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アルペンの逆襲。スキー客激減もアウトドア進出で復活の大逆転劇

スキー人気の凋落で瀕死の状態にあったアルペンですが、昨年から展開するアウトドア専門店が人気を呼んでいます。アウトドアという新たな鉱脈は、苦戦が続く同社をV字回復に導くのでしょうか。今回、フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、同社アウトドア旗艦店を現地取材。そこから見えてきた「明るい兆し」の数々を紹介しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

アウトドアのトレンドにいち早く対応で視界良好のアルペン

アルペンが昨年4月より展開しているアウトドア専門店が好調だ。今年4月19日、千葉県柏市郊外のロードサイドにオープンした「アルペン アウトドアーズ フラッグシップストア 柏店」は、世界最大級という約2,300坪の売場面積に、450ブランド、商品数10万点と過去に類を見ない圧倒的な品揃えで人気が爆発。同社では「想定を上回るお客様にお越しいただき、売り上げも計画以上」(同社・広報)と喜んでいる。休日ともなれば車の渋滞を引き起こすほどで、店内には顧客が溢れかえっている。大規模商業施設「セブンパーク アリオ柏」の斜め前にある好立地も、集客に寄与している。

アルペンアウトドアーズ フラッグシップストア柏店

同社のアウトドア専門店には3つのタイプがあり、「マウンテンズというプロ向きの登山用品専門店が名古屋市と東京都練馬区に各1店、計2店。山でのアクティビティである、登山、トレッキング、バックカントリーなどの用品を揃えた。去る6月21日にオープンした練馬関町店は、「マウンテンズ」の新店で、同社のアウトドア専門店では都内初進出。470ブランド、4万7,000点の商品をセレクトしている。

アルペンマウンテンズ練馬関町店(6月21日オープン)

次に「アウトドアーズというキャンプ用品を中心としたファミリーがターゲットのカジュアルなアウトドア用品を販売するショップが、愛知県春日井市、京都府宇治市、香川県宇多津町、鹿児島市に1店舗ずつ、計4店ある。なお、春日井店が同社のアウトドア専門店の1号店で、160ブランド、5万点以上のアイテムで売場展開して大きな反響を呼んだ。

さらには、両方の商品を揃えた旗艦店フラッグシップストア」が、前出の千葉県柏市と、福岡県春日市にある。福岡春日店は売場面積は1,200坪あり、ブランド数350、商品数8万点以上を誇り、柏店に次ぐ迫力満点の大規模なアウトドア専門店である。

作業服専門店の「ワークマン」が昨年9月よりアウトドアにシフトした「ワークマンプラスを出店して爆発的な人気となっているが、スポーツ用品を販売してきたアルペンも、アウトドアに進出してどの店も集客好調とロケットスタートを決めている。異分野からのアウトドア参入が相次いでおり、成功事例が次々と出てきている状況だ。

【関連記事】● 作業服の「ワークマン」が始めた新業態に若い女性も殺到する理由

アルペンがアウトドアに取り組む理由としては、キャンプ人口山でのアクティビティを楽しむ人が増えている背景がある。一般社団法人 日本オートキャンプ協会がまとめた「オートキャンプ白書2018」によれば、17年に車で行くキャンプを楽しんだ人は840万人で、前年比1.2%増となり、12年の720万人から5年連続で増加している。団塊ジュニア世代を中心に家族でキャンプに行く人が増えていること、若い女性を中心にホテル並みのおしゃれな空間や食事を楽しむグランピングが定着してきたことなどが、好調の要因として挙げられる。このようなアウトドア体験はSNSで拡散されさらなる人気を呼んでいる

また、2020年の東京オリンピックで「スポーツクライミング」が新しく競技に加わるが、アウトドアで行われてきたことが一部屋内化していることも、アウトドア市場の拡大に貢献している。川下りの「ラフティング」を楽しむ大学生をはじめとする若者のグループも増えており、山でのアクティビティのバリエーションが多くなってきているのも、アウトドアには追い風となっている。

新しいヒット業態に社内の空気も明るく

改めて言うまでもなく、同社は1990年代のスキーブームの主役を張った企業で、93年の『ロマンスの神様』を皮切りに2002年まで毎年、ミュージシャン・広瀬香美さんの曲をキャンペーンソングに採用したCMにより、多大なインパクトを日本社会に与えた。

しかし、日本経済の長期にわたるデフレもあり失速。既に同社のウィンタースポーツの売上比率は5%台にまで落ちている。神田神保町の「アルペン 神田店」も16年2月に閉店。近年は気候変動により、スキー場が雪不足に悩まされる年も多く、18~19年のシーズンもスキー用品の販売は低調だった。

日本のスキー・スノーボード人口は、長野オリンピックが開催された1998年の1,860万人をピークに、17年には530万人へと3割以下にまで激減してしまっている(日本生産性本部「レジャー白書」より)。柏のアウトドア旗艦店のディスプレイを見ていると、もうアウトドアの一部としてスキー用品が位置づけられている。時代が違うということだ。

