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「株価急落」などまだ甘い。あえて年末にする近い未来の怖い話

10月2日に2万4,270円62銭と約27年ぶりの高値をつけたものの、12月25日には1年3ヶ月ぶりに2万円を割り込んでしまった日経平均株価。年末に来てまた1つ日本にとって明るくない材料が増えてしまったことになりますが、これから先、さらに我が国にとって好ましからざる未来が待ち構えているようです。米国在住の作家・冷泉彰彦さんがメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』でその「未来」が高確率で起こる可能性を解説。さらにそんな事態をプラスに変えるため日本が取るべき5つの具体策を上げています。

アベノミクスの出口戦略は可能なのか?

アベノミクスについては、基本的に「プラスでもマイナスでもない」という考え方を取って来ました。まず異次元緩和については、本来は「潤沢な資金を低利で供給することで企業がカネを借りやすくする」のが目的です。確かにその目的は達成されてはいません

国内経済が低迷する中で、銀行は融資に慎重ですし、企業にしても設備投資には慎重です。ですからいくら資金があるとか、利息が低いと言って、その効果は限定的だからです。では、そんな金融緩和はダメであって、反対に金融を引き締めたほうがいいかというと、それで何かメリットがあるかというとないわけです。

緩和の結果として出て来た円安もそうです。円安で輸出が好調というのは、別に間違いではありませんが、以前ほどではありません。現在の日本経済における円安メリットというのは、ドルに倒すとコストが安くなって海外で売りやすいということよりも、多国籍企業が「開発も生産も販売も全部海外で」行って、そこで稼いだ「ドル建ての利益が円安になると膨張して見える、それ以上でも以下でもないわけです。

では、そんな円安はファンタジーを生むだけだから円高にしたらいいかというと、別にそういうわけでもありません。

一方で、いやいや利益が膨張と言っても、株高は富裕層にメリットがあるし、史上空前の利益の結果として配当金はしっかり払われているという声もあります。ですが、これも日本株の中における外国人比率を考えると、かなりの部分が流出しているわけで、日本の国内経済への好影響というのは限定的です。

そうではあるのですが、では多国籍企業の業績が悪く、株価が低く、配当も低い方がいいのかというと、それも違うと思います。アベノミクスというのは、日本経済にとって本質的なプラス効果というのはありませんが、だからと言って止める筋合いのものでもないのです。

ちなみに、以上の議論は「第一の矢」の話であって、肝心の「第三の矢」つまり日本経済全体の構造改革ということでは全く進んでいません。第二次安倍政権が発足してもう丸々6年になるのですが、企業の生産性については「低い」ということが共通理解になったのが「大きな進歩」であるぐらいで、実際にその改善には手がついていないからです。

まして、金融、ソフト、バイオ、医療、宇宙航空といった高付加価値先端産業へのシフトに関しては、全くもって遅れたままです。この点に関しては、安倍政権はほとんど何もできていないということが言えます。総理、財務相、経産相などの顔ぶれを見ても「改革ができないと日本が滅ぶ」というような危機感が表情に出るタイプの人材ではないし、そこを期待するのはもう無理なのかもしれません。

問題は、その点ではありません。

年末に怖い話をするのは恐縮ですが、アベノミクスについては、出口戦略を考えなくてはならない事態が近づいているような気がしてなりません。

どういうことかというと、日本経済というのは決して優等生ではなくボロボロなのは事実ですが、それでも「比較優位の立場に押し出されてしまう危険があるからです。

まずアメリカですが、本稿を整理している12月24日のクリスマス・イブは、ダラダラと株価が低迷しており、大変に不気味な様相を呈しています。理由は大きく3つあります。

まず1番目としては、トランプ大統領がFRB連銀のパウエル議長を更迭したがっているという問題があります。FRBというのは独立機関ですから大統領がトップをクビになどできないのですが、大統領は今回の利上げでカンカンになっており、猛烈な圧力をかけているということです。そんなことがまかり通るようでは、米国の通貨制度の信用にも関わるわけで、市場としては嫌気がするのは当然です。

これに加えて、2番目としては、23日の日曜日にムニューシン財務長官が、モルガン・スタンレーのダイモンCEOをはじめとする大手銀行のトップに電話をかけまくって確認した上で、「米国の景気は大丈夫だし、各銀行の資金も大丈夫」などという「意味不明な発表」をしたというニュースが嫌われています。

更に3番目は、無意味な「国境の壁」にこだわって「平気で政府閉鎖をやる」という政権の姿勢の問題があります。同時にマティス国防長官に逃げられ、ホワイトハウスの首席補佐官も決まらないという政権内のガタガタも嫌がられています。

