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メンツか経済か。香港デモ対応で天安門事件を挙げた米国の真意

逃亡犯条例改正への反対運動をきっかけに始まった香港のデモは18日、170万人という過去2番目の規模になりました。この日を前に、中国武装警察の動きを大きく報道していた日本のメディアの視点に対し、別角度の見方への留意を訴えるのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、現在の中国が最も重要視するのは経済面の影響だと指摘。その部分を正しく衝いた米ボルトン大統領補佐官の発言の真意を解説しています。

香港情勢で天安門事件を挙げた米国の警告

香港情勢が緊迫しています。マスコミは、いまにも中国の武装警察が香港に投入されそうなトーンで報道しています。

「中国深圳の香港との境界に近い競技場では15日、中国人民武装警察(武警)が演習を実施しているのが確認された。香港で続いている抗議活動に対するけん制とみられる。

深圳の競技場からは、迷彩服姿の男性らが声を挙げたり、警笛の音が聞こえた。競技場の駐車場は100台以上の武警関係車両で埋め尽くされ、ホールローダーが少なくとも3台、放水砲を搭載した車が2台あった。」(8月15日付朝日新聞)

しかし、少し違う角度からの報道にも注意を払っておいたほうがよいでしょう。

「ボルトン氏(国家安全保障担当大統領補佐官)は『中国政府は自分たちの取るべき手段を極めて注意深く考えるべきだ。なぜならば米国人は89年の中国政府による弾圧を覚えているからだ』と強調。中国への外国投資の60%が香港経由である点を挙げ、『英国をモデルとした司法が信頼されているためだ』と指摘。『もし中国政府による誤った判断で香港が評判を落とせば、中国は深刻な経済上の結果を被ることになるだろう』と警告した」(8月15日付朝日新聞)

どこがポイントかと言えば、中国共産党が最も気にしている点を衝いたコメントだからです。

特に日本では、中国の海洋進出をはじめ軍事的動向など強面の面ばかりが強調される傾向にありますが、中国が最も気にしており、大事にしたいと考えているのは経済の面なのです。それも、天安門事件の教訓として共産党指導部の胸に刻み込まれているのです。ボルトン氏が言う「89年の中国政府による弾圧」とは天安門事件のことです。

1989年6月4日に天安門事件が起きたとき、私は上海の復旦大学に教えに行っていましたが、共産党側も、そして敵対する民主化運動の側も、ともに天を仰いで「これで中国の未来はなくなった」と嘆いていた光景を目にしました。

それは、事態の鎮圧に人民解放軍が投入され、戦車の前に立つ青年の姿が繰り返しテレビに映し出されるたびに、国際資本が中国から逃げ出したからです。これは、ようやく経済建設が軌道に乗り始めた中国にとっては致命的と思えるような動きでした。

あわや、国際資本が全て中国から手を引くかと思われた頃、事態が沈静化に向かい始め、中国に踏みとどまった松下電器とフォルクスワーゲンという2つの世界企業が微動だにしていない姿を見て、国際資本は中国に戻り始めたのです。いまでも中国は、パナソニックとフォルクスワーゲンを特別扱いで厚遇していますが、その恩義があるからなのです。

直後、中国はデモ隊や暴動の鎮圧に必要な武装警察を強化し、今日に到っています。その武装警察が深圳に集結し、訓練の様子まで外国メディアが報道するがままにしているのは、その圧力だけで香港の群衆が行動にブレーキを掛け、事態が沈静化に向かうのを第1の目的としているのは間違いないところです。

AFPによれば、中国政府系メディアは16日、天安門事件を繰り返すことはないとする社説を掲載したそうです。

中国が香港に介入しないで済ますには、林鄭月娥行政長官の退任など群衆が納得する条件が必要です。それは林鄭氏を引き立ててきた習近平国家主席の判断ミスを認めることにつながり、中国共産党にとっては愉快ではない条件ですが、「それくらいしないと天安門の二の舞になるけど、それでもいいの?」と注意を喚起しているのがボルトン補佐官の発言だということですね。

この編集後記がお目にとまる頃、事態がどうなっているか予測はできませんが、双方がマスコミとSNSを駆使して情報戦を繰り広げるなか、流血を見ないで事態が沈静化することを願わずにはいられません。(小川和久)

image by: Jimmy Siu / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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