人生相談といえば、質問者に寄り添った、厳しさの中にも優しさが溢れている回答がなされる、というイメージがありますが、やはり世の中は広いもので、そんな思い込みを払拭してしまうような書籍が存在します。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介しているのは、直木賞作家の車谷長吉氏による人生相談をまとめた本。「反時代毒虫」である彼の、全く相談者に寄り添わない回答とは?
偏屈BOOK案内:『車谷長吉の人生相談 人生の救い』
『車谷長吉の人生相談 人生の救い』
車谷長吉 著/朝日新聞出版
「運、不運で人生がきまるの?」と問う、就職活動でまだ内定がない22歳の大学生。その回答は3ページにわたって、回答者・車谷長吉の自分と弟の不運語りに尽きる。兄弟とも遺伝性蓄膿症で鼻呼吸ができない。「不運な人は、不運なりに生きていければよいのです」と突き放すのが回答というんだから、人生相談として不成立のような気がする。相談者を返り討ちするような回答もある。
回答者としてどうよ、車谷長吉。人間としてどうか、とまで言われかねない辛辣な対応。ほんとにこれが人生相談なのか。全部創作ではないのかと思ったくらいの、異色の人生相談が実在した。朝日新聞別刷に掲載された人生相談をまとめた本がコレ。“最後の文士”にして“反時代的毒虫”たる著者、というのがセールスポイントである。相談者に“寄り添わない”潔いスタイルが素敵!
「老後の夫婦が円満に生きるための秘訣を知りたい」という、まとも過ぎる質問。わたしもちょっと気になる。それにどう応じたか。回答「円満の秘訣など人生にひとかけらもなし」ときた。車谷は結婚したら妻から、家を買ってくれ、高級洋服を買ってくれ、船で世界一周の旅に連れて行け、など様々な要求をされて、53歳で脅迫神経症に罹り、10年近くの神経科病院通いになったという。
散々自分語りをしておいて、最後に「いままでのところ、あなたはなまくらな人です。世の9割の人は、そういう人ですが」。そうくるかい。まるで回答になっていない。「いろいろ心配にとりつかれている」という相談に、「つまり、人生には救いがないということです。その救いのない人生を、救いを求めて生きるのが人の一生です」って、まったく救いがない。加えて余計なことを。