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また騙すのか。小型原発で延命をはかる原子力ムラの悪あがき

世耕弘成経産相が国会で行った「原発の新設、建て替えは全く考えていない」という答弁は、嘘だったのでしょうか。経済産業省が小型原発の開発を進めることが報道により明らかになりました。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、なぜ国が今に至って小型原発開発に舵を切ったのかを推測するとともに、「原発に費やす資金があるのなら、再エネの新技術開発に投じるべき」と痛烈に批判しています。

小型原発で延命をはかる“原子力ムラ”

昨年夏以降、経産省はエネルギー基本計画の見直しにとりかかった。狙いは原発の新設建て替えを計画に盛り込むことだった。

再稼働できても、いずれ原子炉の寿命は尽きる。新たに造らない限り、この国の電源から原発はなくなるのだ。

しかし今年4月28日、経産省が有識者会議に示したエネルギー基本計画の骨子案には、原発を「重要なベースロード電源」としながらも、原発の新増設が明記されることはなかった

このため、有識者会議の財界メンバーからは原発新設の必要性を唱える声が上がった。

その理由は「石油や石炭など化石燃料は将来的に枯渇する恐れがある。再生エネだけで代替することはできない」(有識者会議分科会長、坂根正弘コマツ相談役)などというものだ。

坂根氏は有識者会議において、日本の再エネ技術は中国などに太刀打ちできない、むしろ原子力の技術をどうやって維持するかが大切だ、という論陣をはってきた。

遅れているものを追うより、優れている技術を捨てずに保つべき。一見、正論のように思える。

だがそこには、産業競争の理屈だけがあって、生命と技術の豊かな関係を求める視点が抜け落ちている。

福島第一原発の事故は、原子炉冷却装置の電源が切れただけで、時間、空間をこえた放射能の無限リスクにつながるという戦慄すべき事実を、人類に突きつけた。

原子力が低コストというのはウソで、捨てる場所さえない核のゴミが地球にたまり続けることもよくわかった。

原発を新設するといって莫大な周辺対策費を示されても、もはや受け入れる自治体などないだろう

そんな状況に置かれながらも、なんとか原発新増設への道筋をつけるべく、経産省と有識者会議は、エネルギー基本計画を見直す議論を進めたはずである。

ところが、骨子案にそれに関する記載はなく、有識者会議の財界メンバーから異議を唱える声が上がったのだ。“出来レースのニオイがプンプンする

実は、この時すでに経産省は原発を将来にわたって生き延びさせるための具体的な案を練っていたのだ。

それは、小型原発の開発である。経産省は国会やメディアで批判のマトになるのを避けるため、基本計画からその構想をあえて外した。有識者会議のメンバーが知らなかったとは思えない。

今年12月1日付の東京新聞に、こう報じられている。

地球温暖化対策を名目に、経済産業省が新たな小型原発の開発を進め、2040年ごろまでに実用化を目指す方針を固めた。…新方針は11月14日、経産省内で開かれた非公開の国際会議で、同省資源エネルギー庁の武田伸二郎原子力国際協力推進室長が表明した。本紙は武田室長に取材を申し込んだが、応じていない。

国際会議で表明するほどだから、単なる思いつきではない。ある程度の時間をかけて練り込まれた末の方針だろう。

産業界における小型原発開発の動きは今年10月、いくつかのメディアで報じられていた。

日立製作所が米ゼネラル・エレクトリック(GE)と新型の小型原子炉を採用した原子力発電所の開発に取り組むことが15日、分かった。出力30万キロワット程度の「小型モジュール炉(SMR)」…2030年代の商用化を目指す。SMRは従来の原子炉に比べ低コストで安全性が高いとされ、主に海外への輸出を狙う。
(産経ニュース)

日立とGEが開発に取り組もうとしている「SMR」と、経産省が開発方針を固めた小型原発が同じものなのかどうか、関連は明らかではない。

日本における小型原発の構想は、福島原発事故後の2012年10月、元電力中央研究所理事(工学博士)、服部禎男氏が提案したのがはじまりだ。その後、東芝原子力部門の技術者が開発を進めたとされる。

「4S」と呼ばれる小型ナトリウム冷却高速炉で、機械、装置の数が少ないため安全性が高くどこにでも置けるというのが売りだった。

「4S」と「SMR」の設計理念の違いは今のところ、さっぱり分からない。世界を見渡すと、小型原発についてはいくつもの取り組みがある。英ロールス・ロイスの小型加圧水型軽水炉、カナダのテレストリアル・エナジーの「溶融塩炉」などだ。

