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香港デモを焚きつける米国が引き起こしたい「第2次天安門事件」

長引く香港の「逃亡犯条例」改正案撤回を求めるデモに対し、「米国がデモを扇動」との見解を示した中国当局。これを受け、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、中国のほぼ断定的な発言の根底に「米中覇権戦争」への焦りがあると指摘するとともに、過去の米露覇権戦争などの事例を紹介しながら、覇権争いとデモとの関係性の解明を試みています。

香港デモの黒幕はアメリカ

今年になって、というか夏に入って、香港が急に騒がしく
なってきました

「100万人デモ!」
「200万人デモ!」
「デモ隊が議会を占拠!」

などなど、驚くようなニュースがつづいています。このデモについて、中国は、「アメリカがやっている!!!」と考えているようです

香港のデモは「米国の作品」、中国が指弾

CNN.co.jp 8/1(木)19:15配信

 

香港(CNN) 中国の華春瑩報道局長は8月1日までに、「逃亡犯条例」改正案の撤回を求めるデモなどが過去2カ月間続く香港情勢に触れ、「誰もが知っているように、米国の作品である」との見解を示した。

誰もが知っているように米国の作品である

ていうか、「誰もが知ってないし」ですね。特に日本人でそんな風に思っている人はほとんどいないでしょう。

北京での記者会見で述べた。「中国は半自治区である香港への外国勢力の干渉は決して許さない」とし、「火をもて遊ぶ者は自らが焼身するはめになるだけ」とも主張した。
(同上)

これ、「アメリカは焼身するはめになる!」と脅迫しているのですね。

香港情勢に関連し、中国政府当局者による米国の介入への直接的な指弾では最も強い表現となっている。中国国内ではここ数カ月間、香港のデモの背後に西側勢力の工作があるとの臆測が流れていた。香港の抗議デモの一部では過去に参加者が米国国旗を掲げる場面もみられた。中国の国営メディアも、香港の混乱を米国の責任とする社説などが再三取り上げられている。国営紙の環球時報は最近、香港の民主主義勢力の指導者と西側政府との間に前例のないレベルの接触があったとも報道。「逃亡犯条例改正案に抗議する勢力は米国の支援を受けていることは香港で公然の秘密」とも断じていた。華春瑩報道局長はこの点に触れ、香港の民主主義勢力の著名な指導者と米国の政治家が公の場で会談したとのみ述べた。
(同上)

アメリカは、外国の革命勢力を支援する

これ、どうなんでしょうか?考えられる可能性は二つです。一つは、中国政府が香港デモ弾圧の口実に使いたい。「デモ参加者は、アメリカの手先だから厳しく弾圧せよ!と。もう一つは、実際にアメリカが香港デモを支援している。つまり中国政府は事実を述べている

現時点で、「どっちがホント」か断言することはできません。しかし、皆さんに知っておいて欲しいのは、「そういうことがある」ということです。たとえば03年ジョージア旧グルジアで革命が起こりました。この時、失脚したシェワルナゼさんはなんといっていたか?03年12月1日の時事通信。

グルジア政変の陰にソロス氏?=シェワルナゼ前大統領が主張

 

【モスクワ1日時事】グルジアのシェワルナゼ前大統領は、11月30日放映のロシア公共テレビの討論番組に参加し、グルジアの政変が米国の著名な投資家、ジョージ・ソロス氏によって仕組まれたと名指しで非難した。ソロス氏は、旧ソ連諸国各地に民主化支援の財団を設置、シェワルナゼ前政権に対しても批判を繰り返していた。

03年11月29日付朝日新聞。

「混乱の背景に外国情報機関」シェワルナゼ前大統領と会見

 

野党勢力の大規模デモで辞任に追い込まれたグルジアのシェワルナゼ前大統領は28日、首都トビリシ市内の私邸で朝日新聞記者らと会見した。大統領は混乱の背景に外国の情報機関がからんでいたとの見方を示し、グルジア情勢が不安定化を増すことに懸念を表明した。前大統領は、議会選挙で政府側による不正があったとする野党の抗議行動や混乱がここまで拡大するとは「全く予測しなかった」と語った。抗議行動が3週間で全国規模に広がった理由として、「外国の情報機関が私の退陣を周到に画策し、野党勢力を支援したからだ」と述べた

たとえば05年キルギスで革命が起こりました。この時失脚したアカエフ大統領は、なんといったか?

「政変では米国の機関が重要な役割を果たした。半年前から米国の主導で『チューリップ革命』が周到に準備されていた」
(時事通信05年4月7日)

「彼らは野党勢力を訓練・支援し、旧ユーゴスラビア、グルジア、ウクライナに続く革命を画策した」
(同前)

2011年12月モスクワで大規模デモが起こった時、プーチンは何をいったか???

ロシアのプーチン首相、デモを扇動と米国を非難

 

【モスクワ(CNN)】ロシアのプーチン首相は8日、先の下院選をめぐる不正疑惑に対する抗議デモを米国が扇動していると非難した。クリントン米国務長官は同5日、「選挙のやり方に関する深刻な懸念」があり「しっかりした調査」を求めるとの発言を行っていた。8日、国営テレビに出演したプーチン首相はこのクリントン国務長官の発言が「米国務省の支援を受けた」反政府勢力に対し、行動を促すシグナルを送ったと非難。また、国内からの批判と外国からの批判は質が異なるとし、ロシアは「外国からの干渉」から身を守らなければならないと述べた。(CNN.co.jp 11年12月9日)

これらすべての発言が、「被害妄想と考えることは難しいです。特に、失脚したシェワルナゼやアカエフが、アメリカについてウソをついても、まったく得にはなりません。香港についてはまだはっきりわかりませんが。

もしアメリカがやっているとしたら、何のために?わかりますね。2018年に始まったのは「貿易戦争」ではなく、「覇権戦争」なのです。つまり、アメリカは、「中国共産党政権が倒れるまで戦いつづける決意をしている。(少なくとも、現時点ではです。これが来年の選挙でボンヤリ親中派のバイデンさんが勝つと変わるかもしれません)。

では、どうやって政権を打倒するのか?関税をあげ、中国経済を疲弊させる(経済戦)。ファーウェイを世界市場から追放する(したい)(経済戦)。ウイグル100万人強制収容所の件で、中国を「悪魔化」する(情報戦)。台湾支援を強化する(代理戦争)。

そしてデモも覇権戦争の有効な武器です。たとえば、ドイツでは1989年、それでベルリンの壁が崩れました。そして、東欧民主革命が起こった。03年ジョージア、04年ウクライナ、05年キルギス革命が起こった。10年~11年、アラブの春で、中東、北アフリカの独裁政権が続々と倒れた

もし、アメリカが香港デモをオーガナイズしているのなら、以前にも書きましたが、「第2次天安門事件が起こり、それを口実に、米欧日・対中経済制裁にもっていきたいのでしょう。クリミア併合後の対ロシアのように。

そうなると、アメリカ企業も相当な損害が出ますが、「覇権にはかえられない!」と決意している勢力が、今のアメリカを牛耳っている。それは、トランプさんというより、昨年10月、中国に「宣戦布告演説」をしたペンスさんのグループなのでしょう。

いずれにしても、日本政府は、「今世界は戦争中という認識を強く持ってほしいと思います。そして「戦術的」問題に深入りしないで欲しいです。

image by: Wong Tsz Kiu Katy / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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