台湾脱線事故で「問題なかった」はずの日本車両が訴えられる理由

 

問題は、現在の1本マスコンというのは、その時々の状況に応じて電流を流して加速する、電力回生ブレーキをかける、回生が効かないか、最後の停止の場合は空気ブレーキもかけるという3つの動作を、電子回路が判断して自動的に制御するようになっています。ほぼブラックボックスになっていて、何も起きなければこの1本マスコンを操作するだけで、運転ができます。

問題は、事故の前に空気圧が足りないという報告がされていたということです。ですから、次のような流れが想定できます。

  1. 電気の行き場がない回生失効がたびたび起きていて、それで空気ブレーキを何度もフルで使った
  2. ブレーキングを繰り返したので、空気圧が足りなくなった
  3. 空気圧が足りないまま発車した
  4. 郊外に差し掛かった地点で、周囲に電気の行き場がなくなって回生失効した
  5. そこで空気ブレーキに頼ることになったが空気圧が足りないので、ブレーキが効かなかった。

このストーリーですが、実は絶対に起きない話です。つまり「フェール・セーフ」というシステムが作動して、そんな状態では車両は動かないようになっているからです。

そこで一つの疑惑が生じます。事故を起こした線区ですが、全体を管理しているATPという安全装置は欧州仕様のものが使われています。

一方で、システム上、純粋に日本の車両・システムであれば「空気圧が足りないのにブレーキが解除できる」とか「ブレーキ力が全体的に足りないのに制限速度以上で走れる」ような「安全装置の外し方はできません

ですが、「ハードは日本製+ソフトは欧州仕様」というチャンポンをやった結果、そのようなタブーが起き得るような状態になっており、運転士がATPを切った結果として、ブレーキ力が足りないのに140キロが出せたという可能性が濃厚です。

百歩譲って、日車さんが「謝っちゃえばいいんでしょ」と言って謝ったり直したりしたような「配線ミス」があったとしましょう。仮にそうだとして、日車の説明のような「ATPをオフにしても指令に伝わらなかったというミスというのは違うと思います。

というのは、今回の事故では「ATPは切ってます」ということは指令に伝わっていたらしいからです。無線で話して伝わっている話なのに配線ミスで伝わらなかったので事故になったというのでは話が矛盾しています。

仮に配線ミスだとしたら、日本仕様の電車の安全装置を「欧州仕様のATPに接続する上での配線ミス」ということで、「空気圧がなくて、動かせない仕様なはずなのに車両を走らせることができたというストーリーになるはずです。

これも仮説ですが、仮にそうだとしても、今回の事故では「遅延を恐れて、何が何でも走らせた」のが問題なのですから、運転士は、非常手段を使ってでも「空気圧が足りない」のに発車させたわけで、問題はその判断だと思います。日車製の車の安全装置がATPに繋がっていなかったのが事故原因とはならないはずです。

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