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丸亀製麺グループが「ヘアカラー専門店」の多店舗化を急ぐ裏事情

国内のみならず海外でも行列ができるほどの人気となっている丸亀製麺。そんな有名店を展開するトリドールホールディングスが、「2025年に世界6,000店を目指す」という将来ビジョン実現のため、多業種化を加速させています。はたして同社のビジョン達成は可能なのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんは今回、トリドールの外食領域に留まらない様々な業態の現状と今後を分析しつつ、同社の未来を占っています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

丸亀製麺グループ、トリドールの多店舗化

「丸亀製麺」の大ヒットで一躍、外食企業大手にのし上がったトリドールホールディングスが多業種化を加速させている。立ち呑み居酒屋として台頭する「晩杯屋」を買収したり、新しく炭火焼肉丼の「肉のヤマキ商店」を開発したり、果ては外食の領域を飛び越えて、白髪染めなどヘアカラーに特化した専門店フフfufu)」の多店舗化に乗り出している。

こうした、多業種化の背景には、「2025年 世界6,000店を目指す」という2017年3月期決算発表で明らかにされた将来ビジョンがあり、同社では「マルチポートフォリオ戦略」と名付けている。

同社は、複数の成長軸を持つグローバル企業を経て、日本発世界における外食のリーディングカンパニーへの躍進を夢見ていて、マクドナルドやスターバックスに次ぐ、世界外食ランキング上位10社に入る構想を抱いている。ちなみに日本の外食のトップ企業、ゼンショーホールディングスは世界6位あたりに位置しており、年商は5,791億円(2018年3月期)である。一方、トリドールの年商は1,165億円(2018年3月期)。ゼンショーの5分の1程度だ。

店舗数は18年12月末時点で1,650店、そのうち日本は1,080店、海外は570店。7年間で4,350店をつくらなければ、6,000店には達しない。つまり年間約620店を増やし、日本国内の店舗も今より倍増はしなければならない。新規開発の出店だけではとても無理なので、M&Aを加速させている。そうした流れで「晩杯屋を買収した。

また、トリドールでは「丸亀製麺」の国内店舗数が飽和点に達しつつある危惧を抱いており、近隣店舗を他の業種に転換することで自社内競合を回避し、既存店売上を上げるエリア内ポートフォリオの最適モデルを探っている。

トリドールの店舗が25年に6,000店に達し、1店舗あたりの平均で1億円の以上の年商を上げれば、ゼンショーを抜いて日本一の外食になれるかもしれない。しかし、ゼンショーは「すき家」が停滞していても、今や回転寿司四天王に数えられるはま寿司」という強い成長エンジンがある。現状売上の8割以上を「丸亀製麺」に頼ったトリドールの経営を鑑みると、誇大妄想とまでは言わないが、大逆転は困難な情勢である。そこで、トリドールの粟田貴也社長は第2の柱候補として「晩杯屋」に期待し、500店の出店を目標にしている。

トリドールが「晩杯屋」を買収した経緯

17年7月に発表されたトリドールの「晩杯屋」買収は、飲食業界では衝撃的な事件であった。というのは、「晩杯屋」は2009年品川区の武蔵小山で創業し、東京都と神奈川県に16年に13店、17年にも10店を出店と、急成長中だったからだ。18年4月に38店だったのが、現在は49店まで店舗数が伸びている。武蔵小山の本店は、17年11月に公開された映画『火花』のロケ地の1つにもなっている。

「晩杯屋」を経営するアクティブソース(本社・東京都品川区)の金子源社長が突如起業家を断念して、身売りに駆り立てられた合理的な理由が見当たらなかった。金子氏は近い将来の上場をにおわせる傍ら、自らM&A仲介業者に登録していたのだ。

他に本業がある場合は、経営資源の選択と集中のため、急成長していても枝葉の事業を高値で売却する判断はあり得るが、アクティブソースはほぼ「晩杯屋」で成り立っている会社だ。他には「べこ太郎」という激安ステーキ店が2店あるのみだった。

アクティブソースによれば、「晩杯屋とトリドールのコラボレーションを考えた」「経営資源が乏しい中小零細の現状で店舗展開を早めるには、トリドールに支援していただくのが最善の手段」などと説明しているが、そもそも同社の急成長は、店舗開発を支援するエムグラントフードサービス(本社・東京都渋谷区)との提携によってもたらされたものだ。

