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秋篠宮さま「異例の疑義」に批判的な読売、理解を示した朝日

53歳の誕生日を迎えられた秋篠宮さまの、大嘗祭への公費支出に疑問を呈されたご発言が波紋を呼んでいます。「憲法上の問題」を巡り専門家の意見も大きく割れていますが、新聞各紙はどのように扱ったのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。

秋篠宮さまの「大嘗祭への公費支出に疑問」を新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「大嘗祭 国費支出「適当かどうか」」
《読売》…「『保存・修理・公開』一体に」
《毎日》…「仏、日本に首脳交渉要請」
《東京》…「大嘗祭 公費に異議」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「秋篠宮さま『政教分離』発言 波紋」
《読売》…「徴用工 賠償判決の流れ」
《毎日》…「民間力導入 水道分岐点」
《東京》…「政府決定に異論 波紋」

【基本的な報道内容】

秋篠宮さまは53歳の誕生日を前に会見し、天皇の代替わりに行う皇室行事である大嘗祭について政府は公費を支出すべきではないとの考えを示した。この考えを宮内庁長官らに伝えたが「聞く耳を持たなかった」として、「非常に残念なことだった」と述べた。

政府が決定した方針に、皇族が公の場で疑義を呈するのは異例。秋篠宮さまは来年5月の天皇代替わり後、皇位継承順位1位で、皇太子待遇の皇嗣」となる。

前回、90年に行われた大嘗祭では公費である宮廷費22億5000万円が使われたため、「政教分離に反する」との批判があった。今回も政府は「宗教的性格」を認めつつ、「伝統的皇位継承儀式で公的な性格があるとして宮廷費から支出することを決めている。

秋篠宮さまは公費である「宮廷費」からではなく、私費である内廷会計で賄う、「身の丈に合った儀式にすべきとの考えで前回から同様の意見を述べていたという。秋篠宮さまによれば、天皇陛下からは、即位関係の儀式などは皇太子さまとよく相談して進めるよう伝えられていて、「ご理解を頂いて進めている」としている。

宮内庁の山本長官は「聞く耳を持たなかったと言われるとつらいが、そのようにお受け止めになったのであれば申し訳ない」と話している。

秋篠宮さまの会見での発言の該当部分

 

具体的にもし言うのであれば、例えば、即位の礼は、これは国事行為で行われるわけです、その一連のものは。

ただ、大嘗祭については、これは皇室の行事として行われるものですし、ある意味の宗教色が強いものになります。私はその宗教色が強いものについて、それを国費で賄うことが適当かどうか、これは平成のときの大嘗祭のときにもそうするべきではないという立場だったわけですけれども、その頃はうんと若かったですし、多少意見を言ったぐらいですけれども。

今回も結局、そのときを踏襲することになったわけですね。もうそれは決まっているわけです。ただ、私として、やはりこのすっきりしない感じというのは、今でも持っています。

整理の仕方としては、一つの代で一度きりのものであり、大切な儀式ということから、もちろん国もそれについての関心があり、公的性格が強い、ゆえに国の国費で賄うということだと。平成のときの整理はそうだったわけですね。

ただ、今回もそうなわけですけれども、宗教行事と憲法との関係はどうなのかというときに、それは、私はやはり内廷会計で行うべきだと思っています。今でも。ただ、それをするためには相当な費用が掛かりますけれども。

大嘗祭自体は私は絶対にすべきものだと思います。ただ、そのできる範囲で、言ってみれば身の丈にあった儀式にすれば。少なくとも皇室の行事と言っていますし。そういう形で行うのが本来の姿ではないかなと思いますし、そのことは宮内庁長官などにはかなり私も言っているんですね。ただ、残念ながらそこを考えること、言ってみれば話を聞く耳を持たなかった。そのことは私は非常に残念なことだったなと思っています。

渾身の問題提起

【朝日】は1面トップに2面の解説記事「時時刻刻」、33面会見要旨、35面にも。見出しから。

1面

2面

35面

uttiiの眼

《朝日》は秋篠宮さまの発言に理解を示しつつ様々な見方を伝えている。

2面「時時刻刻」は例によって“時系列”的な記述で、秋篠宮さまの会見の周辺情報を伝えた後、専門家らの評価を書き並べている。横田耕一氏は「大嘗祭は宗教儀式。公金を使うことは政教分離を定めた憲法に照らして許されない。発言はもっともだ」という。島薗進氏も「大嘗祭への公費支出は日本の立憲体制にそぐわない。秋篠宮さまは皇室の神道行事が戦前のように国家行事的な性格を持つことを懸念し、政府や国民に問題提起したのでは」と推量。反対に批判的なのは所功氏で、「大嘗祭は皇位継承の伝統行事として、公費を支出した前回の方法はおおむね国民の了解を得ている」と、また「大嘗宮の建設だけでも莫大な費用が掛かり、内廷会計私費ではまかなえないのでは」とも。

