ネット書店の台頭により実店舗の本屋さんが次々と姿を消していく中、出版物の取次会社大手である日本出版販売が、新しいかたちのリアル書店を開き話題となっています。「利便性」だけにと止まらない価値を、どこに見出したのでしょうか。今回の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』で、著者のMBAホルダー・青山烈士さんが詳細に分析・解説しています。
強者との戦い方
入場料のあるユニークな本屋を分析します。
● 日本出版販売が手掛ける本屋「文喫」
戦略ショートストーリー
本との出会いを求めている方をターゲットに「選書のノウハウ」や「店舗作りのノウハウ」に支えられた『本を選ぶ楽しさ』等の強みで差別化しています。
1日中ゆっくりと過ごすことができる本との出会いの場を提供することで顧客の支持を得ています。
■分析のポイント
強者との戦い方
Amazonなどのネット書店に押される形でリアル書店は苦戦を強いられているようです。そのような状況の中で、リアル書店である「文喫」の戦い方は、今後のリアル書店のあり方を示しているとも感じましたので、特徴を紐解いていきたいと思います。
まず、整理しておきたいのがAmazonに代表されるネット書店の最大の価値は「利便性」です。Amazonは「利便性」を追求することで、時価総額で世界首位まで上りつめた企業です。つまり、Amazonはリアル書店から見れば、圧倒的な強者と言えるでしょう。そのような強者に対して、強者の土俵である「利便性」で戦っても勝機を見出すことは非常に困難です。
そこで、「文喫」は、「利便性」ではなく「検索とは違った本の出会い方ができる」という価値で戦おうとしているのです。どういうことかというと、ネット書店を利用するユーザーの多くは自分が欲しい本を検索したり、過去の購入履歴から表示されるレコメンド(お薦め)を通して購入するのが一般的な流れだと思います。本を探し始めてから購入までが短時間であることが特徴的です。
一方で「文喫」の場合、1日中じっくり本を選ぶことができる環境を整えていますので、本を探し始めてから購入までに要する時間が非常に長くなることが想定されます。ここがネット書店との大きな違いであり、既存の書店とも異なる点です。
この違いにより何が生まれるかと言うと「検索やレコメンドでは出会えない本との出会い」という価値が生まれるわけです。このような価値に触れることで、顧客は、「本を選ぶ楽しさ」を味わうことができるのでしょう。
Amazonのユーザーは、より「利便性」を追求したい場合には年会費を支払えばプライム会員としてより充実したサービスを受けられますが、「文喫」の場合、入場料を支払うことでネット書店や既存のリアル書店では味わえない「本を選ぶ楽しさ」を享受できるわけです。
非常にシンプルではありますが、Amazonなどのネット書店と明確に差別化できており、既存のリアル書店とも異なる価値を提供できていることから、「文喫」の戦略がよく練られていることが伝わってきます。
今後、「文喫」がリアル書店として、どのような存在になっていくのか注目していきたいです。