アクティブソースとエムグラントは、どちらも社長が「牛角」を経営するレインズインターナショナル出身。同じ価値観を共有できるとして16年4月に業務提携し、エムグラントが首都圏のFC(フランチャイズ)本部となって店舗開発を行い、成長軌道に乗った矢先の出来事だった。

ちなみにエムグラントの井戸実社長は“ロードサイドのハイエナ”の異名を持ち、2011~13年頃のピーク時には200店以上を全国に展開した激安ステーキ「ステーキハンバーグ&サラダバー けん」(現在41店)や、現在62店を関東中心に展開する500円ピザの「CONA」を成功に導いている。同業他社では「相席屋」の電光石火の如き全国展開の背景にも、エムグラントの支援があった。エムグラントは自らブランドを展開するよりも、スピーディにチェーン化したい外食企業の店舗開発、業態ブラッシュアップへと事業の軸を移した。

「晩杯屋」の業態としての魅力は、なんと言っても“センベロと呼ばれる価格である。100円台のおつまみもザラで、立ち呑みで仕事帰りに1人でもちょい呑みしていける、屋台のような気軽さがある。「晩杯屋」の顧客単価は1,300円、座れる店で1,800円といったところだ。

「晩杯屋」の人気メニュー3種。名物の「煮込み」(左)は130円と激安

しかも、本社に併設してセントラルキッチンを持ち、“センベロ業態を多店舗化したところに「晩杯屋」の革新がある。昭和から続く“センベロ”の名店は点在するが、東京3大煮込みと称される、森下「山利喜」、月島「岸田屋」、北千住「大はし」のように魅力的な個店なのであって、チェーンではなかった。

現在42歳の金子社長は、かつて海上自衛隊に勤務していた異色の経歴を持つ。六本木の防衛庁から鹿児島県の離島、喜界島に転勤したが、飲むことくらいしか楽しみのない田舎暮らしの日々に飽き足らず退職。25歳で飲食が好きなことからレインズに入社し、3日目で牛角の店長に抜擢された。しかし、飲食店の成功は食材を仕入れる力にあるとの結論に達し、店長を続けても流通を学べないと半年で退社した。

その後は、青果や水産の卸売市場で勤務しながら市場の仕組みを学びつつ資金を貯めて起業の機会をうかがった。起業する前に、赤羽の著名な“センベロ”居酒屋「いこい」で短期間ながら修業し、立ち呑み居酒屋経営のノウハウを取得している。「晩杯屋」の暖簾に「赤羽いこい系」の文字があるのはそのためである。

「晩杯屋」には固定されたメニューがなく、その日の仕入れ状況でメニューが変わる。魚は魚種によって大量に捕れる時期があり、その情報をキャッチすれば、信じられないほどの安値で仕入れられるのだ。仲買との信頼関係構築で、激安情報を的確に得られるから、おつまみ100円台の“センベロ”価格が維持され、1日10回転の店舗営業も可能となる。

「晩杯屋」の刺身はマグロ刺し(200円)、イカソーメン(150円)といずれも激安

しかし、ネックとなるのが駅近く路面でなければ成立しにくい業態であること。「晩杯屋」の適地は競合が激しく、なかなか場所が空かない。家賃も安く、スペースが空いている飲食ビルの空中階で成立させられるかが大きな課題だ。井戸氏がソリューションを探っていたのはその部分であった。

また、関東一円を出て、金子社長の仕入れが通用するのかも未知数である。1人で市場を駆けずり回るのにも限界があるだろう。地域によって魚の好みも変わる。特に関西は「晩杯屋」と同等か、それ以上に安くて品質の高い“センベロ酒場”が、駅前、地下街の至る所にあり、さすがの「晩杯屋」も分が悪いのではないだろうか。

ユニークな業態、肉のヤマキ商店

肉のヤマキ商店」は「晩杯屋」をも上回る勢いで出店を加速しているかに見える、炭火焼肉丼の店だ。昨年、夏頃から展開を始め、東京、大阪、神戸などに17店(18年12月現在)を既にチェーン化している。

