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責任逃れ、事なかれ主義の「◯◯市の△万人に避難指示」に物申す

甚大な被害をもたらした台風19号。経験したことのない大雨により河川の氾濫が多く起こりましたが、住民避難において過去の経験は生かしきれていたのでしょうか。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さんは、昨年の西日本豪雨でも起こった自治体全域への避難指示が繰り返されたことを問題視しています。命を守るために本当に必要な避難計画は、机上ではできないと、津波の避難計画の問題も取り上げ、検証と修正を求めています。

机上で住民避難計画を描くな!

台風19号の爪痕からは、私たちは命を守るための無数の教訓を突きつけられています。今回は、そのうちの住民避難について考えてみたいと思います。

その第1は、闇雲に避難を呼びかけるのは、地域の実情を把握していない証拠だということです。

テレビの画面には、「◯◯市の△万人に避難指示」という情報が次々と現れますが、これは一定の地域どころか市町村をそのまま避難させようというもので、なにかあったときの責任逃れ、事なかれ主義の現れと言わざるを得ません。

ある防災先進県の責任者が言っていましたが、日頃からハザードマップを検証し、その完成度を高め、それに基づく避難訓練を積み重ねていれば、本当に危険にさらされる地域の住民だけを迅速に、しかも安全な避難所に移動させられるはずだというのです。

その通りだと思います。△万人、うん十万人に避難指示を出しても、どこに収容するというのでしょうか。どのような手段で避難するのでしょうか。まず、道路は渋滞して使えないでしょうし、万人単位を収容できるだけの避難所は確保できていないはずです。今回も、道路状況を見て避難を諦めたり、満員で避難所に入ることができなかったりというケースが見られました。

道路の渋滞については、昨年7月の岡山県の水害(西日本豪雨)で、避難先のイオンモールに向かう車が大渋滞し、間一髪で氾濫しなかったからよかったものの、幹線道路の横を流れている高梁川が危険水位を超えていたのです。それに学ばないまま、今年も大災害に遭うことになったのです。

津波の避難計画も、いい加減なものが圧倒的に多いのです。

2012年8月末、NHKスペシャルが南海トラフ地震について、静岡県下田市を舞台にシミュレーションを流しました。見ていて呆れました。監修者に中央防災会議にも関わっている著名な国立大学教授の名前が出ているというのに、高台にしか避難所がなく、車も使いにくい問題に触れていなかったのです。

高台に行けるのは健常者、それも中年以下の年齢の人たちです。かなりの数の避難所は、中年以下の健常者でも、徒歩で迅速に避難できるかどうかわからないほどの距離にあります。老人、心身に課題を抱える人、病人やけが人、子供を沢山抱えている人は、避難所にたどり着くことができないのは明らかです。

避難所までの距離と歩く速度の問題もあります。東日本大震災から2ヵ月もたっていない2011年5月、総務省の消防審議会で和歌山県が提出した地域防災計画についての説明がありました。大震災を踏まえて、地域防災計画の見直しが進められているなか、和歌山県だけがいち早く、実情を踏まえた内容に改定してきたのです。

際立っていたのは、基準となる1分間の歩行距離を30メートルとして避難計画を立てていたことです。これは、老人を含む全ての避難者に可能な歩行距離です。

その翌年、私は自分が関わることになった静岡県の危機管理部の幹部に避難計画の基準となっている1分間の歩行距離を聞きましたが、誰も答えられませんでした。これが「防災先進県」を自任してきた静岡県の実態だったのです。いまは、静岡県の危機管理体制は大幅に改善されています。

しかし、いまでも多くの自治体の津波避難計画の歩行距離は1分間に50メートルくらいになっていると思います。これは、消防庁が示した基準だということですが、「実際に自分たちが荷物を持って歩いてみればわかるだろう」ということを実行せず、デスクの上で適当にまとめたものであることは言うまでもありません。

以来、私は避難計画を老人、心身に課題を抱える人、病人やけが人、子供を沢山抱えている人などの立場で検証し、修正するよう提案しているのですが、どれくらい実行に移されているか疑問です。(小川和久)

image by: Moses.Cao / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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