また、秋篠宮さまの発言自体を「政治的発言」とみるかどうかについても議論が分かれている。今回秋篠宮さまは、即位の礼など「国事行為」に意見を述べることはできないが、「皇室の行事」である大嘗祭については「私の考えというものもあってよいのでは」と前置きして持論を述べている。これについて河西秀哉氏は、「政府の決定に公の場で異論を唱えており不適切だ」と明確に否定している。他方、横田耕一氏は「憲法の制約を受けるのは天皇のみで、皇族は政治的発言が可能」という。しかも、今回の発言は決定済みのことについての意見で問題ないとする。山本宮内庁長官が「政治的発言ではない」としているのも同じ意味合いのようだ。

秋篠宮さまを含め、天皇家の人々は、まともな感覚を保持している人たちだなあとつくづく思う。象徴天皇の代替わりという国家的な行事に対応するのは「即位の礼」であって、大嘗祭などの宮廷行事は宗教的な行為。節約という意味はむしろ副次的で、本来の行事の伝統性を厳格に守るためにも、そのような切り分けが必要という面もあるだろう。

2面記事の末尾には皇室担当キャップ・島康彦記者による「視点」が付いていて、それによれば、昭和天皇は生前、内廷費を節約して積み立ててはどうかと話したことがあり、弟の高松宮さまなどは「大嘗宮を建てなくてもいいのでは」とまで言っていたらしい。秋篠宮さまは、宮内庁が「聞く耳を持たなかった」と言ったが、政府は戦後ずっと天皇家の人々からの呼び掛けに聞く耳を持たない」状態だったとは言えまいか。このことこそ、そうした政府の姿勢こそ天皇の政治利用」と見做すことも可能だろう。

秋篠宮さま自身は、来年の天皇代替わりとともに皇嗣となる身。今回の発言は、ほとんどラストチャンスと見定めての、渾身の問題提起だったのではないだろうか。

秋篠宮さまに対して「批判的」なトーン

【読売】は1面左肩に2面の関連記事、35面に会見要旨と特集、38面にも関連記事。見出しから。

1面

2面

38面

uttiiの眼

1面記事は「本記」的な内容だが、気になる表現があった。秋篠宮さまが大嘗祭は絶対にすべきだが「身の丈に合った儀式で行うのが本来の姿」だとし、「聞く耳を持たなかった」宮内庁長官に苦言を呈したとした後、「新天皇として大嘗祭に臨む皇太子さまは公費支出を了解されている」と書いている。これは、「了解している」と発言したという意味だろうか。主催者である新天皇が、政府が決めた支出に対して了解しているという意味の発言を敢えて行うようなことがあったのではあれば、ニュースになっていると思うが…。

2面の記事は、秋篠宮さまに対する、かなり批判的なトーンの記事になっている。まず、宮内庁長官は「大嘗祭は皇位継承に伴う重要な、伝統的な儀式で、平成の代替わりで様々な議論を経て公費支出が決まったと、秋篠宮さまに説明してきた」として、政府、宮内庁側の「努力」を強調。それに納得しない頑迷固陋の秋篠宮さまという印象が文章の裏側に滲む書き方になっている。さらに、平成の大嘗祭に対する訴訟は最高裁の判決が確定していて、「憲法問題は決着済みだ」と畳みかける。平成の大嘗祭の費用は22億円かかり、「秋篠宮さまが言及された内廷会計内の貯蓄を充てても、規模の縮小など、大幅な見直しを迫られる」とする(秋篠宮さまは「身の丈に合った」という言い方で、まさに規模の縮小を望んでいるのだが…)。発言の政治性についての専門家の意見も、秋篠宮さまに「同情的」という小田部雄次氏を別とすれば、政治的な発言として問題視するという八木秀次氏、「憲法違反とまでは言えないが、皇族の行動規範がないため、こうした発言が問題になる」と指摘したという「別の憲法学者」まで、批判的な評価が並んでいて、「問題ない」という有力な意見が全く紹介されていない。

