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「終の住処」で孤独死が急増。いま復興住宅で何が起きているのか

東日本大震災から8年。現状は完全復興とはほど遠いところにありますが、さらに、復興住宅での「孤独死急増」という新たな問題が浮上しています。なぜ被災者の方の「終の棲家」となるはずの場所で、そのような事態が起きているのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんが、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で考察しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年3月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

終の住処で「孤独死急増」

東日本大震災から8年が経ち、復興計画のさまざまな誤算が報じられています。誰が悪いわけでもない。みながそのときは「ベスト」と考え、実行してきたことが、予想だにしなかった新たな問題を生じさせているのです。

その中のひとつ「孤独死」を今回は取り上げます。

震災当初から仮設住宅で被災者の孤独死が相次ぎ、その対策として見守りや安否確認などのサポート体制が強化されてきました。しかしながら、支援活動には限界があり、高齢者だけでなく40代や50代の中高年の孤独死も相次ぎました。

そんな中、被災地の住宅政策のゴールとされてきた復興住宅災害公営住宅での孤独死が増加しているというのです。

朝日新聞の報道によると、昨年1年間で岩手と宮城両県の復興住宅で68人が孤独死。前年の47人から大幅に増えていることがわかりました。

仮設住宅での孤独死が最多だった2013年は29人でしたので倍以上に多いことがわかわります。

仮設住宅の孤独死は2011年~18年の8年間で、宮城109人、岩手46人の計155人。一方、復興住宅では2013年~18年の6年間で、宮城120人、岩手34人の計154人。

特にこの数年は増加傾向にあり、両県で16年19人、17年47人、18年68人と、急速に増加しているのです。

なぜ、避難所から仮設住宅を経て、ようやく自分の住まいにたどりついた復興住宅で、孤独死が増えているのか?

原因のひとつとされているのが、復興住宅のカタチ”です。

仮設住宅のときは阪神淡路大震災のときの教訓を生かし、そこで暮らす人たちが「つながる場」が作られていました。

私自身、雄勝や渡波の仮設住宅や、福島で避難した人たちが暮らす郡山の仮設に何度もお邪魔しましたが、どこの仮設にも集会所があり、そこでみんなでご飯を食べたり、お茶を飲みながらおしゃべりをしたり、ボランティアがイベントをしていました。

「朝ごはんだけは、必ずみんなで一緒に食べよう!」というルーティンのある仮設で暮らす人たちはみな元気でした。

雄勝の仮設に泊まらせてもらったときは「もう、しばらくワカメは見たくない~(苦笑)」と嬉しい悲鳴をあげるほど、住民のみなさんが旬のワカメを料理してくださり、朝までみなでお酒を飲みながらお話しをさせてもらいました。

渡波の仮設には石巻に行く度に顔を出しましたが、そのときも仮設に住むみなさんが集まり、ご飯を作って、待っていてくれました。

ところが、復興住宅はプライベートが確保された独立した部屋。仮設が長屋スタイルだったのに対し、復興住宅は中層階のマンションスタイルです。抽選だったために、同じ地域同じ仮設の人が一緒とも限らない

その結果失われたのが「会話する機会です。

仮設住宅の時より、圧倒的に会話する機会が奪われてしまったのです。

一般的にはコミュニティの最小単位は「家族」とされていますが、私は「会話」だと考えています。

「○○さんとこの息子が、××でさ~。奥さん困ってるみたいだよ~」
「膝がここんとこ痛くて」
「▲先生とこいくと、親切に診てくれるよ」
「またお盆か~。早いね~」
「ホント早いね~。今年はダンナの三回忌だ」……etc、etc。

こういった日常のたわいもない会話は、人の生きる力を引き出す極めて大切な行為です。震災や津波、原発事故が、東北の人たちの日常の会話を奪い、さらに復興住宅のカタチが、会話する機会を著しく減らしてしまった。それが「孤独死」する人を増やしているように思えてなりません。

加えて震災から8年が経ち、70歳だった人は78歳に、75歳だった人は83歳になった。年をとってくると、昨日までできていたことができなくなったり、当然ながらモノ忘れも増えます

そんな時、「私なんてこないだ○○をわすちゃったよ~」と、愚痴を言えて、「あらあら困ったね~」と、一緒に笑い飛ばしてくれたり、一緒に困ってくれる人がいるとそれだけで、ちょっとだけ安心することもできます。

個人的な話で申し訳ないけど、私も母が1人で暮らしているので「日常のたわいもない会話」の大切さを日々痛感しているのです。

いったい何度、物忘れをして落ち込む母をみてきたことか。その度に「父がいれば、笑い飛ばして終わりに出来たのに……」とやるせない気持ちになります。

普通に暮らしていると気がつかないものですが、日常を作るのはこういったたわいもない会話」なのだと思います。

…気づけば、2017年の夏に石巻に行って以来、私は東北に行っていません。行きたいと思いながらも、行っていません。自分から東北と縁遠くになっていることに、うしろめたさを感じています。

それでもやはり行く時間がないことに、ただ心を寄せるしかできず今やるべきことをやるしかないと、言い聞かせる自分に、これまたなんと言えない後ろめたさを抱いています。

それでも今できることをやるしかないと、今回のことを取り上げました。

みなさまの経験やご意見をお聞かせください。お待ちしています。

image by: 復興庁 - Home | Facebook

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年3月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2019年3月13日号)より一部抜粋

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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