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F-35の導入は「トランプ大統領の圧力」という批判が正しくない訳

『現代ビジネス』の6月8日号に掲載された東京新聞の半田滋氏の原稿について、軍事アナリストの小川和久さんが「正しくない」とツイートし、議論が盛り上がったようです。これについて、小川さんが自身のメルマガ『NEWSを疑え!』で、ツイッターでは説明しきれない発言の根拠を解説。日本がF-35の調達を決めたのは決してトランプ政権の圧力によるものではないことや、F-35の真に重要な役割について説明しています。

安倍が憎けりゃF-35まで憎い

6月8日号の『現代ビジネス』は、「日本がF35を『爆買い』のウラで、米軍はF15の大量購入を決めた やはり、騙されているのか…?」という刺激的なタイトルで、半田滋氏(東京新聞論説兼編集委員)の原稿を配信しました。

これについて、私が「正しくない」とツイートしたことで、ネット上で盛り上がることになってしまいました。火をつけた手前、ネットの議論をそのままにしておくわけにはいきませんので、半田さんの記事で気になる点を以下に記しておきたいと思います。

1)米国防総省が2020年度予算案で、2024年度までの5年間にF15EX戦闘機80機を調達するとしていることを取り上げ、半田さんは「日本が退役させると決めたF15を米国は80機も購入するというのだ」としています。

半田さんも、米国が80機の調達を決めたF15EXは優れた対地対艦攻撃能力を備え、日本が退役させていくF15とは違う機種だということには触れてはいます。しかし、F-35の導入が気に入らないようで、次のように海兵隊出身の統合参謀本部議長の見解を引用してみせます。

「ダンフォード統合参謀本部議長は3月にあった米上院軍事委員会で『機体価格でF15EXはF35と比べて少し安い程度だが、維持管理費の面では、F15EXはF35の半分以下である。機体寿命の面では、F15EXはF35の2倍以上である』と明快に説明した」

価格の高いSTOVL(短距離離陸垂直着陸機)のF-35Bを導入する海兵隊にとっては、その通りだと思います。しかし、米国の空軍、海軍、海兵隊による航空戦力が、多様な機種によって重層的に構成されていることがすっかり忘れられています。「F-35かF15EXか」というのは、子供じみた議論なのです。

2)半田さんは「安倍政権のお家の事情」で、昨年までF-2の後継機をF-15の後継機より先に決定する方向だったのに、入れ替え時期の順番が逆転したとしています。そして、その背景に「2017年11月に初来日した際、トランプ氏は『非常に重要なのは、日本が膨大な武器を追加で買うことだ』と述べ、具体的にF35などを例に挙げて、武器購入を迫っていた」と、米国の圧力の存在を仄めかしています。

これは間違いです。既に2011年末にF-35の導入が決まったとき、導入計画の修正の方向は明確になっていたのです。

F-4の後継として14年間に42機を導入する計画では価格も高騰しやすいという問題がありました。航空戦力の向上という点でもスピードアップする必要も考えなければなりません。そこで、100機あまりの非改修型のF-15の後継機としてF-35を導入し、F-2の後継機は第6世代戦闘機の開発を視野に考えることにしたのです。年間10機ずつ、10年で導入するのが最も経済効果があるという計算に基づき、それを視野に入れて計画の修正を検討していました。

それもあって、中期防衛力整備計画(現行は2014年度から2019年度)に「近代化改修に適さない戦闘機(F-15)について、能力の高い戦闘機に代替するための検討を行い、必要な措置を講ずる」と書き込まれたのです。

だから、トランプ政権が登場するはるか以前に方向性は決まっていたのです。もっとも、これは10人以下の人間の間でしか知られていなかったことで、半田さんの情報源が知らなくても仕方ないかもしれません。

3)半田さんは、「そもそもF35は、それほど優れた戦闘機なのだろうか」と問いかけています。そして「その答えは米政府がF35ではなく、F15EXを80機も購入することから明らかだろう」と書きましたが、それが全くの間違いであることは上記の通りです。

さらに「問題のひとつは、機体そのものにある」としている点も、一知半解と言わなければなりません。

半田さんは、その根拠として米国議会政府監査院(GAO)を引き合いに出して、「米会計検査院(GAO)は今年3月、『F35は深刻な欠陥を抱えたままで、今後数年は解決しない問題もある』と指摘した」と書きました。

確かに、GAOの会計検査と行政監察の能力は極めて高いレベルにあり、米空軍が750機の導入を計画していたF-22ステルス戦闘機を、試作機を含めて197機に削り、生産中止に追い込んだ実績もあります。しかし、GAOの指摘イコール生産中止といった段階なのでしょうか。違います。半田さんの記事に「今後数年は解決しない問題もある」とあるように、解決できることを前提とした指摘なのです。

そして、なによりも半田さんの記事に欠けているのは、F-35が、米国が進めるNCW(ネットワーク中心の戦い)のプラットホームのひとつだという視点です。

NCWは、地球を周回している早期警戒衛星や偵察衛星から、地上の歩兵までをネットワーク化し、そこで共有される情報を戦力化していこうという考え方です。だからこそ、F-35についても、イージス艦の1.5倍とされるコンピュータの情報処理能力こそ「命」であり、ステルス性などは「常識」と位置づけられているのです。

このような点を踏まえて、F-35に対する冷静な評価が行われることを期待したいと思います。(小川和久)

image by: Staff Sgt. Madelyn Brown / U.S. Department of Defense

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

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