全体にかなりバランスを失した記事内容になっている。

問題提起は8月から始まっていた

【毎日】は1面左肩と社会面30面に関連記事。見出しから。

1面

30面

uttiiの眼

《毎日》は比較的サラッとした報道ぶり。実は、今年8月末に、秋篠宮さまが大嘗祭に公費を支出するべきではないという考えを宮内庁幹部に伝えていることが分かったというスクープ記事を掲載していた。他誌の後追いはなく、続報もなかったが、今回と全く同じ話を《毎日》が報じていたわけだ。

1面記事は、秋篠宮さまの今回の発言について、「皇族が政府の判断に否定的な見解を公言するのは珍しい」と書いていて、こうしたケースではつい「異例」と書きたくなるものだが、「珍しいという柔らかい表現を選んでいる。

30面記事の大見出しは「秋篠宮さま 問題提起」となっていて、発言に理解を示す、《毎日の姿勢が出ている。さらにリードには、大嘗祭への公費支出について「懸念を抱いていることは、これまでも関係者への取材で明らかになっていたが、来年5月に皇位継承順位1位の皇嗣となる皇族が公言する意味は重い」として、発言の意義を積極的に捉えている。因みに、「これまでも関係者への取材で明らかになっていた」という部分が、上記した8月末のスクープに対応している。

30面記事の後段はこれまでも注目された皇族の発言のなかから、三笠宮さまが紀元節を「建国記念の日」として復活させることに反対したこと、三笠宮さまの長男、寛仁親王が女性・女系天皇容認論に異を唱えたこと、そして秋篠宮さまが天皇の定年制に言及したことを挙げている。

最後に今回の秋篠宮発言についての専門家の評価として、「問題とは思わない」という高橋和之氏と、表現に配慮すべきだったとする所功氏の意見を紹介し、バランスを取っている

憲法上の問題はないのか

【東京】は1面トップに2面の解説記事「核心」、6面に会見詳報、31面にも関連。見出しから。

1面

2面

31面

uttiiの眼

《東京》は、1面記事のリード末尾で、「皇族が公の場で、政府方針に異を唱えたのは極めて異例」としている。また末尾に編集委員である吉原康和記者による「解説」があり、記者は「憲法は天皇の国政関与を禁じているが、皇族についての明文規定はない。皇族も天皇に準じて政治的発言は控えるべきだとの声はある。だが、今回の発言は、皇室行事について皇族の立場から『身の丈に言った儀式が本来の姿』との考えを示したものだ。本来、宮中祭祀を含む私的な皇室行事の中身については、皇室自身が決めるべきだ」と秋篠宮発言に理解を示している。至極真っ当な考え方だと思う。

2面で注目されるのは次の記述。秋篠宮さまの発言は「税の使途に厳しい目を向ける庶民の感覚に近く歓迎されそうだ」としている部分。バブル経済のただ中に、22億円超という巨費を投じて行われた前回の大嘗祭のようなものを否定し、まさしく「身の丈に合った」ものを皇室の私的な行事として行いたいという感覚は、やはり正常なものと言えるだろう。また、秋篠宮さまの発言には、「節約」や、「公費支出を遠慮する」感覚を読み取ることも可能だろう。勿論、それだけではないが。

2面記事は、この秋篠宮さまの発言が憲法上問題となるか否かについて、対立する専門家の意見を紹介している。南野森氏は、「天皇は政治的中立性が求められ、皇位継承順位が高い皇族も同様と考えられている」としなから、「皇室の私的行事に関係者の1人として私見を述べたことは、ぎりぎり憲法上の問題はないとの評価も可能」」とする。しかし同時に、「皇族が政府決定に異を唱えるようなことになると、憲法の定める象徴天皇制との緊張関係が高まるため発言は慎重であるべきだ」と指摘したというが、否定から肯定へ、また肯定から否定へと評価が揺れていては、何が言いたいのか分からない。一方、園部逸夫氏は秋篠宮発言が記者の質問に答えたものである点を捉え、「所管や感想を述べることは当然あるし、発言すべきでないというなら会見する意味がない」と分かりやすい。さらに、《朝日》も紹介していた横田耕一氏は「政治的権能を持たない象徴天皇とは違うので、皇族が政治的発言をすること自体は憲法上の問題はない」と言い切っている。

《東京》が紹介している専門家は、リベラルに偏っているが、その中でもかなり厳しい意見の対立がありそうだ。天皇制にかかわる議論の細部は、依然としてかなりの程度に論争的な分野になっていることが分かる。今回の秋篠宮さまの発言は、天皇制を巡る様々な議論の、非常に微妙なところを抉ったということだけは言えそうだ。

image by: shutterstock

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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