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日本は活かせるか?安倍首相イラン訪問で広がった外交的チャンス

高まり続けるアメリカとイランの緊張関係を和らげるべくイランを訪問した安倍首相。内外の評価は訪問前後ともそれほど高くないようですが、メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者で、国際交渉人の島田久仁彦さんは、少し違った見方を示しています。すなわち、トランプ大統領が真摯に話を聞く世界のリーダーは安倍首相だけで、現在の日本の外交力は「戦後最強」。このチャンスを官民挙げて活かしてほしいと期待の声をあげています。

イラン情勢の行方が占う国際情勢の命運

「アメリカは、いつからイスラエルの属国になったのか?」今週になってトルコの政府幹部から投げかけられた質問です。問いかけられた時には面喰いましたが、その方の補足によると、「アメリカには直接的な利害がないにも拘わらず、どうしてここまで中東地域に介入するのか?」との質問とのことでした。

それが顕著に現れているのが、イラン革命後、継続しているイランへの敵対視と、ずっとイランとライバル関係・対立関係にあるイスラエルへのアメリカによるあからさまな肩入れです。

アメリカの政権からのイスラエルサポートについては、政権によってその強弱はありますが、一貫してアメリカはイスラエルを、まるで自国の一部であるかのように庇い、国連安全保障理事会において、パレスチナ問題に絡み、アラブ諸国からイスラエルの行き過ぎた行動を非難する決議案が出る度に、アメリカは拒否権行使するか、その発動をチラつかせて、イスラエルを国連の場でもアンタッチャブルな存在に変えてしまいました。

おかげでイスラエルは発展を着々と進め、地域では最強、もしかしたら世界最高の軍事装備と技術を持つ国に発展しました。経済面でも先進国の仲間入りし、イノベーションの分野でも世界最先端を走っています。私も多くのビジネスをイスラエルと行っていますので、非常に多様でイノベーティブなアイデアにいつも驚かされていますが、イスラエルが抱えるダークサイドも数多く目の当たりにしてきました。

そんなイスラエルの台頭に継続して挑み続けているのがイランです。パレスチナ問題にシンパシーを感じるはずのアラブの周辺国よりもはるかに、イランはイスラエルの存在に疑問符を投げかけています。

イランの経済面についてはほとんどメディアでは報じられることはありませんが、非常に高学歴で優秀なエンジニアを数多く抱え、外国語に精通しており、経済力も蓄えているのがイランという国です。軍事面では、表沙汰にはなりませんが、イスラエル同様、恐らく核戦力を備えていると言われています。(そしてその2国の地域的なバランスを保っている要がトルコであることは何度もお話しました)。

アメリカはイスラエルに明確に肩入れしつつ、イスラム教の宗派の対立関係に付け込み、サウジアラビアを筆頭とするスンニ派グループを、シーア派の盟主イランと対抗させて、イランに多面での衝突を強いる作戦に出て、イランの弱体化を模索してきましたが、思う通りには進んでおらず、地域の大国としてのイランの地位は揺らいでいません

オバマ政権下では、これまでのアメリカの政権とは少し違い、イラン封じ込めとイスラエル防衛のために、そしてアメリカがかき回すだけかき回したアラビア半島の安定のため、イラン核合意を通じてイランを取り込み、ドイツ、英国、フランスなども巻き込んだ『監視下』にイランを置きました。

しかし、トランプ大統領は、他の政策の例にもれず、オバマ政権での“成果”をすべて覆し、イラン核合意からの一方的な離脱を宣言し、その後、対イラン制裁を強化しています。再度、アメリカとイランは直接的な衝突を含む緊張状態に入ったことは、ニュースなどを通じてご存知だと思います。

今や相互に威嚇しあい、共になかなか退けない状況に陥るほど、緊張は高まっています。トランプ大統領は「イランがこれ以上軍事的な威嚇を続けるのであれば、戦争も辞さない」と発言していますし、それに対抗してイランのロウハニ大統領は「脅威には脅威を。戦争には戦争を」と発言しています。

最近になって、トランプ大統領の対イランの口調は変わってきており、対話のチャンスを探っているような雰囲気を醸し出して、硬軟使い分けて打開策を探っているようですが、なかなかうまくいっていません。 そこでイランそしてアメリカが目を付けたのが、両国と良好な関係を保っている日本と安倍総理大臣です。恐らく現在、政治的なリーダーの中で、暴れん坊将軍のトランプ大統領がちゃんと話を聞く相手は安倍総理だけでしょう。それは世界中から認識されており、ゆえに各国の『安倍詣』が活発化しています。

