未払賃金の消滅時効が5年に。そのタイミングで何が起こるのか?

 

新米 「で、結局は、来春以降、未払賃金の請求が発生した場合、どうなるんですか?」

E子 「『特別法が一般法の適用を排除する趣旨でないときは、特別法を適用し得る事件について一般法を適用しても差し支えない(法律用語辞典)』とされている事から、労働基準監督署の支払命令は最大2年だけど、弁護士やユニオン等の民事事件では5年の消滅時効適用もあり得るってことよ」

大塚 「今までは2年を超えて支払った事件はなかったってことなんですよね?」

所長 「いや、実は民法第1条第2項の信義則違反、民法第1条第3項の権利濫用として2年超の未払残業代の支払を命じた事件や未払残業計算等を怠った民法第709条の不法行為として民法第724条の不法行為の消滅時効3年を適用された事件もあるんだよ」

新米 「え?退職金は5年だけど、賃金は2年が最長じゃないんですか?違うこともあるんですか?」

深田GL 「個別労働紛争となった場合は、あるんだ。1年前に退職した従業員がサービス残業代を会社に請求していて退職後2年で訴訟となった場合には、信義則(民法第1条第2項)上、1年前の請求日時点で時効となっていないサービス残業代を支払う事とした裁判例もいくつかあったと思うよ」

所長 「杉本商事事件(広島高裁平成19.9.4判決)では、長時間サービス残業させたことなどを理由に、すでに時効で消滅した期間の残業代と慰謝料を請求した事案で、管理者が、部下従業員の勤務時間を把握し、時間外勤務について割増賃金請求手続を行わせる義務に違反したとして、不法行為に基づく損害賠償請求を認めたんだ。不法行為(民法第709条)で請求された場合には2年間の時効だと消滅したはずの2年より前の1年分の未払い残業代についても遡及して支払え、つまり、3年前(民法第724条)に遡って支払命令が出た判決もあるんだよ」

新米 「え~、3年ですか!」

所長 「そうだね。他にも会社側で少しでも金銭的交渉に応じる発言をすると、元従業員の請求を承認した事になり時効の中断(民法第147条第3号)となってしまうから要注意だよ。電話の会話等を録音される可能性もある。また、『残業代の請求は2年で時効ですし、賃金台帳の保存期間は3年間で、それより前のものは破棄していますので、ご理解ください』と回答するのも方法かな。状況によっては、時効を援用する旨のメール、内容証明も選択肢にはいるね」

新米 「うーん、そういうものなのですか。気をつけないといけませんね」

所長 「それから、固定時間外手当とか、固定残業手当といったわかりやすい名前の手当でなく、業務手当や〇〇手当(固定残業手当相当分)という名前にするのは、就業規則や賃金規程で定義をはっきりさせておけば良いとしていたけれど、誰が見ても一目で内容がわかる定額残業手当などの名前に変更するのが良いね。就業規則はもちろん、雇用契約書、労働条件通知書など、労働条件を明示する書類の変更も必要だね。会社で固定残業手当などわかりやすい手当名に変更せず、○○手当(固定残業手当相当分)のままではリスクがある旨を認識してもらってくれないか」

全員 「さっそくお客さまに知らせていかないといけませんね!」

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