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NHK経営委員長が白状した「日本郵政にNHKが謝罪」の出来レース

日本郵政の鈴木副社長による言いがかりとも受け取れる猛抗議に屈した、NHK経営委員会。先日掲載の「詫びる気ゼロ。NHKと猿芝居した日本郵政を牛耳る権力者の実名」で、そのNHKサイドの判断を批判した元全国紙社会部記者の新 恭さんですが、今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では、何が鈴木氏を激怒させたのかを探るとともに、彼とNHK経営委員会のそれぞれが犯した「違反行為」を指摘しています。

猿芝居の日本郵政副社長とNHK経営委員長が国会で答弁

まったくガバナンスのきいていない日本郵政が、「クローズアップ現代+」の放送内容を根に持ち、あろうことか、ガバナンスがなっていないと理由をつけてNHKに抗議した問題。盗人猛々しい日本郵政のイチャモンに対し、それはそうだと無定見に相槌をうったNHK経営委員会はいったいどうなっているのか。

そんな、ため息まじりの怒りが世間に広がるなか、日本郵政側の仕掛人、鈴木康雄上席副社長と、同調者とみられる石原進NHK経営委員長の二人がそろって、国会にやってきた。

10月10日の衆議院予算委員会は、立憲民主党と国民民主党などが統一会派を組んで初の委員会論戦である。関西電力のお偉いさん方へ原発の地元企業から何億ものカネが還流していた疑惑などは、少なくとも関電の会長、副社長、あるいは1億円を超える金品をもらっていた二人の役員を呼んで、真相を追及すべきところだが、案の定、原発ムラと縁の深い自民党の反対で参考人招致はお預けになった。

関電はダメだが、これはOKというわけで、日本郵政の事実上の支配者と、九州財界のドンでもあるNHK経営委員長が呼ばれ、嫌々ながら国会に姿を現したのだから、とくと観察せねばなるまい。

この二人に対する質疑を担当したのが、小川淳也議員。立憲民主党の若手論客だ。この人はいきなり核心に切り込むから面白い。

小川議員 「NHKへのクレームの首謀者はおそらく日本郵政の鈴木副社長だ。総務省時代は放送課長だったことがある。そのころからの影響力をカサに着たのではないのか」

鈴木氏は放送界ににらみをきかせる立場で役人時代を過ごし事務次官にまで上り詰めた。退官して9年が経っても、総務省にはまだ力の及ぶかつての部下が幹部に出世して残っているだろう。

NHKへの抗議を主導したのは間違いなく鈴木氏である。だが、抗議の対象は「クロ現+」の番組内容そのものではない。最初にかみついたのは、続編のための情報提供呼びかけをしたクロ現公式ツイッターの動画だ。

鈴木氏 「圧力をかけた記憶はない。放送されたものに続いて第2回の放送をするというさいに、まったく事実の適示もなくきわめて刺激的な言葉だけを並べたような動画による呼びかけをしていたので、それを削除してほしいと要請した」

昨年4月24日に放送された番組では現役の郵便局員が告白”しており、リアリティがあった。NHKのサイトに“告白”の数々が掲載されている。以下はそのひとつ。

現役郵便局員です。高齢者に対する強引な勧誘、重要事項の不告知、虚偽の説明が常態化しておりまして…背景に会社上層部からの苛烈な要求を満たすため、追い込まれた現場がやむを得ずお客様をだましたり、複数人でお客様宅を訪問しているのが現状です。

こうした内容に鈴木氏らが激怒したのがコトの発端だが、事実に反すると思うのなら、実態をまずは調査すべきである。不正営業が行われていたのは確かであり、日本郵政のガバナンスこそが強く問われるべきだ。

NHKの制作スタッフは、第2弾を放送すべく、7月に入ると公式ツイッターに2本のショート動画をつけて情報提供を呼びかけた。鈴木氏はこの動画とコメントに納得できず、削除を求めた。

どこにひっかかったのかを調べたいと、筆者はさんざんネットを検索しまくったが、削除されたせいか、見つからない。いまのところ、野党合同ヒアリングの後、報道陣の質問に答えた鈴木氏の以下の発言から推測するしかなさそうだ。

「事実は全く書かれてませんから。4月の放送があったから郵政は営業目標を変えたとNHKは言っているが、ああいうウソを言ってはいけません。自分たちが取材をしたから変えたんだと言ってますよね。我々は当然もう準備していますから。2月か3月かもう準備しているわけで。今年の目標はこれだと言っているわけですから。まるで自分たちの手柄みたいに言っているやつはとんでもないなと

どうやら、過酷な販売ノルマ(目標)を日本郵政が自律的に改善しょうとしていたのに、クロ現のお手柄にされたと憤っているようなのである。

ノルマ(目標)について日本郵政は昨年4月24日付でNHKの質問に以下のように
回答している。

今年度の会社全体の営業目標は前年度と比べて約10%の引き下げを行いました。したがいまして、各郵便局の営業目標や各社員に期待される目安額も平均的には下がっています。

