平均点の釣り上げスキルを教師が磨くだけ。全国学力テストの実態

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実施後に県別の平均点が公開される仕組みの「全国学力・学習状況調査」は、今や害悪しか生み出さないようです。今回の無料メルマガ『「二十代で身につけたい!」教育観と仕事術』では現役教師の松尾英明さんが、同調査がいかに教育現場を疲弊させているかを紹介するとともに、「教育の崩壊」さえ引き起こしかねない状況を記しています。

全国学力・学習状況調査の平均点は当てになるか

先日結果が公表された全国学力学習状況調査について。県別の平均点が公表された。教育委員会の側は、当然学校別の結果も把握している。これが、不幸の始まりである。

ところで、結果を見る世間の側が本当に「平均点の仕組みをきちんと把握しているかというと、かなり怪しい。「学級のみんなができるようになると平均点が上がるという誤った概念をもっていないか。誤った認識は誤解を生み、いじめの温床になり得る。

平均点というのは、例えるなら砂場の凸凹をならして平坦にして、その高さを測定する作業である。「ならす前の状態」がどうであるかが、この平均点の妥当性に関わる。他の高さと異なる「穴」や「尖り」のような部分が少ない、山の状態であれば、「大体真ん中がこれぐらい」というその数値の妥当性は高い。

一方「グランドキャニオン」のような深い谷がある状態の場合この平均値の妥当性はほぼない。グランドキャニオンの山を崩して谷を埋めて均等にならし、海抜の高さを測って「これぐらい」ということの意味があるかどうかである。差が激しすぎる上に本物の中央の数値が不在である。「平均点付近の子どもはほとんど存在しない」ということもあり得る。

各県内の子どものテストの数値はどうか。これは、明らかに「グランドキャニオン」状態である。0点もいれば、当然100点もいる。最も多い層の他に、極端に離れた数値の集団がいくつか存在する。点数がかなり分散している。この場合、平らにならすことにほぼ全く意味はない

平均化というのは、言うなれば「個を殺し無視する作業である。社会が求め、文科省が出している方針と真逆のはずである。

平均点の上下動の仕組みについては、学級担任や塾講師をしている者なら嫌というほど知っている。90点が100点になるのはものすごいことなのだが、そこは平均点には表れない。100点がどんなにたくさんいても10点や20点の子どもが数人いたら、「チャラ」どころか「マイナス」なのである。

手っ取り早く学力テストの平均点を上げる方法がある。過去問をやらせることである。「事前練習」と呼ばれる方法である。年間を通して毎日、時間を決めてやらせ続ける学校もあるという。ひどい場合行政の側が過去問を実施したかどうかの調査をして、学校現場に圧力をかける。これで、確実に平均点は上がる。

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全国学力テスト 事前練習に追われる学校現場 授業が進まない」内田良

これによって学校教育が失うものの大きさは、言わずもがなである。残念ながら、全国各地でこれがなされているのが現状である。「事前練習」をしないと当然平均点が下がるのだから、どこもやっている以上やらない訳にはいかないというのが実情である。「目的と手段の入れ替わり」「手段の目的化」である。

さらにもっとひどい方法があるという。先に述べたように、平均点というのは「凹み」が最もインパクトが強い。つまり、点数が低い層を排除」することが、最も平均点アップに効果がある(進学塾等ではよくある方法である。数値的な実績が大切なのである)。

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