おそらく中西氏にその点を問えば、「一貫した考えだ」と言うだろう。好意的に捉えるなら、1月1日には真意が伝わらなかったので補足したと解釈できなくもない。
反対があるかぎり原発推進はできないが、推進の方向に国民を説得すべきだと言いたかったので、発言を修正した、と。
もちろん一部のメディアが論評するように、原発推進派にとってネガティブな元日発言に、官邸が文句をつけたという見方もできよう。経団連の主要メンバーである電力会社のために原発再稼働を強調するべきだったと思い直したかもしれない。
しかし、政官財学の原子力ムラも、かつての結束は緩みつつあるように感じる。
福島原発の事故で国民が危険性を実感したため、彼ら利益共同体の作り出した安全、クリーン、低コストといった詐術的PRが世間に通用しなくなった。
再生可能エネルギーが急速に普及し、原発建設コストが高騰すると、原子力は優位性を失い、いまや古いエネルギーの仲間に入ってしまった。
これから想定されるのは、原子炉と核のゴミをいかに上手に葬るか、すなわち廃炉の技術を競う時代であろう。
原発再稼働は、少しでも廃炉を先に延ばし、電力会社が急激に大損失をこうむるのを避けるための方策に過ぎないのではないだろうか。
ドイツでは、政府が脱原発の方針を決めたとたん、大手電力会社が軒並み赤字に転落した。廃炉費用などを特別損失として計上したからだ。
原発の未来が暗いことは、原子力ムラの住人がいちばん知っている。
その意味で、中西経団連会長が元日に語った原発についてのクールな発言は、立場上心の奥底にしまいこんでいたいはずの本心が滲み出たと見ることもできよう。
日立は英国の原発からの撤退で巨額損失を出したが、東芝の失敗例を教訓にした分、致命的な傷を負う前に逃げることができた。
官邸や経産省にしても、東芝と日立の原発輸出の失敗に懲りただろうし、日本国内への原発建設が困難なのは痛いほどわかっているはず。海の物とも山の物ともつかない小型原発の開発に原子力生き残りをかけるのが、なによりの証拠だ。