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日本ならNG「寿司にスプライト」。米国人のソーダへの異常な愛情

日本人からするとありえないサイズのボトルでコーラをがぶ飲み、というイメージが強い炭酸飲料大国・アメリカ。その実態は「初期設定」から我が国とは大きく違っているようです。米国の邦字紙『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さんは自身のメルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』で、20年近く前に渡米した際に受けた「ソーダ大国」の洗礼から今現在のソーダとアメリカ人の関係性までを、ユニークな筆致で綴っています。

SODA大国! アメリカ

渡米当初、今から20年近く前、日本食レストランでアルバイトをしたことがあります。もちろん、お米すら炊けず、できる料理は「出前一丁」しかない(料理とは言えないけれど。しかもインスタントの即席麺すらまともに作れず、のびのびにしちゃうけれど)。僕は、厨房ではなくウエイターとして半年ほど、あるお店にお世話になりました。ちなみに時給は$ゼロ。お客さんからのチップのみが報酬でした。なので、できうる限り、愛想よく客には振る舞います。つまり、ニューヨークのレストランのウエイターウエイトレスがみんなフレンドリーで愛想がいいのはチップの為…というと怒られるかもしれませんが。

今でこそ、RAMEN、UDON、CURRY RICE、と多くの日本食がこの街で市民権を得ていますが、当時の日本食レストランは、イコール、「SUSHIさんでした。従来の日本食メニューもある中、客の多くが注文するものは「SUSHI SET」。 お店の内装も、一般の大衆食堂のような中に寿司カウンターがあるイメージです。

当然、日本食レストランにわざわざ来るニューヨーカーたちは、親日派なのか、通(つう)ぶって、日本語で「MAGURO、AJI、HAMACHI、EBI…」と注文する人も珍しくありませんでした(普通の客は、やっぱり、Tuna、Horse Mackerel、Yellowtail、Boiled shrimp…です)。

あ、この人、わかってるなぁ、日本通なんだなぁと思って、お寿司を運ぶと、日本語で「ARIGATO!」と言うや否や、並んだお寿司の上から、醤油をバーって、かけまくったり。

目の前に置かれたセットのお寿司を、一つずつ何の魚か、聞かれたこともありました。これは?これは?と聞くおじさんに、いちいち「これはTuna、これはHorse Mackerel、これはYellowtail」と説明していると、玉子を指されます。「これは、ただのEGGだよ」と笑うと、あぁー、そうだったのか、と恥ずかしそうに笑い、次の瞬間、「で、何の魚の卵?」と聞いてきました。

当時は(もちろん今もそうですが)日本食レストランは高級店。国連近くのお店ということもあり、アッパークラス(富裕層)の客が多く、チップも比較的良かったと記憶しています。

でも、そんなクラスの方々でも、食事に関して、当時は解せないことがありました。

それは、ほぼ、みんな、寿司と同時に、スプライトを注文してくる。ということ。

今でこそ、すんなり受け入れている習慣ですが、渡米当初の僕には、国連で働くようなインテリ層で、しかも40代、50代、60代に見えるニューヨーカーがもれなく生魚と一緒に甘い炭酸飲料を注文してくることに驚きました。中には、「ダイエット始めたから、ダイエットスプライト」と真顔で注文してくる人もいました。

慣れとは怖いもので、今ではお寿司とコーラ、もしくはスプライトの組み合わせを全然、自然にしている自分もいたりします。社員一同で、大晦日に日本食レストランで年越しそばを食べている写真をSNSにアップした時も、多くの方から「そばなのに、どうしてレンゲで食べてるんですか!?」とか、「緑茶だよね?マグカップで飲んでるの!?」と驚きのコメントを頂きました。コメントをもらうまで、当たり前になりすぎてその違和感に気づきませんでした。僕たちはもうこっちの生活に慣れきってしまったようです。

置きが長くなりましたが、今回のメルマガのテーマです。

テーマは、これら「ニューヨークの日本食レストラン」ではなく「ニューヨーカー、ひいてはアメリカ人にとってのスプライトもしくはコーラソーダ類)」です。ちなみに、日本で「ソーダ」と聞くと、三ツ矢サイダーのような、透明の甘い炭酸水をイメージすると思いますが、こっちは、コーラもスプライトもドクターペッパーもファンタまでぜんぶSODA」と言います(ここから先に出てくる、「ソーダ」は、コーラ、スプライト、ファンタ、それら全部を指すと思ってください)。

アメリカ人がソーダが大好きなのは、いまさら目新しい話ではありませんが、ただ、日本の方が想像する以上に彼らはソーダ中毒です。ちょっと異常なほど。ひょっとすると彼らにとっての「ソウルフード」なんかもしれません。飲み物だけど。

以前、取材に行ったヨガスタジオやトレーニングジムでも、受付に、コーラの自販機が設置されていました。ヨガのアメリカ人インストラクターが「心を穏やかに」とか「体の毒素を吐き出すように、呼吸をして」とか、「体内のリズムを宇宙の呼吸に合わせるように」とか、そんなセリフを使ってクラスでセッションしたあとに、ロビーでゴックゴク、ドクターペッパーを飲んでいるところを見た時には、ひょっとして、シュガーが体に良くないことをこの人たち、知らないんだろうか、と思ったほどでした。宇宙のリズムに合わせる前にコーラやめろ

こっちのスーパーには、日本のスーパーではあまり見ることがないソーダの3リットルペットボトルが普通に売られています。主婦が、6缶セットのソーダをレジに持って行く光景は日常です。

