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ダメだとわかっているのに、日本で差別がなくならない独特の理由

今年もニューヨークで世界最大のLGBTQパレードが開催され、300万人を超える人々が街を埋めたそうです。メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』を発行する米国の邦字紙『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋さんは、双子の子どもたちとこのパレードを見たとSNSに投稿。日本から意外な反応があって気づいたのは、差別やヘイトクライムの理由が世界と日本では違うということでした。そして、そこにこそ日本の問題が集約されていると持論を展開しています。

世界最大LGBTパレードで思ったこと

この時期、毎年恒例のプライドマーチの取材に行ってきました。世界最大級、同性愛者などの性的少数者、LGBTQのパレードです。全世界各国から700以上の団体、15万人が参加するこのお祭りの規模は、沿道の観衆を含め300万人とか、350万人と言われています。 350万人…超満員の東京ドーム約60個分です。それだけの人間が5番街に集結します。街中がレインボーカラーに染まる景色は、やはり、実際にその場にいないとわからない。新年のカウントダウンのタイムズスクエア然り、ニュース映像だけではその空気感までは伝わらないものです。

特に今年は運動のきっかけになった「ストーンウォールの反乱」からちょうど、50年目の節目とあり、例年以上に盛り上がりました。街中にLGBTQの方々が、楽しそうにイチャつき闊歩するのを見ると、この日ばかりは、ストレートである僕の方が、なにか、少し、損した気にもなるのです。

ちょうどこの日は、子供達の誕生日パーティーも重なり、その帰り、同時にパレードの取材がてら4歳になる双子を連れて見にいきました。SNSでその様子をアップすると、日本のフォロワーの方々から「それくらいの年齢から、そういった環境に身を置くのは、非常にいいことですね」という暖かいコメントを数名から頂きました。

頂いて、初めて気がつきます。「そういった環境…あ。なるほどな。この歳くらいからLGBTQの方々に触れさせるのは、多様な価値観を受け入れることができて、それが“いいこと”と思ってくれているのだろうな」と。正直に言うと、この街で暮らすと、当たり前すぎて、それが“いいこと”という意識すらありません。

4歳になるうちの子供達は、毎日、近所のプレイルームに遊びにいきます。彼らなりのコミュニティーがすでに存在しているようで、日々の出来事を、毎日(聞いてもないのに)報告にきてくれます。今日は誰々と遊んだ。誰々がおもちゃを貸してくれた。誰々が頭を叩いてきた。誰々が手をつないできた…etc.。 へー、そうなんだ、とテキトーに相槌を打ちながら、誰々ってどの子?と聞いてみます。たまにプレイルームに顔を出す僕は、親御さんたちの顔の認識はあっても、その子供達の顔までは一致しない。その際、ついつい、身体的特徴で聞いてしまいます。僕たち大人にとっては、これ以上ないほどわかりやすい記号は、その見た目、です。
「いつもの、黄色い髪の女の子?」、「目が青い、あの男の子?」、「わかった、チリチリの黒髪の彼?」と。その質問にまったく答えられない、我が子たち。双子そろって、わからない、と。

最近、気がついたことなのですが、うちの子たちも、そしておそらくはその友達の子どもたちも、彼らは、色でまったく認識していません。髪の毛、肌、目の色を、まったく覚えていない。もう、そういうフィルターで見ていないんです。 それよりも「いつもおっきなこえでさわいでるこ」とか「きゅーきゅーしゃ(のおもちゃ)をらんぼうに、ふりまわすこ」と、キャラクターで覚えている。 いいことなのか、どうか、断言はできません。でも、個人的には良かったとも思います。「人は見た目ではない」「国籍、人種差別をしてはいけない」を地でやっている。自然と身につけている。

理屈は立派に備わっている日本人

日本に一時帰国した際、世界でも稀にみるインテリ大国である母国は、国民全体が、正しい理屈を持っている。正解を知っています。 例えば。LGBTQ、性的マイノリティーの方々に対して、差別してはいけない。日本国民、常識ある成人はみんなそのことを理解している。例えば、国や宗教、肌の色で、差別をしてはいけない。これも知っている。平均的な日本人は、みんなが口を揃える。

差別のシーンだけでもありません。例えば「年齢」。ちゃんと、みなさん、言います。「年齢なんて関係ない、人は夢を諦めた時に老いていくものだから」「年齢なんてただの目安。歳で人を判断してはいけない」。おそらく、1億人以上が、聞けば、そう言う。 例えば、英語学習。「英語なんて、しょせんは道具。通じるためのコミュニケーションのツールだから、文法や発音なんて大した問題ではない」「文法の勉強は得意なんだよね~、日本人。でもいざとなった時に使えないと意味がない」。僕の知っている日本人はみんなそう言います。

