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我が子がバカにされないため読ませたい本と「徹底反復」の重要性

ベストセラーとなった『声に出して読みたい日本語』の著者で、さまざまなメディアでも活躍中の齋藤孝さん。氏が国語教育への積年の思いを込めて出版した一冊の本について、同じく教育に尽力する陰山英男さんと語り合った対談の内容が、今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』で紹介されてています。

いまのような国語の教科書のレベルでいいのだろうか

小学校1年生の時に言葉というものが好きになれば、国語について一生苦労することがない──。

長年日本語教育に携わってきた明治大学教授・齋藤孝氏のそんな思いから一冊の本が生まれました。『齋藤孝のこくご教科書 小学一年生』です。

小学生に与えるには、どのような国語の題材が理想なのでしょうか?音読などを取り入れた陰山メソッドで知られる陰山英男氏とともに、現代の教育の問題点や幼少期に国語教育が果たす役割、文化遺産としての日本語の価値などを交えつつ、語り合っていただきました。


陰山 「齋藤先生の新刊『齋藤孝のこくご教科書 小学一年生』を拝見しました。一読して、そのレベルの高さに驚きましたね。夏目漱石の『坊っちゃん』はあるわ、『平家物語』はあるわ、俳句・短歌はあるわ……。国語教育の再生に懸ける先生の思いの強さのようなものが伝わってきたんです。この本のことは早くから構想されていたのですか」

齋藤 「私は『声に出して読みたい日本語』がベストセラーになったことがきっかけで、NHK Eテレの子ども番組『にほんごであそぼ』の総合指導を長くやらせていただいています。番組は幼い子供たちに優れた名文に触れる喜びを提供するのが狙いなのですが、指導を通して『幼児が小学校に上がった時に、いまのような国語の教科書のレベルでいいのだろうか」『小学校一年生という人生で非常に大事な時期に最高の教科書に出合わせてあげたい』という思いがずっとあったんです。

いま小学校で使われている教科書は割合絵が多いんですね。文章を読み、絵を見ながら『皆で一緒に考えてみよう』とか『この文章からどういうことが考えられるかな』とか、話し合いを前提に授業が行われるのは一見いいようなのですが、いかんせん活字量が少ない。そもそも国語というものは膨大な活字に触れて、日本語の基本を身につけるものなのに、いまのままの教科書でスタートするのでは、到底学力は高まっていかないだろうと。

そんな危機感から今回、小学一年生を対象とした本を上梓したわけなんです」

陰山 「確かに現在の教科書はより易しくという傾向にあって、子供たちに与えるのに決して望ましいものではありませんからね」

齋藤 「私の『こくご教科書』には、子供たちに馴染みのない文語体の文章もかなり収録されていますが、学年配当の漢字に気を使うよりも、ふりがなを振って価値のある文章をしっかり音読することを重視しています。

担任の先生が先導して子供が復唱するような音読指導をご家庭でもやっていただく。意味はまだ読み取れないとしても、よい言葉を体に刻み、日本語の学力を最高に引き上げるには、それが一番シンプルで確実な方法だというのが私の一貫した主張です。

私は教育学者として、実はこの国語教育の改善については積年の思いがありました。文部科学省の局長クラスの人に『いまの教科書ではいかがなのか』という意見を再三言ってきました。

2020年から全国の小中学校で『主体的対話的で深い学び』がスタートするわけですが、日本語を読む力を抜きにして、ただ対話だけをしていて果たして国語力を中心とした学力が向上するのかというと極めて疑問ですね。私自身、30年間、教育方法を専門にやってきて、アクティブ・ラーニング(グループディスカッションやディベートなどを取り入れた能動的な学習方法)を中心とした授業運営がいかに難しいか、そのことをよく知っていますから」

陰山メソッドを導入したのに、成績が急降下したのはなぜか?

陰山 「僕も現場の教師としていまの教育のあり方に疑問を持ち、割に早い段階から小学校の授業で音読などを取り入れてきました。

意外だったのは、僕たちが高校で習った一見難しいイメージの古典を子供たちが自然に受け入れていったことですね。私はこのことに気づいて以来、音読を定式化し、独自で活動するようになった現在も、陰山メソッドを導入した全国の学校で子供たちに短時間に集中して名文を読ませているわけです。

教育に音読を取り入れた結果、子供たちの学力が爆発的に伸びた。このことははっきり言えると思います。

ところが、ある時、陰山式を取り入れているある学校から『成績が急降下した。陰山式を続けているんですけど、どこが悪いのでしょうか』と相談を受けたんです。実際に足を運んで教室に入った瞬間、『もうこれは駄目だと』とすぐに分かりました。

なぜかというと、古典などの名文を授業で使っていないんです。分かりやすくて楽しい現代詩人の作品ばかりを題材にしている。それは悪いことではないのですが、決して力になる文章ではないんですね」

齋藤 「おっしゃるように、子供のうちから力のある文章を読ませる基礎トレーニングはとても大事だと思います。文章の力強さが学力や逞しいメンタルを育てる上で大きな働きをすることは間違いないでしょう」