映画館は、日本のようにアイスコーヒーや、エスプレッソや、緑茶なんてありません。バケツサイズのソーダのみ。以前、ITO ENのペットボトルのお茶を飲んだ女性が「なにこれ!まったく味がしないじゃないのよ!それで4ドル!!!????」と店員に文句を言っている場面を目撃したことがあります。

ベンダー(屋台)で、チキンオーバーライスを買うと缶ソーダが無料でついてきます。日本の屋台で何か買ったとして、コーラがおまけでついてくることは、まずないと思います。それだけソーダが身近です。デパートやホームセンターに行くと「自宅で簡単にソーダが作れるマシーン」が当たり前のように売られています。さすがに一家に1台の割合で普及しているとは思いませんが、大阪においてのたこ焼き焼き器くらいは出回っているんじゃないでしょうか。少なくとも、エスプレッソマシンなんかよりは普及しているはずです。「炭酸水と砂糖を入れて、誰でも簡単にソーダが作れる」代物が、です。

僕が渡米した20年前から、おそらくそのずっと前から、デリにはコーラ、スプライト、ドクターペッパー、それらのライト、ライム、ダイエット、ゼロカロリーが所狭しと、置いてあります。そのレギュラーメンバーの顔ぶれは今も変わっていません。日本のコンビニエンスストアのように新商品が毎月ごとにどんどん出る、なんてことはありません。逆を言えば、それだけ消費者が満足しているということ。コーラに。スプライトに。ドクターペッパーに。空前のロングセラーと言えます。

朝、出勤時に、缶コーラを片手に歩くビジネスマンもよく目にします。とにかく、この国は「SODA」だらけ、です。

日本人が、クオリティーの違いによるお米の味がわかるように、彼らも、こだわりがあるようで、アメリカ人からよく聞くのは「メキシコで製造された瓶のコカ・コーラがいちばん美味しい」という話。これ、ほんとうによく聞きます(笑)。

乾燥している国で作られているからでしょうか。僕も飲んだことはありますが、ただの「コカ・コーラ」でした。違いはまったくわからない。色々、喉越しとか、甘みとか、説明されるも、さっぱりです。コーラにこだわりを持ってどうする、と言いたくなりますが、彼らにしてみれば限りなく無味無臭の白米の違いにこだわる日本人の方が奇妙に見えるのかもしれません。

こだわりと言えば、「ペプシコカ・コーラどっち派か?という話題もよく耳にします。どっちが好き?と聞かれることも多々。「同じだろ」と笑うと、「ぜんぜん、違うよおお!」とこっち以上の大爆笑で返されます。味が違うのはわかるけどさ。語り合うほどの違いは見い出せない。

ちなみに、アメリカ人にとっての「コカ・コーラはクラシックなテイスト。昔ながらの古き良き味、らしいです。コーラが懐かしの味っていうのも、どうかと思うけれど、アトランタが本社の南部の伝統的なメーカー、といったところでしょうか。対するペプシはニューヨークが本社の「ペプシコ」。同じコーラでも、ちょっと洗練された都会の印象。CMにも力を入れて、マイケル・ジャクソンとか、マドンナとか、歴代のスーパースターを起用して、若い世代からの支持を集めました。日本人の僕からすると「コーラ」の時点で、ターゲットは若い世代じゃないの?と思うけれど、老若男女問わず、みんなが大好きなドリンクがコーラということでしょう。世界マーケットではコカ・コーラ社の圧勝ですが、北米に至っては長くペプシがリードしています。

ここまで読んでいただくと、なにかこの国自体が炭酸飲料で浸っているかのごとく「ソーダ漬け国家」のように書いてきましたが、当然のことながら、アメリカ人自体も、その風潮が改善すべきことだとは自覚しています。

結局、この国の最大最強の問題は「国民総肥満」ということです。前大統領夫人がフードでこの国を改善しようとしたことを見ても、この国の政治シーンには必ず「肥満」が話題になります。

なので、アメリカ全土、もちろんニューヨークも、まずは、コーラを含めたソーダをやめよう、という運動が盛んに行われます。甘味飲料はよくやり玉に挙げられます。自覚はあるのね。

ニューヨーク州では、10年ほど前に、パブリック(公立)の小学校で甘味飲料水の自動販売機がすべて撤去されました(というか、それまでは、あったの!!??)。

2年前(2017年)、ペンシルベニア州フィラデルフィアでは甘味飲料に1オンス(約30ミリリットル)当たり1.5セント(約1.6円)の税金を徴収し始めました。2リットル飲料の場合約1ドルの値上げに相当します。日本でもニュースになったかと思いますが、これが「ソーダ税」です。これ、州が増税したいという思惑以上に、やっぱり肥満を減らしたい、ということから始まったそうです。で、やっぱり、開始数カ月後には、炭酸飲料の消費が40%近く激減したそうです。相当、効果、あったみたい(笑)。

でも、その同年のシカゴでは、せっかくスタートした、この「ソーダ税」も開始4カ月で廃止されたそうです。理由は市民の90%近くが反対したから。もちろん「市の経済が活性化しない」という理由もあっただろうけれど、徴収した税金は子供達の教育に使われるというのだから、もうちょっと様子見てもよかったんじゃないかとは思います。

でも、例えば。

日本のビジネスマンに、縁側で日向ぼっこしてるおばあちゃんに、仕事帰りのサラリーマンに、缶コーヒーや、緑茶に、課税するぞ!と言ったところで、そりゃあ、反対されるわな。

アメリカ人にとっての「SODA」って、つまりは、それと同じなんです。

image by: David Tonelson / Shutterstock.com

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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