こうした流れの背景にあるのは、勿論、お互いを傷つけるだけの「中国との通商戦争」です。この問題、年明けに出口は見つかるのか、アメリカの市場は怯えていると言っても過言ではないと思います。つまり、徐々にではありますが、トランプの株安というのが加速しているのです。一部には「暗黒のクリスマスイブ」という言い方さえされており、「年末休暇後の市場を先取りしたもの」(CNBCのジム・クレマー)などという不吉なコメントも飛び交っているのが現状です。

さて、アメリカがそんな具合である一方で、相手方の中国ですが、不正の摘発をやっているのは良いことだと思います。また、不正摘発に加えて、公営企業のリストラや、不良化した過剰インフラの放棄など、権力を集中させることで、思い切った「過去への決別」をやっているのも他に方法はないとも言えます。

ですが、それでも中国には過剰な生産設備がウジャウジャあります。また、高度な知的産業に転換できない労働力もあります。そんな中で、民間ベースではまだまだ設備と人のリストラが必要です。その痛みと、トランプの貿易戦争が「相討ちになった場合の出血」が重なった場合に、経済がハードランディングになる可能性はあると思います。

経済がボロボロのロシアは、そもそも経済規模が小さいですから無視できるにしても、欧州は非常に問題です。例えば、英国のEU撤退で英国の景気が思い切りダメになる可能性はありますし、フランスもドイツも経済には爆弾を抱えているようなものです。仮にトランプがイランとの間で、軍事紛争を含む過激な行動を始めるようですと、よりイランに近い欧州の経済社会は余計にガタガタする可能性もあります。

つまり、経済ということで言えば、この年末年始、つまり2018年から2019年にかけての状況というのは、非常に厳しいし先行きということでは極めて不透明だということができます。

では、日本経済もこれを受けてマズい状況に陥るのかというと、確かにその危険は覚悟しなくてはなりません。では、日本経済もマズいのであれば、円安で安定するのかというと、そこが問題です。

2008年のリーマンショックの際がそうであったように、このボロボロの日本経済も「世界中がもっとボロボロ」である中では、比較優位に立ってしまうという可能性があるのです。

その理由としては、「国家債務は巨大でも、個人金融資産でまだ相当部分がチャラにできている」「消費税率が8%から10%と他国よりは低いのでまだまだ取れる」という中では、日本の経済財政というのは「他よりははるかにマシ」に見えてしまうからです。

更に言えば、日本経済の地盤沈下のおかげで世界の通貨市場に占める日本円の地位は縮小しています。

ということは、2019年に世界経済が大きく崩れていく場合には、日本は比較優位ということから、自分たちでは全く実感できなくても、世界が勝手にまぶしく思ってしまうということがあり得ます。その上で、ドル安やユーロ安の圧力が、一気に円に来て「円高に振れてしまうという可能性があります。

アベノミクスは、自分たちで慎重に出口を模索するのではなく、世界経済から強くプッシュされる格好で出口へと押し出されてしまう、そのような可能性を感じます。

その場合ですが、急速な円高で「輸出は不振」「海外の利益は円建てでは圧縮される」「訪日外国人が激減し、インバウンド消費が不振に」「せっかくの原油安が円高で帳消しに」というような現象が起きるのは避けられません。

そこで必要なのは、焦らずに大局観に立って、次のようなことを進める姿勢です。

1つは、「国内の非効率な紙と日本語と時間を消費するだけの事務仕事コスト」は円高になれば、ドル換算すると「誰もが支えられなくなる」思われます。ということは、円高になれば必然的にメスが入ると思います。これをラストチャンスだと思って、否が応でも生産性、本物の生産性を実現しなくてはならなくなります。

2つ目は、強い円を使って特に若者を留学させるということが考えられます。その際に「単位は取ってこなくていい」という「飛び立てないジャパン」などというバカバカしい留学制度ではなく、海外で真剣勝負をする若者をどんどん送り出し、今度という今度は戻って来た人材を「ちゃんと活用する」ということが考えられます。

3つ目は、過去の失敗は過去として、今度こそ強い円を使って「日本経済にプラスになるM&A」をやって、技術力を補完していくということが必要です。

4番目としては、日本円が強ければそこで稼ごうということで、国際市場から優秀な人材が入ってくるわけです。その流れの中で、ソフトウェアとか金融を、今からでも遅くないので、アジアのリーダー格から落ちないようにテコ入れしていくということは考えられます。

5番目は、円高トレンドが続けば、ドル建ての投資を呼び込めるわけです。つまり、本当の意味で日本株は買われて、日本に資金が流入してくる可能性は出て来ます。

いずれにしても、アベノミクスの出口戦略というのは、そのような産業構造の問題、日本経済を巡る大局観の問題として取り組んでいくことが求められます。

難しい課題ですが、年末年始の宿題として、皆さまの多角的な検討をお願いしたいと思います。

image by: Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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