いずれにせよ、小型原発は、100万キロワットを超す既存の大型原発と違い、工場で製造したモジュールを現地で組み立てる建設方法が可能であるらしい。

しかし、こうした新開発計画が、原子力ムラの悪あがきのように見えて仕方がないのは筆者だけではあるまい。

小型、大型にかかわりなく、核のゴミの処分方法が確立されていない以上、新たに造ってはいけないし、既存原発もゼロにしていかなければならないのである。原発には100%の安全が求められるが、どんな技術にも完璧はありえない

だからこそ脱原発が叫ばれるのだが、原子力ムラの住人たちは、培った技術の高さ、儲かってきた記憶など、過去の栄光が呪縛となり、原発を諦めることができない。

福島原発事故は想定外の津波による特殊ケースだといったバイアスも、原子力の将来への奇妙な楽観を生んでいる。経産省の役人たちにしても原発関連の数多くの天下りポストを捨てたくはないだろう。

東京新聞の記事によると、資源エネルギー庁の武田室長は小型原発計画について、地球温暖化防止の「パリ協定実現のため、と述べたという。

地球温暖化防止のために、CO2を出さない原発が必要という論法は、再生可能エネルギーが普及期に入った今では通用しなくなっている。今後、蓄電技術の発達や、AIの活用などが進むことにより、再エネの不安定要素を十分カバーできるだろう。

世耕弘成経産相は国会で「原発の新設建て替えは全く考えていない」と答弁している。それでも、2030年に原発の割合を20~22%にする目標は変えていない

ならば小型原発を例外として多数建設し、20~22%の数字目標を達成するつもりなのかと思ったら、東京新聞によると、「小型原発は出力が不安定な再生エネをサポート(補完)するのに必要」と、あくまでサブ的な役割を強調しているようなのだ。

そもそも小型原子炉は出力が30万キロワット程度しかなく、まだどこも事業化したことのない技術である。理論的には成り立っても、実際に建設し運転していない現段階で、経済合理性があるかどうかもきわめて怪しい

にもかかわらず、小型原発の開発計画を今になって経産省が引っ張り出してきた背後に、原子力ムラの巨大な力が働いていることは容易に想像できる。

原発建設にかかわる電力会社、原子炉メーカー、ゼネコン、それらをめぐるあまたの取引企業。その利益共同体は、国民からの電気料金を源泉とする豊富な資金でマスコミに広告料を提供、学者に研究開発費を拠出し、官僚には「天下りポスト」、政治家には「政治資金」を提供して、“わが世の春”を謳歌してきた。

しかし、福島原発事故は状況を一変させた。国内で原発の新増設が難しくなったため、政府と原子力ムラは、原発を国外に輸出することで夢の継続をはかったが、東芝は子会社、米ウェスティングハウスの原発建設にかかわる巨額損失で経営の屋台骨が揺らぐ事態となった。日立製作所もまた、英国での原発新設がうまくいかず、計画を凍結する方向だ。

いずれも福島原発事故後に厳しく求められた安全対策による建設コストの急騰が主な原因だ。

ほかにも、ベトナムへの原発輸出が白紙となり、トルコやリトアニアで日本が受注した原発も、住民の反対で行き詰っている。

もはや、実績ゼロゆえに新たな幻想をつくりやすい小型原発しか打つ手がなくなったということだろう。

しつこく言うようだが、原子力発電の最大の矛盾は、いつまでも放射能を出し続ける使用済み核燃料の処分方法が確立されていないことだ。

いずれ、科学技術の力で克服できると踏んで、とりあえずスタートさせたものの、最終的に地中深く埋めておく処分場が、候補地住民の反対でいっこうに見つからず、使用済み核燃料は各原子力発電所のプールに貯まり続けている。

その解決策だった「核燃料サイクル」は、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まったことで、頓挫した。使用済み核燃料の行き場がなくなれば、いずれ、原発の運転を止めざるを得ない。

経産省の考える小型原発が、高速炉なのかどうかも、はっきりしない。かりにそうだとしても失敗続きで兆単位の莫大なコストを垂れ流した「もんじゅの二の舞になるのがオチではないだろうか。

石油や原子力などを使った大規模発電所による集中的な電力システムは環境、コスト、安全保障、持続可能性からいっても、もはや古い仕組みになってしまった。「だから小型原発なのだ」と言うかもしれないが、核のゴミが出るのは同じであり、地球環境を守るという考えに逆行している。

原発に費やす資金があるのなら、再エネの新技術開発に投じるべきである。

image by: shutterstock

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