これまでも「日本企業に蔓延する『ビジネス謎ルール』が国の衰退を加速させる」等で、日本企業が抱える問題点を指摘し続けてきた米国在住の作家・冷泉彰彦さん。今回冷泉さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、学生たちが就職活動時に黒いスーツに身を包むという「文化」を今すぐ止めるべきとし、その理由を記しています。
就活の黒スーツ、一刻も早く断ち切らねばならない理由
別に学生を批判するつもりはありません。限られた予算の中で、汎用性を考えれば「黒」になるという極めて現実的な判断は、当然といえば当然だからです。
そうではないんです。バブル期のように、灰色やネイビーもいいじゃないかとかそんな話ではありません。
とにかく就活の時点では、就活生は学生です。だったら、スーツ姿ではなく、自然体のカジュアルでいいんじゃないでしょうか?無理に就活スーツを着るという文化、これは一刻も早く止めるべきです。
何故なのでしょうか?
それは、スーツを着て、ぎこちない尊敬語を使い、謙譲語を操る中で「私は旧世代の経営者に服従します。反抗するような危険人物ではありません」ということを必死にアピールするという「就活コスプレゲーム」がもうオワコンだということなのです。
そんなことをやっているから、紙と日本語の事務をヤメられず、長時間労働やパワハラ、マタハラ、パタハラがヤメられず、その結果として、先端技術は空洞化し、先進国中最低の生産性にあえいでいる、もうこのままでは日本経済は終焉です。
その象徴が就活スーツではないかと思うのです。
歴史で言えば、黒船が来て薩長同盟ができて、もう幕府は風前の灯なのに、裃(カミシモ)を着て、江戸城に登城して将軍に「ハハー」とひれ伏している…西郷軍はもう品川に迫っているのに…という感じでしょうか。
とにかく、その象徴が黒スーツであり、下らない「御社が第一志望」「本当ですか?」というコスプレ対話劇という「面接」というわけです。
日本型の組織にも、仕事の進め方にもいい点がある…私ですら、長いことそう思ってきました。でも、もう底が抜けたんです。もうダメです。一刻も早く、この黒スーツをヤメていただきたいです。というか、新卒一括採用をヤメて、学生の即戦力スキルを客観評価して、専門職というジョブ型採用するという仕組みをスタートさせねばダメです。
と言いますか、もう渋谷系のテック企業などはこっそり始めているんです。ということは、新卒一括採用とか総合職採用とか言っている企業は、もうその時点でオワコンなんじゃないでしょうか?
キヤノン、シヤチハタ、企業名のカタカナ表記に異議あり」
ハンコやスタンプのメーカーで「しゃちはた」と読む会社があります。ところが、本来の社名は「シャチハタ」ではなく「シヤチハタ」なんだそうです。そのように登記されているのでそれが正式だそうで、理由としてはロゴのビジュアルのバランス上そうなったというのです。
同じような例では、カメラとOA機器の「キヤノン」があります。こちらも、「キャノン」ではなく「キヤノン」であり、間違えると訂正されますし、ビジネスの社会で「このことを知っている」人は、知らない人に教えるという習慣もあるようです。
ですが、よく考えると、カタカナの現代日本語の正書法に反抗して、表記と発音を乖離させるのは強引です。読み方が「し・や・ち・は・た」や「き・や・の・ん」であるのならともかく、「シャチハタ」と「キャノン」と読ませるにも関わらず、そう書かないのが正式で、間違えると「直してください」というのは、どうにも不自然な感じがします。
勿論、日本には実は正書法はないというのも事実です。例えば、「かっこいい」という形容詞には、まず「格好」の部分に「恰好」と「格好」と「かっこう」と「かっこ」と「カッコウ」と「カッコ」などのバリエーションがあり、「いい」の部分にも「良い」「いい」「よい」「イイ」(なぜか「ヨイ」というのは稀ですね)などがあり、その組み合わせとしての「かっこいい」には相当のバリエーションがあるわけです。
ただ、日本語の肩を持つのであれば、この「かっこいい」の表記バリエーションには、微妙なニュアンスの違いがあり、あるコンテキストにおいては、ある表記がツボにハマるし、そのツボをわざと外すことで違ったニュアンスを醸し出すことも可能は可能です。
ですが、この「キヤノン」や「シヤチハタ」の場合は、そういうことでもないわけで、ただ「ロゴのビジュアルをカッコ良くしたい」ということになるのであれば、動機としては相当に不純です。
この問題、企業姿勢として、本当にこういうことを続けていて良いのか、両社とも少しお考えになった方がいいのではないかと思うのです。
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