スノーウェア売場。「スキーのアルペン」の十八番

ゴルフもまた、近年は若手ゴルファーの活躍でやや見直されてきたものの、2001年の1,340万人をピークに、17年には630万人と半分以下に激減した(同)。16年の550万人が底で、最悪は脱したと見る向きもあるが、厳しい現状に置かれている。アルペンにおけるゴルフ用品の売上は3分の1を超え主力となっている。

そればかりでなく、野球、サッカー、テニスなどの競技スポーツも部活を中心とした参加人口の低迷が続いており、好調なスポーツアパレルやシューズの売上で支えられてきた。時代に合った新たな業態を生み出し成長させる、構造改革は必然の流れであった。

同社の2019年6月期第3四半期(18年7月~19年3月)の決算は、売上高1,650億3,100万円(前年同期比0.5%減)、経常損失8億8,800万円。創業よりの主力であったスキー用品、近年力を入れてきたゴルフ用品の不振、人件費の上昇、売上を確保するための大幅値引き、1月19日に発表した早期退職者募集に伴う退職特別加算金の計上などの要因により、減収かつ赤字となってはいるが、アウトドアという新しいヒット業態が生み出されたため、反転への道筋が立ち社内の空気は明るい

柏のフラッグシップストアを実際に訪問してみると、アウトドアに関する体験型の展示が行われており、アウトドアの楽しみ方がさまざまに提案されている。店内は3層になっており、1階はキャンプ用品、2階はタウンユースとアウトドアを結ぶアーバンスタイルのアパレル、3階は登山用品がメインとなっている。

柏店オープンを知らせるチラシ。「アウトドアの聖地」と謳っている

1階の出入口を入った場所には、バーベキューなど野外の飲食で使うテーブル、椅子などが休憩スペースを兼ねて展示され、実際に座って居心地を確かめることもできる

アウトドア用品をインドアでも、という提案

近くには調理用具の売場も配置され、トータルでバーベキューの風景がイメージできるようになっている。また、住宅のインテリアとしても活用できるように提案されていることが、わかってくる。

1階の調理器具売り場

また、1階でメインとなっているウッドデッキの上にあるテントの売場では、330種類以上の商品数を揃え、多くの商品がテントを張った状態でディスプレーされており、キャンプ場の雰囲気を再現している。希望者は店員が立ち会って自分でテントを張ってみることもできる。このように購入に先立って実際に使用して体感できるサービスが、体験型ショップらしい他店と違う大きな売りである。

1階テント売場。実際にテントを張って試すことができる

2階には、子供たちが遊べる滑り台などが設置されたキッズコーナーも設けられ、ファミリーで納得がいくまでショッピングができる環境が整備されている。子供服のスペースも大きく割かれており、近年アウトドアショップで子供服が買われる傾向が強まっているが、その期待に応えている。

子供用の自然観察の参照とする図鑑ばかりか天体観測用の望遠鏡も置いてある。

自転車やオートバイに乗るのに適したストレッチ素材の防寒、防水服のラインナップも豊富だ。アパレルのラインアップとして、ジョギング、ランニング用のほか、女性に人気があるフィットネス、ヨガで着用する服も充実している。

V字回復へ視界は良好

3階には、コンピュータで計測して自分の足にフィットした靴の中敷きをつくれるコーナーを設けている。もともとはスキーなどの選手用にメーカーが開発したシステムだが、偏平足で脚が疲れやすいことに悩む人が相談に訪れるなど、スポーツ向けに開発した機能が、一般の消費者に活用される切っ掛けとなっている。靴を試着して登れるボルダリングウォールも設けられ、実際に登って最適なフィット感の商品を選ぶこともできる。

登山用品として、リュックサック、レインウエアのほか、スキーやスノーボードの用品も揃っており、単なる登山専門にとどまらず、山で行う多様なスポーツに関するグッズをワンストップで揃えられるように工夫されている。

3階、登山用具売場

全般に、アルペンのアウトドア専門店では、アウトドアに軽い興味しかなかった人でも、半日くらいかけて飽きずにじっくり見て回れて、商品の1つでも購入してみようかと思わせるだけの商品数と仕掛けがなされており、人気となる理由も納得できる。

3階レインウェア売場

惜しいのは休憩スペースが少ないことで、顧客の長時間の滞在には飲食を兼ねて休めるレストランも必要。家具のイケア、食品スーパーのコストコ、ホームセンターのカインズあたりは、レストランも売りの1つだ。実際、出入口の外には、新国立競技場を設計した建築家・隈研吾氏と共同設計した住箱によるスノーピークの小さなカフェが出店しており、このカフェを目的に来店する人もいるほど。

店外敷地内にある「スノーピークカフェ」

とは言え、従来のアルペンの店にあったスポーツ用品の専門店といったイメージは一掃され、日常の健康増進から山へのアクティビティ、それも運動というより、きれいな空気を吸って飲んで食べて遊ぶというところまで裾野を広げたアウトドアショップとして再構築されている。

アルペンのアウトドア専門店は、単にテナントを並べるのでなく、コンセプトに沿ってどこで何を売るのか、精緻につくり込まれた業態である。2020年の東京オリンピックに向け、またオリンピック以降にも続きそうなアウトドアのトレンドに、いち早く対応。V字回復を目指した逆襲へとアルペンの視界は良好だ。

Photo by: アルペングループ | AlpenGroup

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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