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マスコミ報道と真逆。中国が東シナ海で極めて抑制的に行動する訳

日本のマスコミは、尖閣諸島周辺での中国公船の領海侵犯などを声高に報道し、中国の海洋進出の動きを強調する傾向にあるようですが、東シナ海での中国の行動はむしろ国内向けの意味合いが強いと指摘するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、日米台の強固で巧みな連携により、中国のメンツを保ちつつ抑制し続けることの必要性を訴え、台湾ではそういった理解が日本よりも浸透していることを伝えています。

台湾で講演してきました

台北で開かれた『海内外台湾国是会議(グローバル・タイワン・ナショナル・アフェアーズ・シンポジウム)』という会合に行ってきました。

世界台湾人大会、台湾国家連盟、台湾安保協会の共同主催で、テーマは「世界新形勢防中堵中」。急遽オセアニアに出張した蔡英文総統に代わり、陳建仁副総統と卓榮泰民進党主席が冒頭の挨拶に登壇しました。

文字面を見ると中国を刺激しそうなテーマですが、意味するところは「中国の好ましくない対外行動に対抗し、中国の選択肢を制限することによって、好ましい世界秩序を構成する」。これくらいのことはいつも掲げているそうで、その点については気にしていない様子でした。

私は基調講演と午後のパネルディスカッションに参加しました。私にとっては、台湾での安全保障問題の会合で講演するのは3回目ですが、昨年の基調講演者は香田洋二さん(元海上自衛隊自衛艦隊司令官)でした。

テーマがテーマということもあり、おなじみ西恭之さん(静岡県立大学特任助教)に中国の「問題行動」をリストアップしてもらい、どこから取り組めばよいのか絞り込んでレジュメ(パワーポイント)を作りました。題して「東シナ海モデルによる展開 なぜ中国は抑制的なのか」。

ひと言で表現するなら、マスコミ報道とは逆に東シナ海での中国の行動は極めて抑制的で、それは日米同盟によるところが大きい。日米同盟の強化と、そこに豪州、ベトナム、インドなどが加わってくることにより、その東シナ海での抑制的な姿勢が南シナ海にも及んでいる。

そして、ついには李克強首相に「たとえ防衛用の設備や施設があったとしても、それは航行の自由を維持するためのものだ」「航行の自由や南シナ海の安定がなければ、中国が真っ先に危険にさらされる」「南シナ海の軍事化に携わる意図は一切ない」(2017年3月24日)と言わしめるまでに至った。

あとは、中国を追い詰めるのではなく、習近平体制のメンツも保てるような力加減で軍事的膨張を規制すべきだ。その「規制線」こそ、中国側のいう第一列島線を形成している日本と台湾であり、日本と台湾、そして米国などとの政治的、経済的、軍事的関係の強化によって、中国をよい方向に規制していけるのだろう。それを他の諸問題の解決にも拡げていく意味で、「東シナ海モデルによる一点突破全面展開」を提案したい。

参加者は、米国とヨーロッパから集まった中国と一線を画そうという組織の指導者たちでしたが、私の考え方に同意してくれた印象でした。尖閣諸島周辺での中国公船による領海侵犯についても、中国の国内世論に向けて「日本に対して弱腰ではない」ことを示し続ける目的だと、私と同じ見方も聞かれました。

この会合に出席して感じたことは、台湾独立の志向が強い民進党政権においても、中国との関係について、まなじりを決して何かを叫ぶといった姿勢は影を潜め、例えば日米との連携強化によって中国を脅威ではない存在に変えていこうとする、とても成熟した姿勢が目立ったことでした。

私個人としても嬉しいことがありました。私を基調講演者に推挙してくれたのが台湾側の気鋭の安全保障問題研究者で、私が2017年夏に出した『日米同盟のリアリズム』(文春新書)を読み、そこで書かれた方向に北朝鮮の姿勢が変化して米朝首脳会談に至ったことを評価してくれた結果だったということです。

日本と中国との関係も日中平和友好条約締結40年(2018年)の節目を迎え、さらに良好な関係を深めていかなければならない時期にありますが、その日中関係をよい方向にコントロールしていくためにも、中国に文句をいわせないような日台の連携強化が求められていると感じました。

いま陸上自衛隊は日本防衛の空白域だった南西諸島に部隊配備を進めています。与那国島の沿岸監視隊に始まり、石垣島(警備隊、地対空・地対艦ミサイル部隊)、宮古島(同)、奄美大島(同)の部隊ですが、必要とあれば宮古海峡を両側から地対艦ミサイルの射程圏内に収めることが可能になります。そして台湾側も北部から東岸にかけて、地対艦ミサイルを重点配備しています。これは中国海軍を挟み撃ちにする日本と台湾によるチョークポイント戦略にほかなりません。

これが日台間の実質的な連携なのです。日本と台湾が沿岸の防衛を強化することについては、よほど関係が悪化していないかぎりは中国もクレームを付けることはできません

このように、日本としてやるべき事を着実に進め、中国の、そして北朝鮮の動きに空騒ぎをしない国に脱皮していく必要性について、台湾の会合を通じて肝に銘じることになりました。(小川和久)

image by: vadimmmus, shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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