ニューヨークのど真ん中を走る人気の市民マラソン「ニューヨーク・シティ・ハーフマラソン」で、史上初の快挙が達成されたと大きな話題となりました。伴走者と走るのが当たり前となっている盲人ランナーが、3匹の盲導犬の誘導でハーフマラソンを完走したのです。この驚きの出来事について、詳しく紹介してくれるのは、『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』の著者、りばてぃさん。なんとすでに、24匹もの伴走盲導犬が誕生しているそうです。
史上初めて盲導犬とハーフマラソンを完走!
今週末、ニューヨークでは点字や盲導犬に関する話題がいくつかあった。まず、3月17日に開催したニューヨーク・シティ・ハーフマラソン(以下NYCハーフ)で、盲目のランナーが盲導犬と一緒にレースを完走し史上初の快挙を成し遂げたというニュースだ。
盲目のランナーさんのお名前はトーマス・パネク(Thomas Panek )さん。一緒に盲導犬として走ったのは、ウェストリー(Westley)くん、ワッフル(Waffle)ちゃん、ガス(Gus)くんのラブラドール・レトリーバーの3匹。
トーマスさんは盲導犬の誘導によって13.1マイル(約21キロ)を2時間20分51秒でゴールしたのである。NYCハーフは、ブルックリンのプロスペクト・パークをスタートしてタイムズスクエアのど真ん中をセントラルパークに向かって北上。公園内でゴールとなるコース。
特にタイムズスクエアの沿道の応援がもの凄く、また、ど真ん中を走る開放感は他では味わえないものとなっており、ニューヨークで開催されるマラソン大会の中でも1、2位を争う人気レースで、2万人ほどが毎年参加している。
そんな大人気のレースの誘導は3匹の盲導犬が交代で行った。ウェストリーくんがスタートから5マイル(約8キロ)まで、ワッフルちゃんが5マイル地点から10マイル(約16キロ)まで、そして、長年盲導犬としてトーマスさんを誘導してきたガスくんが最後の3マイル(約5キロ)を走った。
それぞれの平均速度は、ウェスリーがマイル8分30秒(1キロ5分17秒)、ワッフルが8分(4分58秒)、ガスが9分(5分36秒)。けっこう早い。なお、途中の水休憩や盲導犬たちをケアする時間などはこの平均速度には含まれていない。
トーマスさんは後天的に失明した方で20代から目が見えなくなった。走るのが大好きなトーマスさんは盲目ランナーさんと一緒に走る伴走者をつけて走っていたが、かけがえのない存在である盲導犬を家に置いていくことは何か違うのではないかと思っていた。それに盲導犬は走るのが大好きだ。また、本当に独立して走るということはどういうことなのか?そんなことを考えるようになっていった。
そうした思いが募り、だったら盲導犬と一緒に走ってみたら良いんじゃないだろうか?それからトレーニングが始まった。最初は短い距離から試走。慣れてきたら、5キロほどのレースに参加するなど練習をしてきたという。そして、今年、3匹の盲導犬の誘導によってハーフマラソンを完走するという偉業を成し遂げたのだった。
以前、盲導犬についてのドキュメンタリー映画についてメルマガでご紹介した。まぐまぐニュースにも取り上げられたので以下リンクをはっておく。
ご参考; ● 人懐っこいのもダメ。映画で見るアメリカの「盲導犬」事情
機会があればぜひこの映画を観て頂けたらと思うが、盲導犬のトレーニングは過酷で適正が問われるものとなっている。日常生活を誘導するだけでもものすごい対応力が求められるのに、大勢が一気に走るマラソンとなると、さらなら対応力が必要とされる。
忍耐力、沿道の応援に動じない精神力、そして、マラソンを走るための体力等々だ。こうした条件をクリアした上でトレーニングしてきた3匹はレース前の3ヶ月間で120マイル(約200キロ)も走ったという。
もちろん、盲導犬のケアはちゃんと行われている。走るときは犬用の靴(手足の先を覆うもの)を履くし、水などの補給もちゃんとしている。トーマスさんは盲導犬と一緒にマラソンのレースに出たいと思った時点でそれがどれだけ大変なことかをわかっていたのだろう。
盲導犬に無理はさせられない。でも、1人でケアをするには限度がある。そこでトーマスさんが社長とCEOを務める盲導犬を育成する非営利団体のGuiding Eyes for the Blind内に2015年、専門のプログラムを立ち上げたのだ。
トーマスさんは2014年に社長に就任。それまで20年間社長だったウィリアム・バジャー(William D. Badger)さんの定年に伴う退職後の後任として指名された人物である。
ご参考: ● GUIDING EYES NAMES NEW PRESIDENT AND CEO 2015年に伴走盲導犬の育成をはじめてからこれまで24匹が立派な伴走盲導犬として卒業している。さらに現在12匹が訓練課程を半分終えているとのこと。今後、アメリカで開催されるマラソンのレースで盲導犬を見かけることが増えてくるかもしれない。
今回、トーマスさんと一緒にレースを走った盲導犬のうち7歳のガスくんはレース後に盲導犬を引退。トーマスさんといつも一緒に走っていたセントラルパークでの誘導が盲導犬としての最後のお仕事となり、ガスくんは立派にこなした。
ガスくん引退後はウェスリーくんがトーマスさんの盲導犬となり、ワッフルちゃんはトーマスさんと同じように走るのが好きな盲目ランナーさんのサポートをするという。
ご参考:
● レースの公式サイト
● Guide Dogs Lead Visually Impaired Runner to Historic NYC Half Marathon Finish ● Blind runner, guide dog trio makes history in NYC Half Marathon
● 米視覚障害男性、ハーフマラソンで盲導犬と完走 史上初
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