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厚労省に疑問。メスを振るう領域に「そろばん」を持ち込む不見識

高齢者の増加と労働人口の減少は、日本の社会が構築してきたさまざまな仕組みに歪みを生じさせています。メルマガ『8人ばなし』の著者・山崎勝義さんは、中でも、年金と医療保険は深刻な状況にあり、特に医療保険制度については、国家といえども口出しすべきではない領域にまで踏み込み始めていると指摘し、警鐘を鳴らしています。

医療費削減政策のこと

高齢者が増え、現役労働人口が減れば、当然財政は厳しくなる。中でも年金と医療保険に関しては現状の人口構成では到底収支が合う筈もなく、ことは既に如何に解決するかというより、如何にごまかすかという段階に至っている感すらある。

それでもまだ年金の方は世代間互助の制度である分それなりにごまかしようもある。例えば「100年安心プラン」といった具合にである。ところが医療費に関しては「将来」という免罪符が使えない分シビアにヤバいとしか言いようがない。

実際ここ数年、医療費を無駄に使わぬようにといった下達が厚労省から出されない年はないほどである。と、まあここまではいい。「無駄に」という文言が付いている。つまり節約しろということだからである。ところが今年度に入ってから、とにかく医療費は使うなといった上意が露骨に医療の現場に圧力を掛け始めているのである。要はケチれということである。

一般的に保健医療を受ける場合、初診料を除けば医師に払う金額は大した額ではない。正直、何百円の世界である。寧ろ高くつくのは薬代の方なのである。それでも処方箋を書くのは医師だからどうしても圧力はこちらに掛かる。医師としてはとんだ迷惑である。こんなふうに書けば何となく滑稽な話のようにも聞こえるかもしれないが、実際にはこれは役所による医師の処方権の侵害であり、大問題である。

これによる弊害も出て来ている。例えば今、ある症状に対して効果のある薬Aがあるとする。そしてこの薬Aの薬効を補助するものとして薬Bがあるとする。教科書通りならまずAを処方し、十分な効果が得られなかったらBを追加、で問題はない。しかし個々人の薬に対する反応はそれこそ千差万別である。中にはAもダメ、AプラスBもダメ、なのにBだけなら調子がいい、ということも決してレアケースではないのである。にもかかわらず、役所は半強制的に教科書通りの処方を医師に強いているのである。

この結果、患者は必要な薬Bを処方してもらえなくなるか、必要な薬Bを処方してもらうために不必要な薬Aを謂わば捨て薬のように処方箋に書き加えてもらうしかなくなる。これこそ、とんだ無駄遣いである。

医療(ここでは特に投薬)は常に必要十分でなければ全く意味が無い。不十分なら患者の容態は悪化する一方だろうし、不必要なら肝機能を始め身体に対し徒に負担を掛けることになる。そして不十分不必要な投薬(広義には医療行為全般)は、さらなるメディカルケアを必要とする事態をも招きかねず、ただでさえ貴重な医療費が悪循環的な浪費によって際限なく使われてしまうこととなる。

そういう訳で、役所つまりは厚労省に対して苦言を呈したい。「医師の処方権に口を出すな」これは単に医療費といった金の問題だけではない。目の前の患者に対し責任がある(言い換えれば責任を取る)のは、治療に当たる医師なのである。その医師が必要としたなら、教科書通りの処方だろうが、応用的処方だろうが、創造的処方だろうが、黙って認めればいいのである。生命を挟んで対峙する患者と医師の間には如何なる余人も(それがたとえ官権であっても)口を出していい筈がないのである。

かつて「医は仁術」と言われた。そこまでの人情論にするつもりはないが、メスを振るう領域にそろばんを持ち込む不見識だけは何としても止めさせなければならないと思うのだが、どうだろうか。

image by: shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

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