以前掲載の「タンカー防衛有志連合に参加しなければ尖閣が中国に取られる理由」等で、日本の国益を考えるのならば有志連合不参加はありえないと強調してきた、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。しかし日本政府はまだその態度を鮮明にしていません。これを受け北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、有志連合に参加しなかった際に日本が被る不利益を挙げ、重ねての参加を促しています。
なぜ日本は、迅速に積極的に有志連合参加を表明すべきなのか?
アメリカ主導の「タンカー防衛有志連合」構想、なかなか進んでいないようです。
ポンペオ氏、有志連合「時間がかかる」各国に協力要請
毎日新聞 7/30(火)10:45配信
ポンペオ米国務長官は29日、中東ホルムズ海峡の安全確保に向けた有志連合構想について、「我々が想定していたより時間がかかる」と述べ、調整が難航していることを示唆した。
イランを巡る緊張が高まったのは、米国が一方的にイラン核合意を離脱し、イランへの経済制裁を再発動したのが直接の切っ掛けで、こうした事情が調整難航の背景となっている模様だ。
(同上)
ポンペオさん、「想定していたより時間がかかる」。なぜ?毎日新聞の解説は、
イランを巡る緊張が高まったのは、米国が一方的にイラン核合意を離脱し、イランへの経済制裁を再発動したのが直接の切っ掛け
だから。まさに、この解説通りですね。イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、中国、イランは、この合意維持を支持している。アメリカが、勝手に抜けたのです。イラク戦争時と同様の「理不尽さ」が、支持の広がらない理由でしょう。
現状、ドイツは「有志連合に参加しない」と表明しました。しかし、イギリスは「参加する」」と表明しています。
英、有志連合参加へ 米政権寄りに方針転換
産経新聞 8/6(火)1:08配信
【ロンドン=板東和正】英政府は5日、米政府が結成を急ぐイラン沖・ホルムズ海峡でのタンカー護衛に向けた有志連合に参加する意向を表明した。トランプ米大統領と蜜月の仲とされるジョンソン英首相が米寄りのイラン政策に方針を転換した可能性がある。
日本はどうすべきなのか?私は、何度も書いていますが、「必ず参加すべき」という意見です。まだの方は、まずこちらをご一読ください。
● トランプが間もなく日本に突きつける「踏み絵」、日米同盟は崩壊の危機か(ダイヤモンドオンライン 2019年7月25日)
今回は、これに関連して、ランド研究所のジェフリー・ホーナンさんの意見をご紹介します。彼の経歴は、
ジェフリー・ホーナン氏 米ランド研究所研究員。1975年生まれ。米ウィスコンシン州のマーケット大学卒。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究所大学院で国際関係の修士号(日本研究専門)を、ジョージ・ワシントン大学で政治学の博士号を取得。
不参加なら、安倍総理は、大ウソつきに
ホーナン氏:過去7年間の安倍政権の安全保障に関する政策、例えば積極的平和主義や自由で開かれたインド太平洋構想、あるいは国家安全保障戦略(NSS)には、ホルムズ海峡について、日本は原油輸入で中東への依存度が高いのでこの地域の安定が重要だと書いてあります。こうしたことから米国で日本の貢献に期待感が高まるのは当然だと思います。こうして安倍晋三首相への期待感が高い状況の中で日本がNOという回答をしたら、「インド太平洋構想や積極的平和主義は何のためだったのか」ということになりかねません。
(時事通信 8月11日)
安倍総理は、日本では珍しく「戦略的」な政治家です。「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提示した。これは、「自由で開かれたインド太平洋を守る」ということでしょう。安倍総理の言葉が、世界的に使われることになったのです。
さらに、安倍総理は、「積極的平和主義」という言葉を使っています。「積極的平和主義」ってなんでしょう?「国際社会の平和と安全の実現のために、能動的に積極的に行動を起こすという主義」です。総理は今まで、このように発言しつづけてきた。そして今、総理は「有言実行の人」なのか、「言行不一致」の人なのか試される局面がきたのです。
その名目は、「日本のタンカーを、日本自身が守ること」です。これは、反イランでしょうか?日本のタンカーが攻撃された時、日本は「イランが犯人だ!」とはいいませんでした。むしろアメリカに対し、「もっとちゃんとした証拠を見せろ!」と要求したのです。
タンカー攻撃、米に証拠提示要求 政府、「イラン関与」同調せず
共同 6/16(日)6:00配信
政府がホルムズ海峡付近で起きたタンカー攻撃を巡り、イランが関与したとする米国の説明に同調せず、裏付けとなる証拠を示すよう米側に求めていることが分かった。米側主張は説得力に欠いているとの受け止めが背景にある。
だから、日本が日本のタンカーを防衛しても、「反イラン」ではありません。ターゲットは、「本当にタンカーを攻撃した勢力」となります。イランには、「日本はイランが犯人だとは思っていない。しかし、実際に誰かがタンカーを攻撃したのだから、守らざるを得ない」と伝えればいいのです。
「金払って、他国に日本のタンカーを防衛してもらおう」というのはどうでしょうか?
