問題は、現在の1本マスコンというのは、その時々の状況に応じて電流を流して加速する、電力回生ブレーキをかける、回生が効かないか、最後の停止の場合は空気ブレーキもかけるという3つの動作を、電子回路が判断して自動的に制御するようになっています。ほぼブラックボックスになっていて、何も起きなければこの1本マスコンを操作するだけで、運転ができます。
問題は、事故の前に「空気圧が足りない」という報告がされていたということです。ですから、次のような流れが想定できます。
- 電気の行き場がない回生失効がたびたび起きていて、それで空気ブレーキを何度もフルで使った
- ブレーキングを繰り返したので、空気圧が足りなくなった
- 空気圧が足りないまま発車した
- 郊外に差し掛かった地点で、周囲に電気の行き場がなくなって回生失効した
- そこで空気ブレーキに頼ることになったが空気圧が足りないので、ブレーキが効かなかった。
このストーリーですが、実は絶対に起きない話です。つまり「フェール・セーフ」というシステムが作動して、そんな状態では車両は動かないようになっているからです。
そこで一つの疑惑が生じます。事故を起こした線区ですが、全体を管理しているATPという安全装置は欧州仕様のものが使われています。
一方で、システム上、純粋に日本の車両・システムであれば「空気圧が足りないのにブレーキが解除できる」とか「ブレーキ力が全体的に足りないのに制限速度以上で走れる」ような「安全装置の外し方」はできません。
ですが、「ハードは日本製+ソフトは欧州仕様」というチャンポンをやった結果、そのようなタブーが「起き得る」ような状態になっており、運転士がATPを切った結果として、ブレーキ力が足りないのに140キロが出せたという可能性が濃厚です。
百歩譲って、日車さんが「謝っちゃえばいいんでしょ」と言って謝ったり直したりしたような「配線ミス」があったとしましょう。仮にそうだとして、日車の説明のような「ATPをオフにしても指令に伝わらなかった」というミスというのは、違うと思います。
というのは、今回の事故では「ATPは切ってます」ということは指令に伝わっていたらしいからです。無線で話して伝わっている話なのに、配線ミスで伝わらなかったので事故になった、というのでは話が矛盾しています。
仮に配線ミスだとしたら、日本仕様の電車の安全装置を「欧州仕様のATPに接続する上での配線ミス」ということで、「空気圧がなくて、動かせない仕様」なはずなのに、車両を走らせることができたというストーリーになるはずです。
これも仮説ですが、仮にそうだとしても、今回の事故では「遅延を恐れて、何が何でも走らせた」のが問題なのですから、運転士は、非常手段を使ってでも「空気圧が足りない」のに発車させたわけで、問題はその判断だと思います。日車製の車の安全装置がATPに繋がっていなかったのが事故原因とはならないはずです。