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障がい者雇用の現場で交わす「コトバ」に現れる、会社の「文化」

2018年4月に施行された改正障害者雇用促進法により、法定雇用率が引き上げられるとともに、精神障がい者も雇用率に含むことに変わりました。法令遵守に取り組む企業の中でも、その姿勢にはさまざまな「温度」があるようで、そこで交わされる「コトバ」に会社の文化が出ると、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは語ります。引地さんは、支援者と企業の障がい者雇用の担当者がコミュニケーションを深める必要があると訴えています。

障がい者雇用で露呈する会社の「コトバ」は文化が作る

障がい者を一般企業の「障がい者雇用」での採用を目指して支援している者として、企業とコミュニケーションを交わしていると、その発せられたコトバから企業の文化が見えてくると考えている。 障がい者雇用という新しい流れに、新しい価値観で対応しているのか、「面倒くさい」と臨むのか、何気ない言葉でもその会社の文化を物語ってしまうから面白い。

知的障がいをはじめ複数の障がいがあり長年就職活動続けながらも採用にこぎつけないある40代の男性が、先日やっとのことで都内の中規模製造業の企業の内定を得た。私も面接に同行し、先方の工場長は「障がい者雇用は初めてだから」としつつ挑戦してみることになった。 その男性と私は歓喜しつつも、男性の障がい特性として新しい環境への不安や、説明が分からなくなると何もできなくなったりするから、初日を何とか乗り切り、特性を知ってもらいながら定着させていこうと考え、就業初日に向けて何度も「分からなかったら、聞く」などのアドバイスを繰り返した。

そして臨んだ初日。結果、採用担当者から夕方に言われた言葉が、「会社がボランティアではできない」だった。つまり、生産性を重視する会社では雇えない、との結論である。 男性も私も残念な思いに打ちひしがれたが、すぐにほかの大手企業の特例子会社から採用に向けての実習が決まり、同じような特訓をして臨んだ。3日の予定ではあったが、1日目で採用はできないとの結果に至った。

その時の説明は「すみません。私どもで対応できる能力がありません」だった。前者の企業の言葉は、経験不足も考慮しても、障がい者を理解しようとしない排除の心理が現れており、時代遅れの一言。後者の特例子会社は「何とかしないと」というニュアンスも伝えられ、理解しようという姿勢がにじみ出ていた。

このように障がい者雇用をめぐる「コトバ」を数多く聞いていると、そこににじみ出た会社の文化に会社の価値も連動してきそうだ。時代の流れを捉えつつ、正しい言葉を紡ぐ会社の文化であってほしいと思う。

文化はその醸成された環境や習慣が蓄積された結果、知らずのうちに出来上がったアイデンティティのようなもの、会社の歴史ともいえる。法定雇用率に従い、一定規模の企業には障がい者を雇用しなければいけない状況は最近のこと。歴史の長い会社にとっては長年の文化とどう融合していくかも問われている。

大企業が特例子会社を作り、障がい者雇用を推進することにやりがいを見出して、特例子会社の管理職やスタッフになる人は、会社の中で新しい文化を作るやりがいからか、いきいきした言葉で、当事者を想い、そして行動している。先ほどの話で言えば、後者のタイプである。

実習前にも、採用できる基準として技術的なことではなく、コミュニケーションと他者との親和性であると明確にしていたので、実習の結果も誠実なコトバで評価してくれた。

支援の仕事のうち精神疾患者向けの就労移行の支援者は、言葉によって当事者の気持ちを左右するから、言葉に敏感である。自分の言葉が当事者にどのような影響があるかを考え、そしてその言葉が嘘であってはならないから、慎重かつ丁寧に言葉を紡ぐ。かといって、何とか働きたいと思いを受け止めての支援だから、その言葉は有機的な響きを持つもの、夢と希望が見えるものにもしなければならない。

そのような支援者と障がい者雇用を担当する企業の担当者が交じり合い、コミュニケーションの質を上げていけば、会社の文化は変わり、素敵なコトバが出てくるはずだ。

image by:  Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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