結局、先進国の中でも、教育がもっとも普及している日本という国は、正解をとっくに国民全員が共有している。間違えている理屈を持っている人は、極端に少ない。理屈だけは。 その一方で、いまだに同性愛者を揶揄するバラエティ番組が問題になったり、外国人労働者の育成に対し、消極的な企業がニュースになったり、一般職にも関わらず、雇用に年齢制限があったり、完璧を求める英語学習の姿勢が外国人講師から指摘されたり、の現実もあります。 それって「やさしくて誠意がある人がタイプです」と言っておいて、のきなみ野球選手と結婚する女子アナみたいなもんか。違うか。単純に「本音と建前」論なのでしょうか。

そうは言っても、もちろんアメリカにも、正論と現実のギャップはあります。同性愛者へのヘイトクライムは日本以上の悲惨さであるし、毎年アカデミー賞では黒人やマイノリティーの俳優がいくつノミネートされるのかが、焦点になります。 それでも、被害者サイドが声高らかに叫びます。不当の差別に対して、許せない、と。この国は、被害者が黙っていない、のかもしれません。 なにより、日本と違うのは超大国だけに、教育が日本ほど行き届いていない。リアルに常識がない人も多い。差別をする人は、心より差別をしている。建前でなく、宗教上の理由もあるのか、心からマイノリティを憎み、軽蔑している層がある。そこが日本とは違います。

日本はすでに国民みんなが「正解」を知っていて、ただ「実行」に移せていないだけのような気もします。「加害者の意識を変えなくては」と良識あるコメンテイターがテレビ番組で発言するのを聞いて、いや、実は、意識はとっくに変わっているのではないのかな、と思うのです。 いまさら、本気で、性的マイノリティーの方や、外国人を「自分たちより下」と本気で思い込んでいるノータリンが今の日本にいるとは考えにくい。それでも、差別は、いまだ存在する。それは「意識」ではなく、「実行」もしくは「事件」として。

世界とは違う日本の差別・ヘイトクライム問題

ということは。ここからは、ただの持論で、何のデータもあるわけでなく、ただの個人的な感想なのですが(メルマガだから、個人的な主観で書いてもいいよね?)、結局、すべての日本人の問題は、「同調圧力」に集約されるんじゃないだろうか、と思ってしまうわけです(あまりに乱暴な感想だけど)。 だって、もし、同性愛者に差別的な発言をしている人を別室に呼んでふたりっきりになって心の内を聞いてみたとして。まったく違うことを言うんじゃないかな、今の日本人。多分。

例えば、知能テストです、と問題を出す。「コンビニのベトナム人店員、日本人店員、失礼な態度をとっていいのはどちらですか、もしくは、どちらにも、とってはいけませんか」の問いに「ベトナム人にはいいです!」と真顔で答える日本人は、今の時代、ほぼゼロではないでしょうか。 世界で起こっている差別問題は、違います。ヘイトクライムは、違います。心から、差別し、ヘイトしている。でも、日本の場合は、心から差別しているわけでも、ヘイトしているわけでもない。では、なぜ、差別がなくならないのか。頭でも、心でも、それがよくないこととわかっていても。 おそらく、「だって…みんながしているから…」と答える人も多いんじゃないでしょうか。ひょっとすると、前述の「年齢」問題や、「英語学習」問題についても、同じかも。

なにかをスタートするのに、いくつになっても遅すぎることはない、と頭ではわかっている。でも、そんな時に限って、必ず、周囲が、社会が、口を挟む。「もう、いい歳なんだから、」と。 英語なんてコミュニケーションの道具、発音なんてテキトーでいい、そう言ってるそばから、どこかの脳医学者が勧める、ベストセラーの英語マスター本が発売されたら、購入してしまう。「みんながいいと言うから…」と。

単一民族、単一宗教、単一言語で成り立つ国で、他と違うことをするのは、とても勇気がいることだと思います。同調圧力でいいこともある。ボランティアや、ゴミ拾いだって、みんながするから、という空気で、やっている人だっているはずです。 でも差別やヘイトクライムまで、日本だと「同調圧力」の顔が垣間見えてしまいます。一時期、コンビニのアルバイト店員が、不適切な動画を立て続けにアップしたように。「他がするから、自分もする」と。

僕は、メルマガでも以前から「KYになろう」と言い続けてきました。自分の夢を実現する為の最初の一歩は「同調圧力」から抜け出すことだ、と。でも最近は、社会の為にも、平和の為にも、「空気を読まない」方がいいんじゃないかな、とすら思います。

前述の、SNSに頂いたコメント。「子供の頃から性的マイノリティーの方々に日常的に触れることができて、いい環境ですね」のご意見。それに対し、「ありがとうございます(^^)」と前置きした後、次ぎのようにコメントを返しました。 「それがいいのか、悪いのかはわかりませんが、みんなが思い思いに好きに生きて、自分を殺してまで周りと歩調を合わせようとしないニューヨーカーに囲まれて、育つのは、悪いことじゃないとは思います(^^)」と。

image by: BeeZeePhoto / Shutterstock.com

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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