サラリーマンや公務員の配偶者にして専業主婦の方に対する年金について、「不公平だ」という声が聞かれることがあります。「それは言ってしまえば感情論」とするのは、無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者・hirokiさん。hirokiさんは今回、その根拠について詳しく解説してくださっています。
サラリーマンや公務員の専業主婦(主夫)の年金はよく批判されるが、感情的な面が多い
よくサラリーマンや公務員の専業主婦の年金というと、年金保険料を払わなくても将来貰えるからズルい!って言われますよね。専業主婦というと家事や育児だけに専念というイメージがありますが、パートとかアルバイトのような基本的には厚生年金に加入しない短期労働者(主に年収130万円未満の場合)をひっくるめてそう呼んでいます。このような人を国民年金第三号被保険者と呼ぶ。
ちなみにそのように年金保険料を支払わなくても年金に反映するようになったのは昭和61年4月からであります。その前までは、サラリーマンや公務員の専業主婦というのは国民年金に加入する必要は無くて、加入してもしなくてもいい任意の加入でした。将来、国民年金が欲しければ任意で加入して納めてくださいねという事。
昭和36年4月から他の年金制度に加入してない人は、全員国民年金に加入させる事にしたが、サラリーマンや公務員の専業主婦というのは厚生年金や共済年金にある程度守られているので別段に強制的に国民年金に加入させる必要は無いだろうと。ちなみに学生(定時制、夜間、専門学校、通信等は強制だった)は負担能力が低いだろうという理由で、こちらも任意加入とされた。厚生年金には配偶者が居れば配偶者加給年金として保障するし、厚生年金受給者が亡くなってもその後は配偶者には遺族年金として保障されるからです。厚生年金や共済年金(共済に配偶者加給年金が導入されたのは昭和61年4月から)は世帯ひっくるめて面倒を見る年金だったわけです。
ちなみに配偶者加給年金は配偶者が65歳までのものという認識が強いですが、昭和61年4月になるまでの旧制度は厚生年金受給者に一生付くものだった。今現在も配偶者と死別や離婚するまで、ずーっと配偶者加給年金が付いてる人はいます(特に大正15年4月1日以前生まれの人とか)。だからサラリーマンや公務員の専業主婦をわざわざ国民年金には強制加入にはしなかった。
ただこれには国民年金ができた頃から問題がありました。それは離婚した場合とか、大きな怪我や病気をした時に障害年金が出ないという状況が発生する事が不安視された。離婚しちゃったら今まで国民年金を納める必要が無かった専業主婦は無年金になってしまうし、年金に加入してない場合はそもそも障害年金を請求する資格が発生しないから。でも厚生年金である程度守られてるのでどうしたらよい問題なのか答えが出なかったため、当分は任意加入扱いとされた。
ところで、昭和の時代には一旦寿退職すると再就職するという事は考えられない時代でもあった。そして、専業主婦は家事育児でほぼ一日を費やすのが普通だったので、働きに出るなどとてもじゃないがほぼ不可能だった。しかし、時代が便利になっていき昭和30年代の高度経済成長に入った頃から冷蔵庫、洗濯機、白黒テレビが家庭に広がり始めて生活が便利になって主婦の家事の負担が軽減されるようになってきた。
当時は三種の神器と呼ばれて重宝された。更に景気は良くなり、昭和40年代になると3Cといってカラーテレビ、クーラー(ただ冷やすだけ)、車が普及してきた。各家庭の生活が便利になっていき、育児に手がかからなくなってきた頃にちょっと働きに出ようという人が増え始めてきた。主婦も自分で収入を得るようになると、離婚という選択肢も増え始めてきた(その後平成19年4月から年金の離婚分割の制度も始まった)。
● 年金の離婚分割計算事例や仕組みについての有料メルマガバックナンバー(2018年5月分)
よってそういう場合も時代の変化として表れ始めたので、サラリーマンや公務員の専業主婦にも強制的に年金に加入させる必要性が高まってきた。将来そういう離婚した時も、個人名義で年金が貰えるためにもですね。そこで新しい年金の形として、昭和61年4月から専業主婦であろうが何だろうが国民には全員が国民年金に加入するという基礎年金制度が導入された(学生は平成3年4月から強制加入)。
これは女性の年金権を確立されたものであり、国民年金第三号被保険者制度は当時は非常に高く評価された。基礎年金制度は専業主婦の年金を主にどうこうするものではなかったですが、同時に達成されたというかですね。
しかし働く女性が増えるにつれ、サラリーマンの専業主婦世帯よりも共働き世帯の数のほうが多くなってきた平成9年ごろからそれは不公平だ!!っていう働く女性からの批判が強くなってきた。
健康保険も扶養に入ってれば、保険料支払わなくても医療費3割で受けられるのに健康保険に関しては特に批判されない。扶養に入ってて健康保険料支払わなくても3割で医療受けれるのはいいけれど、年金はどうしてダメなのかって話ですよね^^;医療費は現物支給が主だけど、年金は現金として見えるからなんでしょうね。
