MAG2 NEWS MENU

怒りのドイツ帝国。メルケル「米国は同盟国ではない」の深刻度

米中の過激な貿易制裁合戦の煽りを受ける欧州。その欧州の主要国とされる独のメルケル首相は5月9日、「米中ロには、欧州連合で対抗すべき」と欧州の方向転換を示す発言を行いました。これを受け、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、欧州が「米を主要同盟国から外そうとしている」理由や日本が今後注意すべき点などを詳しく解説しています。

メルケルはアメリカを「同盟国」とみなさない

トランプさんは、民主党最有力候補で親中のバイデンさんよりマシだと思います。しかし、事実として、トランプさんは「戦略的な大統領ではありません。大昔からそう書いていました。なぜ?

トランプさんは、中国と覇権争奪戦をしている。それなら、中国以外の国とは和解して、味方につけなければならないでしょう?ところがトランプさんは、本来味方につけなければならない日本や欧州とも貿易戦争をしているのです。

欧州とは

などなどの問題で、ことごとく対立しています。

冷戦で勝利したレーガンの動き

トランプさんの「戦略観のなさ」を理解しやすくするために、ソ連に勝利したレーガンさんの動きを見てみましょう

レーガンさんは、「ソ連は悪の帝国だ!」と宣言しました。トランプさんよりも過激な発言かもしれません。しかし、レーガンさんは、日本の中曽根さん、イギリスのサッチャーさん、西ドイツのコールさんなどと、とても円満な関係を築いた。「みんなでソ連を倒しちゃおうぜ!」という機運をつくった。

2期目になると、ゴルバチョフが折れてきたので、ソ連とも和解しました。次々とソ連から譲歩を引き出した。それが、89年のベルリンの壁崩壊、90年のドイツ再統一、91年のソ連崩壊につながっていきます。そう、レーガンさんは、ソ連打倒のために西側陣営の力を結集させたのです。

トランプ疲れで、メルケルは離反

欧州でもっともパワーのあるリーダーといえば、ドイツのメルケルさんです。なんといっても、「EUはドイツ帝国だ!」(エマニュエル・ドット)といわれる。

トランプさんとメルケルさんの仲は、最初から険悪でした。トランプさんは、はじめての会談で、メルケルさんと握手することも拒否したのです。そして、トランプさんが、「NATO加盟国は軍事費を増やせ!」という時、主にドイツをターゲットにしている。そして、「ドイツとロシアを結ぶ海底ガスパイプラインを作るな!」と脅迫している。このプロジェクトに関わる企業に制裁も科しています。一方で、「アメリカからシェールガスを買え!」と要求する。その結果、メルケルさんとドイツは、アメリカから離反しつつあります。

メルケル独首相、アメリカはもう同盟国ではない?

Newsweek 5/16(木)16:36配信

 

<アメリカをロシア、中国と同列に並べて、その挑戦を受けて立つ、と発言。トランプの所業を思えば無理もない>

 

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は5月9日、独メディアの取材に対し、欧州各国は団結してロシア、中国、アメリカからの挑戦を受けて立たねばならないと言った。アメリカを、ロシア、中国と同列に並べたのだ。

 

「同じ欧州の国といっても各国の利害はしばしば異なるのだから、団結するのは容易なことではない。それでもそうするしかない」

 

メルケルのこのコメントは、少なくとも欧州の一部の指導者は、もはやアメリカを欧州の主要な同盟国とはみなしていないことを示唆している。

「欧州の一部の指導者は、もはやアメリカを欧州の主要な同盟国とはみなしていない」そうです。

EUにもNATOにも批判的なドナルド・トランプがアメリカの大統領になってから、米欧関係は日増しに不安定になってきている。自動車部品に関する通商交渉でも、追加関税を切り札に対立が続いている。

 

5月15日の米報道によると、トランプは中国と貿易戦争を戦う間、欧州や日本への追加関税の発動を延期し、代わりに自動車の対米輸出制限を要求する意向だという。だがトランプは、追加関税を発動するか否かを5月18日までに決めなければならない。

 

欧州当局は、万一トランプが追加関税を発動したときのため、報復関税のリストを準備している。

(同上)>

トランプさんは、対中戦争で味方につけるべき欧州に対し、敵である中国と同じような扱いをしている。それでドイツは、アメリカと戦わざるを得ないことになっている。

アメリカの多くの専門家はもちろん、同盟相手のEUとの関係を貿易で損なうことに反対しているのだが。
(同上)

当たり前ですね。トランプさんが、対欧州で追加関税自動車輸入制限もおこなわないことを、心から願います。

アメリカ孤立は、当然の結果

日本は中国になびいています。もちろん、「いいこと」では全然ありませんし、「やめてほしい」と思います。欧州も、アメリカとの仲が険悪で、中ロの方に流れています。これは、「当然の結果」といえるでしょう。なぜ?トランプの哲学の結果です。

トランプの哲学は、「アメリカファースト」。個人でいえば、「自分ファースト」。会社でいえば、「わが社の利益ファースト」です。トランプの哲学について、「国益を第一にするのは当然。トランプは常識的なことをいっているのだ」という人もいます。それなら、なぜ他の国々のトップは、そんな発言をしないのでしょうか?なぜ、人は、「私は、自分第一主義者。自分の利益を最優先します」といわないのでしょうか?なぜ会社は、「わが社は、わが社ファースト。わが社の利益が最優先です」といわないのでしょうか?

当たり前のことで、こんなことをいえば嫌われるからです。嫌われたら、個人は出世できないし、会社は製品が売れなくなる。だから、「お客様の笑顔が見たい」といいます。

トランプさんの「アメリカ・ファースト」。彼は、「有言実行」でこの政策を行っています。その結果、中国だけでなく日本欧州イスラム世界との関係が悪化している。

日本は、それでもアメリカの側につくべきです。なんといっても中国は、「日本には尖閣だけでなく、沖縄の領有権もない!」と宣言している。

反日統一共同戦線を呼びかける中国

それに、21世紀の今、ウイグル人を100万人強制収容所に入れて迫害している。トランプさんはどうあれ、アメリカは日本の同盟国であり、中国よりもかなりマシ。それでも、「トランプさんは、戦略的じゃないよね」と知っておくことは必要でしょう。

image by: Nicole S Glass / Shutterstock.com

北野幸伯この著者の記事一覧

日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝のメルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。まぐまぐ殿堂入り!まぐまぐ大賞2015年・総合大賞一位の実力!

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ロシア政治経済ジャーナル 』

【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け