国家として常に怠ることはできないテロへの備え。ラグビーW杯やオリンピック・パラリンピックを控えたいまの日本の対策は万全なのでしょうか?メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、警戒すべきテロと、抑止し被害を大きくしないために必要な法整備について持論を展開。特に、単独犯でも実行可能でかつ甚大な被害になりかねない大規模停電テロへの備えの必要性を訴えています。
費用対効果から見た大規模停電テロ
先日、ラジオ日本のマット安川さんの番組『マット安川のずばり勝負』に出ていたら、色々な質問が寄せられる中で原発へのテロを心配するものがいくつかありました。ちょっと整理しておく必要がありましたので、今回はその話をさせていただきます。
まず、原発に北朝鮮などが弾道ミサイルを撃ち込んでくる可能性。これはテロではありませんが、備えなければならないテーマでもあります。
対策は、日米同盟による報復能力を相手にわからせておくこと、つまり、何かをすれば100倍になって戻ってきて国ごと消滅することを知らせておくことしかありません。
原発に対するテロとしては、多数の乗客を乗せた旅客機がハイジャックされ、燃料満タンの状態で突っ込んでくる9.11型のテロが最も被害が出そうです。
各国政府と電力会社は、その場合にもダメージが最小限になるような新しいタイプに変えていく動きですが、基本はやはり、躊躇なく撃墜できるように法整備をしておくこと、それしかテロを実行させないための抑止力は生まれてきません。
乗客乗員の生命が大事だということは言うに及びませんが、旅客機による自爆テロが大都市部で起きたことを前提に、もっと多数の生命を守るという選択しなければならないのです。各国がそういう方向で取り組んでいます。
日本の原発防護の訓練シナリオに登場するテロリストや特殊部隊による迫撃砲攻撃と、それに続く自動火器を持った突入は、少なくともサブマシンガンを備えた警察部隊が備えているだけで、そう簡単には目的を達成できないわけで、攻撃を諦めさせるうえでの一定の抑止効果があります。
サイバー攻撃で原発を暴走させることも、サイバー面での守りを高いレベルで備えるのと同時に、なりすましなどによって管理者パスワードをだまし取られないようにすることが第一です。これについては、内通者や脅迫された従業員による破壊工作が起きないよう、人権を侵害しない範囲で重要な任務に就いている従業員の行動を監視することが必要です。
対策をきちんとしているところを攻撃してくるテロリストはいないわけで、その意味では日本も一定の水準になりつつあるといってよいかもしれません。
あとは、原発へのテロよりも恐ろしい大規模イベントなどソフト・ターゲットに対するテロへの対策を、オリンピック・パラリンピックまでにどこまで固めるか、そして、さらに大規模停電テロによる被害をどこまで抑え込むかでしょう。
テロリストから見て、最も簡単に実行でき、効果が得られるのは大規模停電テロです。東京の江戸川にかかる送電線をクレーン船が引っかけただけで、東京の中心部が6時間近く停電状態になりました。ブラックアウトの恐ろしさは、昨年9月の北海道胆振東部地震で、火力発電所がダウンしたケースでも明らかです。
例えば送電線を切断し、長時間の大規模停電を引き起こすことは、1人のテロリストでも可能です。プラスチック爆薬を載せた小型ドローンなどを使って送電線を切断します。そして、復旧に出てくる電力会社の人たちの近くに、ときおり遠距離からライフルで銃弾を撃ち込むだけで復旧作業は止まります。
そうして時間がたつほどに、病院などの自家発電装置の燃料が切れていきます。燃料を補給しようにも、停電で信号機が消えたことで交通が大混乱し、ほとんど身動きできないでしょう。生命維持装置など、電力で動く装置や治療が必要な人々が死に至るのです。その数は、停電時間が長引くほどに万単位になる恐れがあります。
これに対する対策は、病院などの自家発電装置の燃料を長時間、それも安全な状態で備蓄できるよう、消防法などを見直すことが第一歩となります。これは、首都直下地震への対策とも合わせて、早急に手を打たなければならない日本の危機管理の重要テーマです。(小川和久)
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