一般の自家用車をタクシーのように配車するサービスを展開するUBER(ウーバー)のオーストラリアが、車内にグッズを販売するボックスを設置し、売上増を図っているそうです。この仕組みに注目するのは、メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さん。マーケティングの原点に戻り、顧客体験のすき間を利用するアイデアは、他の業種にも応用できると解説します。
売上を上げるために何をすべきか?~UBERに学ぶ売上増
今号のテーマは「売上の純増」です。売上を自社製品・サービスだけで考えるのではなく、顧客の周辺に密かにある、「ニーズ」を見つけ出し、売上につなげるという事例をもとに考えていきます。
今号の特集では、
- UBERオーストラリアが導入した売上増策
- 誰がベネフィット=利益を得るのか?
- ヒントをどう掴むのか
- UBERがした工夫を
- 自社にどう当てはめるか
という順序で「顧客ニーズと売上増」について考えていきます。
UBERオーストラリアでの仕組み
『日経MJ』(4月26日)によると、オーストラリアの「グラボックス」という企業が、UBERのドライバー向けに、運転席と助手席の間に置けるガラス入りのボックスを提供。この中に、チョコやガム、炭酸飲料など、10種類くらいの商品が入っていて、お客さんが欲しい商品があれば買える、という仕組みを提供している。
シェアリングサービスとしてのUBERにとって、このサービスは、ドライバー、UBER、顧客の3者にとって、利益(=ベネフィット)が渡るようになっている。
乗客は、欲しい商品があった場合、箱にあるQRコードにスマホをかざし、Webサイトに行き価格を確認。クレジットカードやキャッシュレスシステムで買うだけ。だいたい30秒くらいという便利さ、シンプルさなので、ちょっとした移動の時や、渋滞なんかの際の気分転換にもなる。
この時に、乗客がアプリをダウンロードする必要がないところもいい。アプリのダウンロードや、ラインのフレンド登録などは、1ステップかかることもあり、機会損失になる可能性がある。
このようなサービスは、乗客へのサービスになるので、好感度もあがるため、リピートにつながる可能性も高まる。
タクシー側にとっても有益な仕組みだ。ウーバーは配車サービス向けの仕組みなので、ドライバーは社員ではなく、ウーバーの仕組みを利用し個人の車でやっている方々だ。
この仕組みで自社に1個商品が売れると、1オーストラリアドルと代金の20%がもらえるため、「1万6000円の売り上げになったから、お小遣い稼ぎになったよ」と、ドライバーにとって追加の売り上げになる。そしていうまでもなく、乗車代に加えての売上純増にもなる。
タクシーのマーケティングが難しい理由
そもそも、タクシーのマーケティングは難しいと感じていた。特に流しのタクシーの場合は、タクシーを拾うお客様側も、乗せるタクシー側も、どちらもが、それぞれを選ぶことができないからだ。
したがって、「この時間であれば、この辺にお客様がいそうだから、拾うことができるだろう」と、ドライバーのカンと経験に頼ることでお客様を見つける。しかも、そのお客様がどこまで乗るかも、乗るまではわからない。その意味でとても予測し難いビジネスだ。
最近では、位置情報サービスとAIを組み合わせて、「この曜日のこの時間で、この天気だとこの辺にお客様が多いので、そのエリアにいってください」と、会社側からドライバーに向けて、情報が渡る仕組みを使っている企業もある。逆に考えると、お客様を拾うことにのみ、売上を上げるための注力が向いてしまう。
このグラボックスの仕組みは乗車代に追加しての売上になる。顧客サービスになるがゆえに、リピートの可能性も上がる。
グラボックスではメーカーと提携をしていて、メーカーがアピールしたい新商品などを、サンプルとして、無償で提供できる仕組みにもなっている。箱の中の商品の3割はこのテスト製品で、それらが無料で提供されるためそれも顧客サービスにもなる。
売上純増のためにすべきこと
このサービスは、今までありそうだが、なかった施策だ。少量ではあるが、売上増に結びつく。こういうことを思いつくのは簡単ではない。
そこでマーケティングの原点に戻って考えてみる。UBERでの顧客体験を大分類で分けると、スマホで探し、到着まで待ち、目的地まで乗車、下車し、スマホで完了メールを受信、となる。次に、乗車中の顧客体験をさらに分解すると、車中で話をするか、スマホを見る、景色を楽しむなど。
顧客体験の各フェイズの中で、「自社ができるかことは何か?」を考えてみる。UBERのケースで言えば、「お客様が何もしていない時間にできることはないか」という発想を持つことができれば、そこから企画やアイディアが出て、実現までは近い。
その意味では、いろいろな他の業種でも応用できる、顧客サービスの一例だ。
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