数々の国際舞台で交渉人を務めた島田久仁彦さんが、新年最初のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、2019年の国際情勢を予測しています。日韓関係では武力衝突が起きてもおかしくないと考える理由を、中東情勢ではカギを握るトルコの動きについて解説しています。
2019年、悪化する日韓関係はどうなる
2018年の最終号(2018年12月28日号)では「2019年大予測」と題していろいろと書いてみました。そこで挙げた項目については、さほど今も違いはありませんが、やはり2019年の運命を占うのは、幸か不幸か「アメリカが国際社会において、いかに振舞うか」、そして「アメリカの国内情勢はどうか」という点に左右されることになりそうです。
そして、米中貿易摩擦が再燃する3月、今月もしくは2月にでも開催が噂されるが、一向に準備が進まない米朝首脳会談、中国経済の成長鈍化がもたらすアジアの新興国経済の停滞など、アメリカ絡みの懸念が盛りだくさんです。日本絡みでは、ロシアとの間で進められる北方領土問題返還交渉の行方が波乱要因です。2島返還で落ち着くのか。それともロシアサイドからの難条件付帯による交渉の挫折か。2019年は日ロ両国での駆け引きが激化し、うまく行く場合でも、返還が叶わない場合でも、恐らく2019年が北方領土問題に関する交渉のラストチャンスになるだろうと考えています。
そして、悪化の一途を辿る日韓問題。これは、日本での嫌韓論の高まりや、韓国での日本バッシングの激化という“表面的な”問題にとどまらず、現在の状況が続く場合、日韓での武力衝突が起きかねないほど緊張が高まっています。何かしら偶発的な衝突があった場合、一気に武力衝突が起きかねないと懸念しています。
その理由は、アメリカが韓国に関心を失っていることから、2019年にも在韓米軍の引き上げを行う可能性が出てきていることと(マティス国防長官の辞任がこれを決定的にしました)、通常ならば非難をするはずの中国も、韓国絡みの緊張については、口を挟もうとしていません。もちろん米中貿易摩擦の影響もあるでしょうが、今は、関心も利益もない韓国に肩入れして、アメリカと日本を怒らせたくないとの意図が働いています。ゆえに、現時点では、武力衝突をけん制する動きを周辺国は取らないという、非常に危険な状況に見えます。
中東地域のパワーバランスのカギを握るトルコ
あとはBrexit絡みのヨーロッパ情勢でしょうか。今月21日までには国内での合意を取り付け、最終的なアレンジメントについて3月までにEUとの間で合意しないといけないメイ政権ですが、年明けの現在でも、まだ何ら策が見いだせていないようです。EUサイドも、すでに非難をする形で拳を高く上げてしまっていますので、そうそう簡単に妥協もできないというジレンマに陥っています。このまま合意なしのハードBrexitになったら……世界経済への影響は決して小さくはないはずです。
そして中東情勢は、非常に不幸なことながら、さらに今年混迷を極めるでしょう。トランプ大統領がシリアからのアメリカ軍引き上げを発表したことで、ロシアとトルコの影響力が一気に高まり、そして両国を後ろ盾に持つイランと、激しく対決するサウジアラビア、そしてイスラエルという、非常にアンバランスなトライアングルが登場します。イラン、サウジアラビア、イスラエルが直に戦火を交えるような事態には陥らないと思いたいですが、イエメンやシリアなどで行っている“代理戦争”での衝突や、長年の憂慮材料であるイスラエル・パレスチナを巡る“争い”を場にした衝突も、これまで以上に、考えられる事態になってきています。
非常に不気味な動きをしているのが、中東地域のパワーバランスのカギを握るトルコと、中東地域に勢力圏を持ちたいロシアの存在です。特にトルコは、昨年のカショギ氏殺害に絡む諸々のデータを、じわじわとサウジアラビア王室に突きつけることで、国際社会からのサウジアラビアへの批判を高め、最後の一突きをお見舞いできるほどの情報を握っているようですので、トルコが、中東地域の安定に対して握っているカードは、数が多く、非常にパワフルなものになっていると考えられます。
さて、今年はどんな国際情勢を見ることになるのでしょうか。とても楽しみです。2019年が皆様にとって、そして世界にとって、平穏で平和な一年でありますように。
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