恐らく日本にとって外交的には戦後最強の外交力でしょう。イランもその力は認識しており、ザリフ外相の突然の日本訪問にも表れているように、アメリカと対峙するにあたっての日本の持つ可能性に希望を見出しているように思われます。それは、恐らくトランプ大統領にとっても同じでしょう。

そして今、安倍総理大臣はテヘランに赴き、12日夜にはロウハニ大統領と、そして13日には、なかなか外国のリーダーと面談しないと言われている最高指導者ハーマネイ師と会談したことから、メディアを通じて報じられるイラン国民の期待は低いものの、イラン政府側の期待の高さが窺えます。

表向きは『アメリカとイランの間で高まる一方の軍事的な緊張を和らげるための仲介役』を期待されてのテヘラン訪問とされていますが、実際には、日本はちゃんとPlayerとしてイランと向かい合っていることに、ほとんど気付いていません。

ロウハニ大統領とは国連総会の度に会談していることから日本とイランの外交関係は強固なものですし、今回の訪問におけるロウハニ大統領との会談後の記者会見でも、日本がイランと独自にPlayerとして接していることが窺えます。

アメリカとの間で高まる緊張に対して懸念を示し、戦争からは何も生まないというように『仲介者』としての面子は保ちつつ、ロウハニ大統領の口を通じて、日本はイランからの原油買い付けに関心があり、イランとの経済関係の発展に関心が高いことが示されています。 5月1日付で、アメリカは、同盟国に対してイラン産原油の禁輸を呼びかけ、追随するように要求しており、日本もそれを受け入れていますが『仲介』の任を負うにあたり、ただ長年の友人というだけでなく、イラン政府にとっても日本の仲介を受け入れるための要素がないといけませんから、日本サイドから(そしてアメリカからも)表立った発言はないですが、何かしらの経済的なディールの可能性を見て取れます。

それは、日本、アメリカ、イランがもつそれぞれのInterestsが背後にあります。日本としては、原油の有力な調達先を確保しておきたいというInterestがありますし、イランとしては、収益の源泉となる関係をキープしたいというInterestもあります。 そしてアメリカにとっては、イランを威嚇し続け、ペルシャ湾に部隊を展開してプレッシャーをかけつつも、大統領選挙を控えて今、中東地域全体を火の海にしかねないイランとの開戦は絶対に避けたいとのInterestがあります。

先日のトランプ大統領の訪日時にどのようなやり取りが具体的にあったのかは知る由もないところですが、安倍総理大臣がイラン訪問する旨を持ちかけた時、何かしらのディールが両首脳の間であったのではないかと私は見ており、恐らくトランプ大統領から安倍総理に対して、ある程度のフリーハンドとジャパンイシューの話し合いを許容するような動きがあったのではないでしょうか。

日本国内のメディアも海外のメディアも、今回の安倍総理のイラン訪問がbreakthroughとなるとは報じていませんし、恐らく私もそうはならないと考えていますが、今回の訪問は、日本外交にとってとても大きなチャンスを生んでいると考えています。

イランのアメリカに対する警戒感と対抗心が揺らぐことにはならないでしょうし、アメリカも国内外への体裁上、態度を緩和させることもないですが、今回、日本の安倍総理という【クッション】を入れることで、最悪の事態を防止するための“弁”が確保されたと見ています。

今回の訪問を受け、今後、日本とイランの間の交流は盛んになるでしょうし、恐らく安倍総理は、シャトル外交という名が相応しいと思われるほど、テヘランとワシントンDCを行き来し、東京に要人を招いて事態の打開を図るという【仲介役】の立場を確立できるものと考えます。

同時に、日本にとってもイランにとっても、経済的な利益は確保されますし、同じく友好的な関係にあるイラン周辺のアラブ諸国やイスラエルとの間にも、より強い信頼関係と絆が築かれるのではないかと期待しています。もちろん、今回の訪問できちんとそのきっかけを総理が作れるのであればという条件付きになりますが。

アメリカとイランの直接対話が現段階では非常に困難で、欧州諸国もすでに対アメリカ、対イランの影響力が著しく低下している中、日本がアラブ・中東地域の安定のために果たせる役割は、これまでになく大きいと思われますし、私も各国からそのような声を聴いています。

あとは日本政府および企業をはじめとする民間勢力が、この機会をいかに活かすことができるかです。いろいろと懸念もあるでしょうが、考えて迷っているくらいなら、まずは動いてみてほしいと期待しています。その先に見えるのは、日本が安定に寄与した新しい国際秩序かもしれません。

image by: 首相官邸

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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