の詳細を見聞きするにつけ、ゴーンという人物を「優れた経営者」の象徴のように扱ってきたマスコミや日本の社会が間違っていると指摘するのは、『武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』』の武田邦彦中部大学教授です。武田教授は日本の経営者が社員に心を砕かなくなった現実と、本来あるべき姿について持論を展開しています。

ゴーン事件から学ぶ、従業員無視の日本の「商法」

日本社会や世界の政治情勢の変化が激しくなり、ここでもシリーズものをやってきましたが、それでは重要問題を時宜を得て解説ができないので、しばらくシリーズを中断して特に重要な問題を取り上げるようにします。また私のブログ(武田邦彦 (中部大学))では音声で類似のテーマを扱いますので、メルマガと一緒に見ていただくとよりよく理解が可能かと思います。

日産自動車のゴーン容疑者は、会社が社会に発表すべき報告書を偽造したり、自分の妻、母親、知り合いの弁護士がほとんど日産自動車に貢献していないにも関わらず、報酬や自宅を供与していたことなど、日本の感覚では「狡い」という感じの人だったようです。

もともと、ゴーン容疑者が「優れた経営者」ということ自体がマスコミのフェイクニュースで、単に日産自動車の財産(人と物の財産)を売り払って、収益の向上を図ったもので、本来の経営がやるべき、技術や営業の改善ではなかったのです。

従来の日本の経営は、従業員とともに会社を発展させていくという考えで、苦しい時にも一緒に歯を食いしばって回復するという方針でした。そしていま、現実に日産自動車の技術を支えているのも、「改善活動、5S活動」というように、会社と従業員が一体となった思想でやってきて、それが日産自動車の製造を支えてきたのですから、良いところは横取りし、苦労した従業員を解雇するだけですから、決して「優れた経営者」ではないのです。

今回の事件はこれから双方で激しい戦いがあるでしょうから、それについてはここでは触れません。それよりこの事件を活かして日本社会のひずみを直し、よりよい日本を子供たちに引き渡せる方向で整理をします。

日本列島になぜ日本人が住んでいるかというと、そこで生まれ、育ち、幸福な人生を送るためです。もし、誰かの奴隷になってやっとやっと生きていくのだったら、別に日本列島に住んでいなくてもよいですし、税金も払いたくないし、国防もいりません。

子供がいない人も税金で教育費を分担し、海岸線に縁のない人も日本の海岸の整備に膨大な税金を出しています。農業振興策にも税金を払い、なんとか日本の食料自給率を保つように力を尽くしています。

それはとりもなおさず、「日本列島の日本人は一体となって、みんなの幸福を願っている」からです。そして、日本国憲法は「自衛(憲法9条は自衛権を否定していない(最高裁判所判決))、個人の自由な生活(幸福の追求や言論などの自由)、国会議員の選挙権などを保証しています。まさに「日本人が群れとして最低の環境を整える」というのを憲法が定めているのです。

ところが、法律を作るときに間違ったものがあります。その一つが、「商法」です。商法は明治時代にフランス商法、のちのドイツ商法などを参考にして、若干、日本の商慣習を取り入れたもので構成されていますが、特に戦後の改正では、「株主」や「会計」を中心として進み、その間、「従業員」はまったく無視されてきました。

つまり、日本に住んでいる限り、企業や自営業など多くの人が何らかのビジネスを行って生計を立てているのですから、日本人の幸福と商法は密接に関係しています。だから、商法では十分に「日本人の幸福に役立つ商業」を前提にしなければならないのですが、全く無視されています。

日本には「社員に心を砕く経営者」がいなくなった

今から300年ほど前、ヨーロッパの近代化に伴って「資本を持つ資本家が、労働者を集めてビジネスをする」という形態が誕生しました。それまで村の共同体でみんなのために働いていた人たちは、「お金がすべて」の世界に違和感を感じて、マルクスなどが「共産主義」を生む原因になったのです。

その後、資本主義も少しずつ修正され、人間を奴隷のように使われないように、労働組合、ストライキなどが認められてようやく「人間らしい資本主義」に代わっていったのですが、戦争のあと、全体的に豊かになったので、労働組合などが衰退し、再び「お金が全て、人間は奴隷」の方向に進んできました。

もともと、会社も従業員が「社員」で、従業員の幸福のために経営者は心を砕いたのですが、現在のように「会社は株主のもの。従業員は社員とは言わない」となってきました。

でも、少し深く考えてみると、会社がその仕事をするために必要なものは、第一に社員(従業員)、第二に経営者や管理者、そして第三にお金です。つまり、お金がすべてではなく、逆に言えば「人が全て」とも言え、それはどちらに注目するかだけで決まるのです。

資本家がお金で株を買って従業員を雇っているとも言えるし、日本国民が集合して会社で仕事をして必要なお金を株を発行して集めるとも言えるのです。だから、現在のように株主総会で会社の方針を決めるのではなく、従業員総会で会社の方針を決めてもよいのです。

image by: Andrei Kholmov / Shutterstock.com

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中部大学教授の武田邦彦です。主に環境問題や資源に関して研究を行っております。 私のメルマガでは、テレビや雑誌新聞、ブログでは語ることが出来なかった原発やエネルギー問題に鋭く切り込みます。

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