その、第三号被保険者の年金の財源は扶養者である厚生年金被保険者の保険料に含まれてる形ですので、税金で賄ってるわけではない。まあ…みんなが将来貰う基礎年金は国庫負担(税金)が半分の額に投入されてはいますが、それはもうみんな共通の話。厚生年金のサラリーマン世帯で比較した場合の保険料負担や世帯での年金総額では不公平は生じていないし、どのようにサラリーマンの専業主婦の年金を扱うべきなのかの答えは出されなかった。以前計算して示しましたが今日は計算は省略。
その…思うんですけど、どんな物事も全ての人に受け入れられる事ってないですよね。100人居たら100人が賛同な制度や法律なんて無いわけで。だからこそ最も合理的な方法を取っていくのが最善だと思うんですよね。どうしても解決したいというのであれば雇用の促進しかないですが、あまり女性の雇用促進が進んでいなかった時代の人には第三号被保険者のような保障も必要でしょう。
それに今現代だって子供を複数人育ててる人とかに、不公平だから無理やり働きに行けというのも厳しすぎると思う^^;短期労働者の厚生年金加入のハードルが低くなった現代の社会であれば、時代の変化としておのずと解決されてくる問題かもしれませんが…。
というわけで、第三号被保険者について最後にちょっとだけ事例。先に言っておきますが、国民年金第三号被保険者には昭和61年4月以降の20歳から60歳の前月の480ヶ月間の間しかできない。
1.昭和29年6月30日生まれの妻(今は64歳)
● 何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)
20歳になる昭和49年6月から昭和50年3月までの10ヶ月は短期大学に通学。この昼間学生期間は国民年金に加入する必要は無く、任意加入だったが加入せず(カラ期間)。昭和50年4月から国民年金に強制加入となったが、昭和54年12月までの57ヶ月間は未納。
昭和55年1月からサラリーマンの夫と婚姻したが、平成4年5月までの149ヶ月は専業主婦(一応短期労働者だったとします)。ただし昭和61年3月までの75ヶ月は国民年金には任意加入であったが、加入しなかった(カラ期間)。
なお、昭和61年4月から基礎年金制度が導入され、専業主婦も強制的に国民年金に加入した。平成4年5月までの74ヶ月は国民年金第三号被保険者期間として、将来の老齢基礎年金に反映する。
平成4年6月に離婚し、平成25年7月までの254ヶ月は国民年金未納だった。平成25年8月に6歳年上(昭和23年10月4日生まれ)のサラリーマンだった男性と再婚した。この再婚した夫には20年以上の厚生年金期間があるとします。ただし、この男性に本来なら配偶者加給年金が発生する64歳時点(平成24年10月4日)の妻ではなかったので配偶者加給年金はこの再婚夫には付かなかった。
普通は加給年金は65歳から付くものという認識が強いですが、この男性の生年月日だと原則として64歳から。下記の支給開始年齢のリンクの「定額部分の年金」の発生時点を見るので、割と昔の生年月日の方の場合は注意が必要。
● 厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)
夫は70歳(平成30年10月。なお、65歳になるのは平成25年10月)になるまで厚生年金に加入した。平成25年8月から再びサラリーマンの夫の専業主婦として国民年金第三号被保険者となり、本来なら60歳になる月の前月である平成26年5月までは国民年金第三号被保険者になれると思っていたが、平成25年9月までの2ヶ月間しか第三号被保険者になれなかった。夫は平成30年10月まで厚生年金に加入してるのに。
平成25年10月から60歳前月である平成26年5月までの8ヶ月は自ら国民年金保険料を納めないといけなかったが未納。
どうしてこの女性は60歳になるまでまで第三号被保険者になれなかったかというと、老齢基礎年金の受給資格を持ってる65歳以上の厚生年金加入者(この事例では夫)の専業主婦は第三号被保険者にはなれないから。厚生年金加入上限が平成14年4月から65歳から70歳まで引き延ばされたが、その時に第三号被保険者期間については引き延ばされなかったから。
この妻の年金受給資格期間をまとめる。
国民年金第三号被保険者期間76ヶ月+カラ期間85ヶ月(←学生時代の10ヶ月+昭和61年3月以前の75ヶ月)≧120ヶ月(10年以上)なので65歳から老齢基礎年金が貰える。
- 65歳(平成31年6月に受給権発生)からの老齢基礎年金額→780,100円(平成31年度満額)÷480ヶ月×76ヶ月=123,516円(月額10,293円)
なお、この妻は昭和41年4月1日以前生まれの配偶者なので老齢基礎年金に振替加算(この女性の生年月日だと年額56,784円)が付く場合がある。
● 加給年金と振替加算額(日本年金機構)
しかし、再婚した夫の配偶者加給年金の対象となる妻ではなかったので(夫が64歳時点の配偶者ではなかった)、振替加算は老齢基礎年金には付かない。
image by: Shutterstock.com