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1st Lt. Taylor Barefoot, a low altitude air defense officer with Marine Medium Tiltrotor Squadron 163 (Reinforced), 11th Marine Expeditionary Unit, programs a counter-unmanned aircraft system on a Light Marine Air Defense Integrated System (LMADIS) during a predeployment training exercise at Marine Corps Air Ground Combat Center Twentynine Palms, Calif., Nov. 13, 2018. The LMADIS is a maneuverable, ground based system, mounted to a Polaris MRZR that can detect, identify and defeat drones with electronic attack. (U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Dalton S. Swanbeck)

事態打開に繋がる可能性。米国の新兵器によるイランの無人機撃墜

7月19日、アメリカの新兵器がイランの無人機を撃墜したとのニュースが流れ、両国の緊張関係がさらに高まることが心配されています。しかし、軍事アナリストの小川和久さんは少し違った見方をしているようです。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、アメリカが呼びかける有志連合と新兵器の攻撃力という圧力が、イランの対応を変化させる可能性に言及。参院選で安倍政権が信任されたこともあり、イランとの信頼関係を背景に国際舞台で力を発揮しなければならないと訴えています。

無人機撃墜がイランに道を開く?

米国の強襲揚陸艦ボクサーに搭載された海兵隊の「新兵器」、海兵軽防空統合システム(LMADIS)がイランの無人機を撃墜し、ホルムズ海峡周辺に緊張が走りました。イラン側は撃墜されたことを否定していますが、撃墜は間違いない事実と思われます。 この事件で注目されるのは、米国側が「新兵器」でイランの無人機を撃墜したという情報の真偽、そして、米国とイランの関係が危険水域に近づいているかどうか、の2点です。米国側の「新兵器」については、今号のテクノ・アイで西恭之さん(静岡県立大学特任助教)が詳しく解説していますので、兵器の世界に新たな風を吹き込むような実像について、知っていただければ幸いです。 そこで、この無人機撃墜事件から浮かび上がる米国とイランの関係の行方ですが、次の要素を押さえながら眺める必要があると思います。

まず、イラン側の無人機ですが、いまのところ中国製の翼竜1、あるいは翼竜2ではないかとみられています。もう少し小型の彩虹4だった可能性もあります。これまでにもイランはシリア国内の拠点から中国製の無人機を飛ばし、イスラエル側の情報を収集してきました。 無人機の正体についてはいずれ明らかになるでしょうが、これが翼竜2だった場合、米国が無人機の主力として運用しているMQ-9リーパーに匹敵する性能だといわれています。むろん、データリンクやエンジンなどについてはリーパーには敵わないのですが、一定の航続時間と攻撃能力を備えており、しかもリーパーの10分の1ほどの価格で手に入るのですから、兵器としての条件を満たしていると言ってよいでしょう。

そのイラン側の無人機の任務が強襲揚陸艦ボクサーの偵察であれば、数千メートル上空を飛行するだけで用は足りるはずです。精密偵察のために接近する必要があったとしても、撃墜された900メートルという至近距離を飛ぶ必要はなかったでしょう。 接近することが必要なのは、米国側を挑発するか、米国の反撃能力を知るための威力偵察か、自爆攻撃をかける場合くらいです。今回の場合、まず自爆攻撃は考えられませんから、挑発と威力偵察を合わせたものとして考えると、見えてくるものがあります。

強襲揚陸艦ボクサーに接近し、その反撃によって無人機が撃墜され、米国メディアの報道によってホルムズ海峡の緊張の高まりとして伝えられると、当然、原油価格は高騰します。これまでにも西さんが書いてきたように、イラン側にはホルムズ海峡を封鎖したり、米国側に軍事攻撃を仕掛けたりするというカードは、それを1回切れば国が滅びるほどのダメージを受けるという点で、存在しないに等しいのですが、国際世論は海峡封鎖やペルシャ湾岸での戦火に動揺することは避けられません。

要するにイラン側は、いつでも国際経済に影響を与えることができるというカードを、これまでのタンカーへの攻撃や拿捕と同じように切った、とみなすことができるのです。むろん、今回の撃墜によって米国側の「新兵器」による反撃能力という重要な情報を手に入れたことにもなります。

米国側としては、接近してくるイランの無人機の脅威度を評価する過程で、5キロほどの射程を持つ中国製空対地ミサイルを搭載していないことを確認し、規則に定められた0.5海里(926メートル)まで近づいた時点で「新兵器」による撃墜に出たものと考えてよいでしょう。当然、米国側には「新兵器」の威力を確認・評価する目的もあったはずです。

このようにながめると、日本としては、今回の撃墜事件の先には次のような展開もありうると、予測しておく必要もあるのではないかと思います。 それはタンカー護衛についての有志連合の動きが加速されることです。限られた国しか艦艇を出さないかもしれませんが、財政的支援をする国を含めると大きな国際的圧力になります。 既にペルシャ湾には米国の空母打撃群が展開していますし、ホルムズ海峡の封鎖に対する掃海能力の備えもできています。そこに有志連合となれば、イラン側が受ける圧力のほどがわかろうというものです。

イランの最高指導者ハメネイ師の立場で見ると、これは事態を打開するひとつの契機になるという点がポイントです。 この大きな圧力を理由に国内の強硬論を説得し、ウラン濃縮の動きにブレーキをかけ、まずはEU諸国との対話再開を試み、同時に米国との、例えば日本のような国を間に入れた間接的対話に入るというのは、イランにとって、とても現実的で魅力的な方向ではないかと思います。 タンカーへの小規模攻撃にせよ、米国とイラン双方の無人機の撃墜にせよ、人命が失われていない点も重要なポイントとなります。特にイラン側では、愛国的な集団ヒステリーを抑えやすいからです。

ニューヨークを訪問中のイランのザリーフ外相は、トランプ大統領に近いランド・ポール上院議員と会い、対話再開を働きかけているようです。トランプ大統領も、ポール議員にイラン側との接触を許可したとのことです。 国際社会は一刻も休むことなく動き続けています。参院選の洗礼を受けた安倍政権もまた、イランとの信頼関係を活用すべく、外交の舞台に立たされることになります。(小川和久)

image by: Lance Cpl. Dalton Swanbeck

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

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