個人事業主を完全無視の老後2000万円問題。実は「5600万円問題」

 

高齢夫婦無職世帯の国民年金の平均受給額11万円、毎月の支出26万5000円、よって月々15万5000円の不足。結果1年で186万円の赤字、30年だと5580万円の大赤字となり、これに備えるには5600万円程度の貯蓄が必要となる。 この条件を容易にクリアできるのは、個人事業においては特殊の部類に入る芸能人や芸術家などに代表されるような高額所得者くらいであろう。

しかし実際のところ大半の個人事業主というのは、例えば小売店の経営者であったり、さまざまな分野で職人と呼ばれるような人たちであったり、所謂高額所得者ではない。普通に生活し、家のローンを払い、車のローンを払い、子供の学費を払い、さて老後という段になって5600万円の蓄えが必要、などと言われてもおよそ想像もつかないというのが本音なのではないだろうか。

この国には、楽な方、ましな方をのみ議論のテーマとする傾向がある。件の老後問題もそうである。苦しい方、ひどい方は取り敢えず棚上げ、というより無視される。つまり、見て見ぬ振りである。 自分の周りには個人事業主(フリーランス)の人が多い。所謂「クリエーター」と呼ばれる職種に就く人たちである。有体に言ってしまえば、フリーランスの身で安定的に月21万円稼げるだけでもましな方なのである。つい最近、若手のデザイナーと話をした時にも、その人はこんなことを言っていた。

月21万なら何の文句もないじゃないですか」。まだ冗談ぽく笑いながら言う余裕はあったが、過去の自分のことを思えば聞く方としては笑えなかった。 世の中に図らずも階層というものが出来てしまったなら、苦しい方、ひどい方、弱い方、小さい方を救うことからまず始めるべきなのである。これは医療現場におけるトリアージュと同じである。

よく「年金の一本化」というフレーズを聞くが、とても真面目に議論されているとは思えない。個人的には、これには大賛成である。自分が個人事業主だからという訳ではない。自分は一応個人事務所を持っているから、月21万の楽な方、ましな方なのである。それでもトリアージュの原則に従うなら、自分の受給額が相当額下がったとしてもそれは已むなしである。

そもそも思うのである。現役時代に、公務員であろうが、会社員であろうが、店の主人であろうが、物書きであろうが、隠居すればただのジジイとババアでいいではないか。 自分はただのジジイになりたいと思っている。少なくとも引退後まで、他人より多くを高くを望むような現役臭い老人にはなりたくない。 それにただのジジイに成り果てても、その時「同病相憐れむ」で「どうもお金が少なくって困るね」などと言い合えるただのジジイ仲間が何人か居てくれさえすれば、まあそれはそれでそれなりにだが幸せな気もするのである。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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