ホーナン氏:もし何もしないと、湾岸戦争の時の日本の対応、「トゥーリトル、トゥーレイト」あるいは「金を出すだけ」などという批判が待っていると思います。
(同上)
日本は、いいかげん、「日本は憲法9条教の信者で世界から尊敬されている。だから憲法9条をノーベル平和賞に推そう」などという、迷信から目を覚ますべきです。実際は、「他国の兵士が死ぬのは平気だが、自国の兵士が一人死ぬのも嫌な、【狡猾な国】」と思われている。もちろん、全体的には親日の国だらけなのですが、事軍事に関しては、そういう評価です。
今回の件に関しても、「日本のタンカーを日本が守るべきかどうか、悩ましい」。つまり、「他国に防衛させて、日本のために犠牲になってもらおう」ということでしょう。残念ながら、日本というか日本政府には、こういう狡猾さがあります。
スピードも大事
ホーナン氏は、「決断のスピードも大事」といいます。
─日本ができることをする、その際に注意することは何でしょうか。
ホーナン氏:イラク戦争の時、小泉内閣は結局自衛隊を派遣しましたが、それには議論に数カ月かかり、もちろん米国は満足だったかもしれないが、決定までに時間がかかったという印象が残りました。日本は平和安全法制など法律の枠組みができたので、日本は平時ならこれができる、重要影響事態になったらこれができる、ということを決めて米国に提示すれば、米国が日本の対応を批判することはないと思う。もし米国の要請を待って、それを受けて決定までに数週間、数カ月もかかったり、またその間米兵が何千人も亡くなったりするようなことがあったら、日米同盟関係は悪化する恐れがあります。早期に決定して早期に対応することがとても大事です。
(同上)
「早期に決定して早期に対応することがとても大事です」。まさしくその通りですね。
「希望の同盟」演説は、ウソか?
2015年3月、歴史的AIIB事件が起こりました。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、イスラエル、オーストラリア、韓国など親米国家が、ほぼ全部アメリカを裏切った。彼らは、アメリカの制止を無視して、中国主導「AIIB」への参加を決めたのです。日本は、この時不参加で、アメリカを決定的没落から救いました。
さらに2015年4月、安倍総理は歴史的「希望の同盟」演説を行った。安倍総理は、演説の中で、こんなことをいいました。
1990年代初め、日本の自衛隊は、ペルシャ湾で機雷の掃海に当たりました。後、インド洋では、テロリストや武器の流れを断つ洋上作戦を、10年にわたって支援しました。その間、5万人にのぼる自衛隊員が、人道支援や平和維持活動に従事しました。カンボジア、ゴラン高原、イラク、ハイチや南スーダンといった国や、地域においてです。これら実績をもとに、日本は、世界の平和と安定のため、これまで以上に責任を果たしていく。そう決意しています。
「世界の平和と安定のため」に「責任を果たしていく」「決意」がウソでないことを、今証明すべきです。
自衛隊員が積み重ねてきた実績と、援助関係者たちがたゆまず続けた努力と、その両方の蓄積は、いまやわたしたちに、新しい自己像を与えてくれました。いまや私たちが掲げるバナーは、「国際協調主義にもとづく、積極的平和主義」という旗です。繰り返しましょう、「国際協調主義にもとづく、積極的平和主義」こそは、日本の将来を導く旗印となります。テロリズム、感染症、自然災害や、気候変動──。日米同盟は、これら新たな問題に対し、ともに立ち向かう時代を迎えました。
日米同盟は、タンカーを攻撃する勢力に「ともに立ち向かう」べきでしょう。「積極的平和主義」が口先だけのきれいごとではないことを今こそ示すべきです。
米国が世界に与える最良の資産、それは、昔も、今も、将来も、希望であった、希望である、希望でなくてはなりません。米国国民を代表する皆様。私たちの同盟を、「希望の同盟」と呼びましょう。アメリカと日本、力を合わせ、世界をもっとはるかに良い場所にしていこうではありませんか。希望の同盟──。一緒でなら、きっとできます。
希望の同盟、一緒でなら、きっとできます。「一緒なら」というのは、まさに言葉の通りです。タンカー防衛を「一緒」にする。日本のタンカーを、アメリカや外国に守らせていれば、トランプから、「日本は日本のタンカーを守らず、家でソニーのテレビを見ているだけだ」などといわれてしまいます。そして、アメリカ国民は、「日本人は狡猾な民だ!」と怒ることになるのです。
安倍総理、今まで、さまざま美しい言葉を語ってこられました。
「自由で開かれたインド太平洋戦略」
「積極的平和主義」
「希望の同盟」
「一緒なら、きっとできます」
これらの言葉は、ホントだったのか、それともウソだったのか、今問われています。
日本は、AIIB事件の時、参加しないでアメリカを救いました。それで、日米関係は、とても強固になった。今、アメリカの「タンカー防衛有志連合構想」は挫折しかけています。日本は、イギリスに次いで、「やりましょう!」と手をあげ同盟国アメリカを救ってください。アメリカを救うことが、日本を救うことにもなります。そして、国民には、「日本のタンカーを日本が防衛するのは当然だ」と説明すればいいのです。野党がなんかいったら、「ではあなたは日本のタンカーの防衛を他国に任せるのが、平和主義だというのですか?」と切り返しましょう。
メルマガの読者さんで安倍総理とつながりがある方は、ぜひこの内容をお伝えください。皆さん、韓国叩きで幸せなようですが、もっと大事なことが世界では起こっています。
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