今後3年で100店の出店を予定しており、「晩杯屋」が入居しても良さそうな駅近の路面もこちらが優先されている感がある。イオンモールなど、商業施設にも積極的に出しており、「晩杯屋」よりも立地に汎用性があって猛烈にプッシュされている。

要は焼き牛丼なのであるが、「東京チカラめし」の失敗に学び、見せ方を変えている。まず、店頭で肉のグレードを、並か上か特上かを選び、肉の量も1人前か1.5人前か2人前かを選ぶことができる。その都度、店員がどんな肉を使うのか、計って見せてくれるのがミソだ。

上の肉となると見た目も身が締まった上質感を漂わせていて、並とは、はっきりと違いがわかる。ランチの顧客単価は700円程度と推測される。

店内で肉の塊からスライサーで切って販売しており、「いきなり!ステーキ」の肉の量り売りを彷彿させる演出を行っている。肉は店員が炭火を使って焼鳥の要領でその場で焼いて提供するので、ライブ感が抜群だ。

炭火焼肉丼(640円)

夜は、焼肉、牛すき鍋、ハムかつ、コロッケなどのメニューでちょい呑みにも対応。さらには、新鮮な切り立て肉のテイクアウトという、精肉店の役割も担う、非常にユニークな業態である。この「肉のヤマキ商店」が、新たなトリドールの成長エンジンとなる公算が高い。

トリドールの真の第2の柱、フフ

もう1つ、成長をより以上に加速させているのが、非飲食のヘアカラー専門店フフ」である。経営するファストビューティという会社は、2014年7月に創業。1号店は東京の中野店であった。既に関東や関西に77店を急速に展開している。19年2月には新規5店がオープン予定だ。

予約なし、60分で施術できる手軽さがあり、イメージとしては1,000円カット「QBハウスの毛染め版のような美容院と異なるヘアカラーに特化した店だ。値段は、根本染め(リタッチ)で2,400円、全体染めは髪の長さで異なるが、ミディアム3,900円である。

実は、トリドールは16年5月に、“美白の女王”で知られた故・鈴木その子氏が創業した化粧品「SONOKOを約30億円で買収して美容分野に進出している。「SONOKO」は「フフ」と17年1月に資本業務提携を結び、出資比率を上げて子会社にする計画が報道されていた。「フフ」はトリドールの信用力によって、当時4店だったのが、商業施設にハイペースで出店しており、全国制覇しそうな勢いである。トリドールの真の第2の柱は、「肉のヤマキ商店」でも、まして「晩杯屋」でもなく、なんと異業種・美容分野のフフ」が担うことになりそうだ。

「フフ」店内

その他にも、トリドールはとんかつ・トンテキ・かつ丼の「豚屋とん一」を商業施設中心に51店、創業の業態で炭火焼鳥・唐揚げ・釜めしの「とりどーる」15店、天ぷら定食・天丼の「まきの」10店、神戸・長田の味であるぼっかけ焼きそば「長田本庄軒」10店、ハワイアンパンケーキカフェ「コナズ珈琲」16店、兵庫県姫路市発祥で17年11月に買収した背脂系濃厚とんこつラーメン「ラー麺ずんどう屋」41店、等々。とにかく、手当たり次第に大衆業態を自ら開発しM&Aを仕掛けている印象だ。

ぼっかけ焼きそば「長田本庄軒」

粟田社長は聡明な経営者だが、実際のところ「丸亀製麺しか成功したと言える業態はない。どれも業態として悪くはないが突出するパンチに欠ける中途半端な状態、人材の育成も必要で、どうやってあと7年で4,000店も増やすのだろうか。

もっとも粟田社長は、「丸亀製麺」がいりこの味がしない讃岐うどんまがいの業態だと批判されると、「いぶきうどん」という瀬戸内海・伊吹島産のいりこダシを全面に出した新ブランドを展開してみせたほど研究熱心でもある。

「フフ」は「丸亀製麺」に次ぐ大ヒットを予感させ、「肉のヤマキ商店」も200~300店くらいは出せそうな雰囲気が漂ってきた。選択と集中で、この2業態に絞るのか、それともこのままマルチ戦略であれこれ出すのか。トリドールが掲げた超ビッグマウスの2025年に6,000店という目標進捗を、見守っていきたい。

image by: 丸亀製麺 - Home | Facebook

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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