「廃炉先進国」といえるイギリスの例と比較してみよう。2013年8月の毎日新聞に掲載された以下の記事が参考になる。
世界で最も廃炉作業が進む原子力発電所の一つ、英ウェールズ地方のトロースフィニッド発電所(出力23.5万キロワット、炭酸ガス冷却炉、2基)の作業現場に入った。1993年の作業開始から20年。責任者は「既に99%の放射性物質を除去した」と説明するが、施設を完全に解体し終えるまでになお70年の歳月を要する。
(中略)
原子炉の使用済み核燃料(燃料棒)は95年に取り出されたが、圧力容器周辺や中間貯蔵施設内の低レベル放射性物質の放射線量は依然高い。このため2026年にいったん作業を中断し、放射線量が下がるのを待って73年に廃棄物の最終処分など廃炉作業の最終段階に着手する。
(中略)
作業の中断、再開を経て全施設が撤去されるのは2083年。廃炉には稼働期間(26年間)よりもはるかに長い時間がかかるのが現実だ。この発電所は小規模で、稼働中に大きな事故もなく停止後速やかに廃炉作業に移ることができた。それでも廃炉に90年を要し、総費用は約6億ポンド(約900億円)になる。
トロースフィニッド発電所は東海とほぼ同じ出力で、炭酸ガス冷却炉ということも共通している。それなのに、トロースフィニッドは廃炉まで90年の期間を要すると言い、東海は23年の計画を据え置いたままズルズルと遅れ続けている。
東海もトロースフィニッドと同じくらいの期間が必要だとすると、いったい費用はどこまで膨れ上がるのだろうか。
しかも、核のゴミの最終処分先は英国も日本も決まっていないし、少なくとも東海の廃炉費用見積りの中には恒久処理のコストは含まれていない。これといった事故を起こしたことのない小規模原発でさえ、最終処分までには気が遠くなるほどの時間とコストと人の命がかかってくるのだ。
ましてや大事故を起こし高レベルの放射能に汚染された福島第一原発となると、廃炉にどれだけの時間と負担と犠牲が必要になるのか、想像すらできない。
始めたらいずれは終わりが来る。これから大切なのは、原発再稼働という安易な道ではなく、各地の原発を安全に解体していく困難な事業に挑む覚悟である。
財界総理といわれた影響力を経団連会長が取り戻すには、時代を的確に見据えたリーダーシップを示すしかないのではないか。