これを読むと、鈴木氏が言う目標の変更とは10%ほどノルマの数字を減らしたことだと思われる。

かりに鈴木氏の言う通り、NHKが放送効果とノルマ変更の関係で「ウソ」をついたとしても、国民にとってその「ウソ」ににどれほどの重大さがあるだろうか。鈴木氏にしてみれば、とんでもない違いかもしれないが、我々には些細なことである。

小川議員は「まったく認識が甘い」と吐き捨てるように言い、こう続けた。

「あなたの上司である日本郵政の長門社長はNHKの報道は今となっては全くその通りと言っている。一連の抗議を社内協議を経ずにしたことを深く反省していると言っている。抗議は誤りだったと謝罪してください」

「社内協議を経ずに」と長門社長が言った意味は、ほとんど鈴木氏の独断だったということではないのだろうか。

いっこうに取り合わない鈴木氏に対し、小川議員ははさらにまくしたてた。「自信のある抗議ならなぜ公明正大にやらないんだ」。

小川議員は日本郵政がNHK会長やNHK経営委員会に送った文書を公表しないことをもって「公明正大ではない」と言っているのだが、鈴木氏は相変わらず話をすり替える。「私どもの社長3名の連名でNHK会長に対してレターを送った。隠れていない。堂々と送っております」。安倍官邸流のいわゆるごはん論法”だ。

隠す気がないのなら白日の下にさらせばいいのだが、野党の文書提出要求に応じようとしない。NHKもまた、日本郵政の了解が得られていないという理由で同じ姿勢をとる。

いつのころからか、郵便局に転居届を出すと、NHKへの届け出用紙もくっついてくるようになった。NHKに対して日本郵政は協力してやっているという思いがあるだろう。もちろん、われわれ一般市民にとっては、余計なお世話をするなといったところだ。

番組やツイッターへの怒りがおさまらない鈴木氏は、NHK会長に直訴した。その後、制作現場のチーフプロデューサーが「会長は番組に関与しない」と説明したのを逆手に取り、「職員教育とガバナンスがなっていない」「放送法違反だ」と、こんどはNHK会長らの経営を監視する経営委員会に抗議文書を送りつけた。

だが、これは石原経営委員長と打ち合わせの上だろうと、想像された。そこで、小川議員は石原氏に問いただした。

「会長への厳重注意なんて、ただならぬ事態じゃないですか。去年の10月9日、経営委員会に書面が届いたときにはじめて(日本郵政の抗議内容を)知ったんですか」。

これに対し、石原氏は驚くべき淡白さで打ち明け話をした。

「実は昨年9月25日に郵政の鈴木様が私どもの森下代行の東京の事務所にいらっしゃいました。申し入れということでお見えになり、ガバナンスの問題で非常に不満を言っておられたと聞いております」

森下代行とは、経営委員長職務代行者、森下俊三氏のことだ。阪神高速道路の会長だが、有楽町に東京事務所があり、そこに鈴木氏が訪ねてきたのだという。それを受けて当然、森下氏は石原氏に相談したことだろう。想像通り、事前の話し合いのすえ日本郵政側からNHK経営委員会に文書が送られていたのだまさに出来レースである。

「厳重注意するほどの問題なのか」との質問に対し石原氏はこう答えた。

「10月5日付の文書が郵政から来て、現場のチーフプロデューサーが、会長に制作権はない、と言ったことなどが書いてあった。NHKのガバナンスの問題として会長の社員に対する教育が欠けているなと。視聴者に対して、郵政に対して、ちゃんとした答えをして納得いただく努力をしているのかということを調査した結果、厳重注意としたわけです」

要するに、鈴木氏の主張通りにしたということである。小川議員によると、NHK経営委員会が会長に「厳重注意」したのは、籾井勝人元会長が私的なゴルフでのハイヤー代をNHKに支出させたことが発覚した時を含めこれまでに二度しかないという。ふつうならチーフプロデューサーの発言で会長のガバナンスがこれほど問題にされたりしないはずだ。

鈴木氏はNHKのチーフプロデューサーが言ったことを放送法違反だと言いがかりをつけたが、「番組編集についての通則として、何人からも干渉・規律されない」(第3条)と定めた放送法に違反する圧力をかけたのはほかならぬ鈴木氏ではないのだろうか。ガバナンスの問題と称して、実質的には番組に干渉しているのだ。

また、NHK経営委員会は、会長を厳重注意としたさいの議事録の提出を求める野党各党に対し「作成していない」として拒んでいるが、このような重要事項の審議が記録されていないとすれば、それも違反行為に違いない

日本郵政もNHK経営委員会も同じ穴の狢だ。過酷なノルマを達成するため歪んだ営業に追い込まれた郵便局員、その実態をより詳しく報じようとした「クロ現+」のスタッフ。彼らはこの見え透いた猿芝居をどのような思いで眺めているのだろうか。

image by: MAG2 NEWS

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