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トランプ「米ファースト」がG7で受け入れられなかった当然の理由

米中覇権戦争やイラン問題などが山積する中、「首脳宣言」が史上初めて見送られひっそりと閉幕したG7。そこには、米国がリーダーとして世界をとりまとめていたかつての面影はありませんでした。識者はこの「惨状」をどう見るのでしょうか。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、今回のG7の主立った議論をまとめ、アメリカファーストのトランプと他主要国の意見対立が際立つ理由を詳しく解説しています。

ボロボロのG7

フランスで8月24日~26日、G7サミットがありました。

G7サミット……。かつては、世界の覇権国家アメリカを中心に、「これからの世界をどうするか決める場でしたが…。今は、暴れん坊のトランプさんを、皆でなだめる場になっています。

G7で、トランプさんと他の首脳たちの意見がことごとく異なっている。たとえば。

1.イラン問題

トランプ・アメリカは、イラン核合意から一方的に離脱。イランが石油輸出をできないよう、制裁を科した。イラン核合意の参加国でG7メンバーであるイギリス、フランス、ドイツは「合意維持」を主張している。「アメリカのポチ」とリベラルから批判される安倍総理もイラン核合意維持を支持しています(実は、全然ポチではない)。

欧州にとっても、日本にとっても、世界にとっても、「イラン戦争はまったく必要ありません。一番いいのは、アメリカが核合意に復帰することなのです。G7で、「イランの核兵器保有を認めないことでは意見が一致しました。これは、当たり前ですね。しかし、そのためのアプローチはアメリカと他国で全然違います

2.地球温暖化

非常に深刻な問題とされていますが、トランプ大統領は全く関心を示していません。トランプさんは2017年6月パリ協定離脱を宣言世界中から非難されたことは記憶に新しいです。

3.自由貿易

トランプさんは、「自由貿易はバカらしい!」という立場。それで、中国製品への関税を、昨年7月からガンガン上げまくっています。その他のG7国は自由貿易維持を支持している。

4.ロシア問題

トランプさんは大統領になる前から親プーチンを公言しています。これは、おそらく「戦略的」にそうしているのでしょう。つまり、米中覇権戦争でロシアをアメリカ側に入れたいと。ミアシャイマーさんも、ルトワックさんも、「ロシアを自陣営に入れろ」と主張しつづけている。それで、トランプさんは、「ロシアを入れて、またG8にしよう!」と提案しました。

ロシアは2014年3月にクリミア併合後G8から除外されている。トランプの案を支持したのは、イタリアのコンテ首相だけでした。反対したのは、主にイギリスとドイツです。イギリスは、「ロシアの元スパイ、スクリパリを化学兵器ノビチョックで殺そうとした」事件の記憶が新しく、ロシア復帰を支持できないでしょう。

ただ、来年はアメリカが議長国なので、変わるかもしれません。トランプさんの一存で、招待してしまうかもしれない。安倍総理や、ドイツ、フランス、イタリアなどは、強硬に反対しないでしょう。

5.北朝鮮問題

イギリス、フランス、ドイツなどは、北朝鮮の短距離ミサイル発射を問題視しています。国連制裁違反ですから。しかし、トランプさんが全く問題視していないので、深入りできない感じ。

6.香港問題

唯一意見が一致したのは香港問題です。香港のデモで犠牲者が出ている事態を憂慮している。香港の自由、民主、安定を維持することが重要。G7は状況を注視していきましょうと。これ、案外重要です。もし香港で「第2の天安門事件」が起きれば、日欧米で一体化して経済制裁になる可能性がある。そうすると中国経済はホントにボロボロになり、中国の没落が加速することでしょう。

理想的な状況であれば

トランプさんが、戦略的な大統領であれば、状況はかなり違ったことでしょう。アメリカは、中国と覇権戦争を戦っている。アメリカ大統領の目的は、「G7国を米中覇権戦争で味方につけること」であるはずです。そのためには、

ことなどが不可欠です。しかし、トランプさんは、中国と戦いながら、同時に、イランとも欧州とも日本とも戦っている。それで、求心力がどんどん低下している。

アメリカが、「タンカー防衛有志連合つくろうぜ!」とよびかけても、イギリスやオーストラリアなどしか応じない。ほとんどすべての国がよびかけを無視している。アメリカが、「ロシアを復帰させてG8に戻そうぜ!」とよびかけても、公然と支持するのはイタリアだけ。

こうなるであろうこと、トランプさんが大統領になる前からわかっていました。たとえば2016年4月5日「トランプ大統領誕生なら米国は覇権国家から転落する」という記事を書いています。また2017年6月27日には「米国の没落が急加速!『アメリカファースト』政策の大失敗」という記事を書きました。

アメリカが笛吹けど踊らず状態になったのは、トランプさんの責任です。日本を叩き、欧州を叩き、イランを叩き、そのうえで、「俺のいうことを聞け!」といっても、普通聞かないですね。

それでも「スリーピー・バイデン」よりはマシ

こんなトランプさんですが、民主党の最有力候補バイデンさんよりはマシです。

バイデン氏は演説で、副大統領や上院外交委員長として世界各国の指導者と会ってきた経験を誇示した上で「中国がわれわれをやっつけるって?いいかげんにしてくれ。彼らは体制内の腐敗にどう対処したらいいのかさえ分かっていないんだ」と述べ、米国と対等に渡り合える国とはみなしていないことを強調。一方で「悪い人たちではない」とも述べた。
(産経新聞 2019年5月3日)

バイデンさん、アメリカは5G技術でファーウェイにかなわないこととか知らないのでしょう。バイデンさんが大統領になれば、いつの間にか中国が覇権国家になっていそうで恐ろしいです。アメリカも、なんというか「人材不足」ですね。とりあえず、トランプさんにはがんばってほしいと思います。

image by: 首相官邸 - Home | Facebook

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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