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政府の法解釈の小理屈でタンカーなど守れるはずがないという現実

有志連合などに我が国の自衛隊が参加した場合、常に問題になるのが憲法9条に抵触するか否かです。政府のこれまでの見解を「非現実的」だと語るのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、攻撃可能な相手か否かを確認している間に全滅の可能性もある「現実」を説き、現在の法解釈での小理屈を改めるべきと提言しています。

「国に準ずる組織」という基準

27日付の読売新聞が10面に「基礎からわかる 有志連合」という1ページの記事を載せました。私としても、色々整理されていて勉強になったのですが、ちょっと気になるところがありました。

日本の対応は──のところで、次のようなくだりがあったのです。

「日本は憲法9条により、自衛権の発動以外での武力行使は禁じられている。国や国に準ずる組織との間で戦闘行為が行われた場合、9条に抵触する恐れがある。このため、国や国に準ずる組織との衝突が想定される場合、(タンカー)護衛は困難との見方が出ている」

「また、攻撃してくる相手が海賊など国家とはみなされない集団であることが明確な場合には、警察行為として対処することが可能になる」(7月27日付 読売新聞)

どこがおかしいかというと、「国や国に準ずる組織との衝突が想定される場合」とか「攻撃してくる相手が海賊など国家とはみなされない集団であることが明確な場合」という表現が、自明のことのように出てくるからです。

これは、外務省の人たちがしばしば口にする表現ですが、現場を知らない机上の空論だからこんなことが言えるのではないでしょうか。

政府は従来、海外での武器使用について、相手が「国または国に準ずる組織」の場合には、憲法が禁じる「国際紛争を解決する手段」としての武力行使に当たる恐れがあると解釈し、原則として武器の使用を正当防衛や緊急避難に限ってきたのです。この判断基準を読んで、変だと思いませんか。

まず、「国または国に準ずる組織」に該当しなければ、大した武器は備えていないということになりますが、本当でしょうか。そして、そのように決めつける根拠はどこにあるのでしょうか。

この政府の判断基準は現実を無視しているとしか言いようがありません。相手が「国または国に準ずる組織」でなくとも、自衛隊が備えている以上の威力の武器で攻撃してくる可能性は、想定しておかなければならないことだからです。その場合、これまで派遣された自衛隊が装備していた武器では、正当防衛や緊急避難のための武器使用ですら成り立つかどうかなのです。その現実が忘れられています。

2001年、同時多発テロを受けた米国のアフガニスタン攻撃のとき、日本政府は反政府武装勢力タリバンを「国に準ずる組織」とみなし、自衛隊の派遣に歯止めをかけた例があります。

しかし、さきに述べたように、タリバンより装備的にも劣るソマリアの武装勢力が、米軍の特殊作戦用ヘリを撃墜し、米国のソマリア撤退のきっかけとなった1993年10月のモガディシオの戦いなどのケースを忘れてはなりません。

政府がいう「国に準ずる組織」に該当しない中小規模の武装勢力でも、多数のRPG-7対戦車ロケットなどを備えているのは常識です。まして、イランの革命防衛隊が多数持っている高速艇は2連装の23ミリ対空機関砲を標準装備しています。護衛艦が搭載している武器の範囲内にせよ、それを適宜柔軟に使って対応できないことには、その攻撃を阻止したり、タンカーを守ったりするなど不可能としか言いようがないのです。

それに、「攻撃してくる相手が海賊など国家とはみなされない集団であることが明確な場合」と言いますが、どうやって判断するのでしょうか。相手は既に攻撃に出てきているのです。確認作業をしている間にこちらは全滅です。

だから、日本の現状では「法匪」のような小理屈をこねくり回さないで、正面から「緊急避難」や「正当防衛」の考え方で対処するしかないのです。

しかし、お役人は言うでしょうね。「そんな事態にもなりかねないから、タンカー護衛なんかしないほうがいいですよ」(小川和久)

image by: owenr osemarie / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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