陰山 「学力を伸ばしている学校は、小学一年生から『枕草子』などを普通に読ませていますし、『論語』の音読で成果を挙げている幼稚園もあります。「子曰く……」という独特のリズムが気に入るみたいで、短期間で覚えてしまう子も多いですね。

そのように考えると、「高校生が学ぶような難しい文章を、なぜ小学一年生に与えるのか」と否定的に発想するのではなく、「こういう文章を与えたほうが子供たちにとって力になり馴染みやすい」と考えたほうが、より実態に即していると思います」

音読の効果が出るのは「7回目」から

齋藤 「私の経験からしても、やはり音読はいいですね。以前子供たちを200人くらい集めて音読する、といったことをよくやっていましたが、先生が先導する復唱方式でやった場合、『坊っちゃん』は一冊通しで6時間くらいで音読できます。この時、大切なのは先生のリズムに合わせることで、意味の纏まりごとにイントネーションをつけながら読むと、意味がよく伝わるんです。

学力はバラバラでも、音読ができると子供たちは誰でも自信を持つようになります。優れた教育法として、音読がなぜ江戸時代から伝わってきのか。そのことの意味を改めて考えさせられますね。

例えば、宮澤賢治の『永訣の朝』にしても、音読をして解説をして、また音読をして解説をする。そうやって78回音読を繰り返すと子供たちは次第に暗誦できるようになります

最終的に大事なのは自然に暗誦してしまうまで導いてあげることで、無理矢理知識を詰め込む教育法とは違って、最も弊害が少なくていいのではないかと考えています」

陰山 「いや、いま齋藤先生は7回、8回とおっしゃったじゃないですか。さすがに現場を踏んでいらっしゃるなととても感心しました。僕の経験から考えても、力が出る反復回数はやはり7回からなんです。結果を出している教師は皆、口を揃えたかのように『7回』と言います。3回、4回、5回の反復ではまず結果が出せない」

齋藤 「1時間あれば、7回は反復できますよね。『平家物語』の「那須与一」でも「敦盛の最期」でもいいのですが、状況を説明した後に読んでまた読んでということを1時間繰り返すと、子供たちは次第にその日本語に慣れてきて『この言葉はかっこいい』などと感じるようになります。

音読の後で『現代語訳と原文と、どちらが日本語としていいか、好きなほうに手を挙げて』と聞くと、100%原文なんです。それが日本語の格の違いということなのかもしれませんね。徹底練習は7回、8回とやり続けた時に、ようやく染み込んでくるわけですが、反対に『確信を持ってそこまでやらなくては身につかない』という言い方もできるでしょう」

陰山 「反復は中途半端にやるから嫌われるんですよ。反復のよさを体感する前に、子供たちから『まだやるの?』と言われて教師はそこでやめてしまう。反復学習に悪いイメージがついてしまう。しかし、成果が出るのは、ただの反復ではなく徹底反復、具体的には7回以上繰り返した後なんです」

齋藤 「武道にも、稽古を反復することで質が変化するという考えがありますね。生クリームは最初は液体です。ところが、材料の液体を掻き混ぜていると、それが突然固体に変わる。これは永遠に液体なんじゃないかと思っても根気強く混ぜ続けていると、ある瞬間に生クリームになるんですね。音読も武道もこれと同じで、質的な変化を起こそうと思ったら、量的な反復がどうしても必要なんです。第一、『必ず生クリームになる』と確信を持ってやっていないと、やってられないですよね(笑)」

陰山 「僕も言っています。『信じる者は救われる』って(笑)。いま齋藤先生がおっしゃった『続けていると突然変わる』というのは、ものすごく重要なポイントで、僕はこれを『突き抜け』と言っています。『百ます計算』でも『音読ドリル』でも、『この子は無理だな』と思っていた子が、ある日、パーンと弾けたようにできるようになるんです。そこまではその子の可能性や自分の指導を信じるしかないわけですが、ありがたいことにご利益は生きている間に出ますから(笑)」

齋藤 「徹底反復で無意識でそれができるようになると、他のことに意識が使えるようになります。つまり、注意深くなってミスが減るんですね。スポーツで言えば徹底反復していない人は目の前のボールだけに目を奪われて周りが見えず、試合ではボロ負けしてしまう。いまの教科書は、現在の子供たちの能力をもってすると簡単すぎて徹底反復には堪えられないというのが私の率直な感想です。

昭和30年代、40年代と違っていまの子供たちは、いろいろな言語を吸収して小学校に上がるわけですから、中身のない文章ばかりでは、子供たちを軽く見ているとしか思えません。どの教科書も文字数が知れていて、その気になったら数時間あれば一冊を覚えてしまいます。練習メニューのレベルが低いと、先生方もどうしてもレベルの低い教え方になってしまう。そう考えると非常に残念ですね」

image by: Shutterstock.com

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【著者】 致知出版社 【発行周期】 日刊

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