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軍事アナリストが問題視。国民の生命を守れないヘリポートの実態

メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、自身が撮影した2枚の写真を提示して、お役所仕事の典型で、日本企業の当事者意識の欠如の顕れだと厳しく指摘しています。国家の安全を図り、国民の生命財産を守るためには、個別のテーマを丹念に押さえて、その解決、改善のために税金を投入しなければ、政府が掲げる「国土強靭化」など図れないと訴えています。

国土強靱化が空念仏に聞こえる光景

この2点の画像をご覧ください。あまり鮮明ではないのですが、最近、私がiPhoneで撮影したものです。日本のお役所仕事の典型日本企業の当事者意識の欠如を物語ってあまりあります。

上は、東京・丸の内の三菱商事ビルの屋上、下は大阪駅前のビルの屋上です。

どちらにも共通しているのは、ヘリコプターが人命救助のために下りてきても、ローター(回転翼)がぶつかる位置にアンテナなどが立っている点です。

人命救助のために屋上にヘリコプターが接近する場合、「H」の標識のものはヘリの重量などに堪えるヘリポートで、着地できます。一方、「R」はレスキューのための施設で、ヘリポートのような堅固な構造ではなく、救助の時は上空にホバリングして要救助者をつり上げることになっています。日本の法律では、これでよいことになっています。

しかし、写真のような位置にアンテナが立っているとヘリがホバリングする高度はかなり高くなり、つり上げられた要救助者が振り子状態に揺られる危険性は増すことになります。

また、米国の消防や警察のヘリが行うような、荷重に耐えない「R」の施設については、片側の車輪やスキッド(降着用そり)を接地させて、短時間にできるだけ多くの要救助者をヘリの機内に収容することも、アンテナがあってはできません

これは、日本のお役所仕事の典型です。実際に使えるかどうか、この場合は人命を救えるかどうかなど何も考えることなく、「ぼーっ」としたまま設計図を引き、税金をつぎ込んで設置し、運用に支障がないことを確認することもなく、「めでたく」落成させた挙げ句の姿です。

東京、大阪のビルの屋上の様子は、それこそドローンでも確認できるわけですが、それをやろうとしなかった東京都と大阪市、そして東京消防庁と大阪市消防局は、このヘリスポットが原因で人命が失われたとき、阪神・淡路大震災の時のように、それこそ「知恵を絞って」、不作為を正当化するための言い訳をするのでしょうね。

ビルの屋上だけではありません。私が関わっている新東名自動車道のサービスエリアのヘリポートも、多かれ少なかれ問題がありました。関係機関のヘリパイロット43人でチェックのための地上からのツアーを2回行った結果、誰が見ても明らかなほどヘリのローターが当たる位置に立てられていた風向きを教えるための吹き流しのポールを切ることから始まり、ヘリポート自体の位置をずらすことまで行わなければならなかったのです。

このときわかったのは、新東名を運用するNEXCO中日本だけでなく、静岡県、国土交通省航空局の担当者にヘリコプターを運用する基礎知識すらなく、コンサルティング会社に丸投げしていたという実態です。しかも、このコンサルもまたヘリの寸法に合わせたヘリポートを設計図に描き込むことはできても、ヘリの運用についてはまったく無知でした。日本中が「畳の上の水練」のオンパレードといってもよい惨状なのです。

はたして、これで国家の安全を図り、国民の生命財産を守ることができるのか、考え込まざるを得ません。いかに自衛隊が能力を向上させても、その活動を支えるインフラ的な部分が虫食い状態、白アリの巣のようになっていては、いかんともしがたい面があるのです。

国土強靱化というのであれば、こうした個別のテーマを丹念に押さえていき、その解決、改善のために税金を投入するのでなければなりません。(小川和久)

image by: kazpon, shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

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