チェーンストア理論のもととなっている、工業における生産管理手法。なかでも「トヨタ方式」と呼ばれるトヨタ自動車が生み出した手法はよく知られています。今回の無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』では著者ので経営コンサルタントの梅本泰則さんが、トヨタ方式の「5回のなぜ」で企業の問題点を改善する方法を紹介しています。
「5回のなぜ」で対策を考える
商業におけるチェーンストア理論は、工業の生産管理手法がもとになっているようです。そのため、「標準化」「集中化」「専門化」「単純化」といった生産管理の用語がチェーンストアでも使われています。
その生産管理のキモは「QCD]です。「QCD」とは、「品質、コスト、納期」のことで、この3つのレベルを上げることが重要だと言われます。これは、商売でも同じですね。
そして、その3つの中で一番大事なのが「品質管理」です。「品質管理」の手法はたくさんありますが、いくつかの手法がさまざまな場面で応用されています。中でも有名なのが「トヨタ方式」です。その「トヨタ方式」の中に、「5回のなぜ」というものがあります。問題点を深く検討して、効果的な対策を打とうというものです。
そこで、この「5回のなぜ」を使って、お店の抱える問題点と対策を考えてみることにします。例えば、ある店では「社員が辞めてしまう」ことが問題です。何が原因なのでしょう。いくつか考えられます。
- 勤務時間が長い
- 年収が低い
- 入社前の期待と現実が異なっている
- 社員教育がしっかりと行われていない
- 経営者の考えと合わない
- 社員を大切にしていない
- 会社の方向性がはっきりしていない
といったことがあげられたとしましょう。しかし、これだけでは打つべき対策が見えてきません。そこで、この原因に対して「5回のなぜ」を使ってみます。
「5回のなぜ」の使い方
まず、最初にあげられた「勤務時間が長いから」という原因を掘り下げてみましょう。なぜ、勤務時間が長くなるのでしょう。これが1回目の「なぜ」です。
その「なぜ」に対して、「それは社員の時間管理ができていないからである」という答えが導き出されたとします。では、なぜ時間管理が出来ていないのでしょう。これが2回目の「なぜ」です。
これに対して「それは会社に時間管理の意識が薄いから」というのが原因だと考えられるとします。時間管理の意識が低いのはなぜでしょう、というのが3回目の「なぜ」です。
「時間管理の意識が低いのは、経営者や幹部がその方法や必要性を学んでいないから」という答えがでました。4回目の「なぜ」は、どうして時間管理の方法や必要性を学んでいないのか、です。
ここらあたりまで来ると、なかなか良い答えが見つかりません。やっとのことで、「方法や必要性を学んでいないのはその機会がないからである」という答えが導き出されました。では、どうしてその機会がないのでしょう。5回目の「なぜ」です。
なぜと言われても、機会がないのだから仕方ありません。うんうんと唸って考えました。そして、ようやく出てきたのが「学ぶ機会を設けていないからである」という答えです。
そうです。ここで「勤務時間が長い」ことへの対策が見えてきました。それは、「経営者を含めた管理職のために、時間管理法の勉強会を開く」ということです。もちろん、引き出した答えによって別の対策にも行きつきます。
ともあれ、今回の「5回のなぜ」では、勉強会の開催に行きつきました。これが解決策だとしたら、すぐに実行することです。すぐには解決しないでしょうが、一歩前に進むことが出来ます。
対策を実行する
次に、2つ目の原因「年収が低い」について、「5回のなぜ」を行ってみましょう。次のように、対策を導いてみました。
- 1回目:年収が低いのは、会社の利益が低いからである
- 2回目:利益が低いのは粗利率が低いからである
- 3回目:粗利率が低いのは、値引き販売をしているからである
- 4回目:値引き販売をするのはマーケティング力がないからである
- 5回目:マーケティング力がないのは、マーケティングを勉強していないからである
ここから、行うべき対策は「マーケティングの勉強会を開く」ということになります。ここでも「勉強」が必要ということになってしまいました。もちろん、対策はこれだけではありません。
また、2回目の「なぜ」の答えに、「利益率が低いのは、仕入原価が高いからだ」とか「利益に対する意識が薄いからだ」ということが出てきてもおかしくはありません。その場合、その原因ごとに3回目、4回目と「なぜ」を繰り返していきます。そして、4回目の「なぜ」では、「マーケティング力」という答えが導き出されました。
しかし、それまでに、「競合店が値引き販売をしているから」とか、「粗利率の高い商品を販売していないから」とか、「粗利率目標が全社で共有されていないから」とかといった答えが出れば、対策は別のものになっていきます。
こうしてみると、一つの原因から導き出される対策は、必ずしも一つだけではありません。とはいえ、出てきた対策は、全部を同時に実行できるものではないでしょう。優先順位をつけて、実行していくことです。そうすれば、一歩ずつ問題が解決していきます。
いかがでしょうか。「5回のなぜ」を使って、問題解決法に迫ってみました。トヨタは、この手法を徹底しているからこそ世界一になれたのだと思います。あなたのお店も、何か問題に当たったとき、この「5回のなぜ」を繰り返してみれば、解決法が見つかるかもしれません。
■今日のツボ■
- トヨタの品質管理法に「5回のなぜ」がある
- 「5回のなぜ」を使うと、効果的な解決法が見つかる
- 見つかった解決法には優先順位をつけて実行する
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