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「台湾は中国の一部」とフェイク画像を垂れ流す台湾メディアの怪

台湾の新しい総統を決める「総統選挙」まであと2カ月あまり。この選挙は極東アジアに位置する日本人にとっても他人事ではありません。台湾「統一」を狙う中国に毅然とした態度で立ち向かう蔡英文総統と、「親中派」の中国国民党公認候補の韓國瑜(カン・コクユ)現・高雄市長との一騎討ちとなる今回の選挙。香港のデモが激化する中、台湾も「第二の香港」と化して中国に呑み込まれようとする危機を迎えるのか、それとも「民主化」を守る選択をするのか。そんな未来を決める大事な選挙を控えた台湾で、一部のTVメディアの報道が批判の対象になっています。総統選直前の今、台湾で何が起きているのでしょうか? (文・kouikusen & MAG2 NEWS編集部)

「台湾は中国の一部」と主張する台湾メディアは何がしたいのか?

台湾の首都・台北市内の北東に位置し、おおよそ日本人観光客は足を踏み入れることがない、メディア関連企業がいくつも点在している再開発エリアがある。台北市内湖(ネイフー)。台北の東端から台北松山空港の前を通り抜ける大通り「民権東路」に架かる橋「民権大橋」周辺は、大衆紙『蘋果日報(アップルデイリー)』やテレビ局「壹電視」「三立電視」などの本社が軒を連ねる。

その民権東路と国道一号線が交わる一角に、ひときわ目立つ笑顔の男児のイラストが全面に掲げられたガラス張りのビルが建っている。台湾きっての親中紙である『中國時報』をはじめ、テレビ局中天電視」を擁する台湾の一大メディア組織「旺旺(ワンワン)集団」の時報広場ビルだ。

時報広場ビル image by: Solomon203 [CC BY 3.0], via Wikimedia Commons

中天電視は、台湾では中国寄りの思想を持ったテレビ局として知られているが、その「親中ぶり」は、ときに「度が過ぎる」とネットで批判の的となっている。例えば、同社のニュース専門チャンネル「中天ニュース」では、放送中に流した中国の地図イラストに「台湾」や「香港」を中国の一部とみなすような表現を使って台湾世論から批判を浴びたという。

台湾や香港を、中国と同じ色で表現したイラストを流すニュース番組の不思議

香港メディア「香港01」の報道では、台湾でおこなわれたNCCU(國立政治大學)の調査によると「あなたは台湾人ですか? 中国人ですか?」という質問に対して過半数以上の55.3%が台湾人」だと回答。また、日本の「共同通信」が報道したところによると、台湾の民間シンクタンク「台湾民意基金会」が6月に発表した世論調査では台湾の将来について「台湾独立がよい」と答えた人は49.7%にのぼっている(「中台統一がよい」は13.6%、「現状維持がよい」は25.4%)。

同ニュースが番組で使用した、中国の国旗「五星紅旗」をデザインしたその地図の中には、台湾、そして香港も含まれていた。番組内では、女性アナウンサーが立つ背景に下記の図版と同様のイラストが使われていたという。

放送で使われた地図と同じイラスト  image by: shutterstock.com

この画像が同ニュース番組で最初に使われたのは2018年5月23日。しかし2019年4月23日になってから台湾のネット上で大きな話題になったという。番組の画像は、以下の現地ニュースサイトで確認できる。

● 中天新聞不演了! 台灣直接納入中國版圖(現地ニュースサイト)

これに対して台湾の「5ちゃんねる」とも言われるネット掲示板PTT」では、多くの台湾人から批判の声が投稿された。

推 happyyolk: 蘇院長不處理一下嗎 太誇張了(蘇行政院長(※日本の首相に相当)、これ対応しないんですか。ひどい)

twptt: 統媒不意外(中台統一派メディアだから意外じゃない)

噓 leftwalk: 中么可以關台了 亂七八糟(ここは、もうそろそろ潰しても良いよ、ムチャクチャだ)

噓 Bansar: 跟本央視(もはや中国中央テレビじゃん)

推 linhu8883324: 已經是對岸的媒體了喔?? 竟然幫到這樣(すでに向こう(中国)の媒体なの? こんなこともしちゃってさ)

噓 wr: 為什麼不用判國或顛覆政權判刑(なんで反乱罪とか内乱罪に問われないの?)

こうした番組の画像を見ると、まるで「台湾や香港は中国の一部になりたいと思っている」と言わんばかりの報道姿勢が見える。実は、同ニュースのこうした露骨な中国寄り報道は今年3月にもおこなわれていた。

「親中派」の立候補者に関するニュースを大量に流す確信犯

それが、2020年におこなわれる中華民国(台湾)総統選挙に、親中派の最大野党「中国国民党」から公認を受けて立候補している韓國瑜(カン・コクユ)現・高雄市長に関する報道だ。下記の現地ニュースサイトを見ると、露骨な偏向報道の実態が浮かび上がってくる。

● 罰百萬沒在怕!中天繼昨天狂播韓國瑜 今早再高達六成三(現地ニュースサイト)

2019年3月27日、同ニュースは韓氏に関するニュースのテロップをたった5分間で20種類も流したという。このテレビ局が「親中派」であることは台湾人であれば常識だが、それにしても、いち市長に関するテロップをわざわざニュース専門番組で5分間に20個も流す必要があるだろうか? 中には「朝、韓氏が◯◯を食べた」「昔はこれだけ髪の毛が生えていた」など、どうでもいいニュースも多く含まれていた。これを見た台湾人の間からは「サブリミナル効果を狙っている」「洗脳だ」という指摘が少なからず挙がっていたという。実際のテレビ画面についてはリンク先をぜひ見て欲しい。

マンガ「洗脳」

illustration by: kouikusen


なぜ「中天ニュース」は、ここまで「親中」なのか?

では、なぜこのテレビ局はここまで「親中ニュースばかり報道するのか? そのヒントは経営母体である「旺旺グループ」の沿革にあった。

旺旺グループは、台湾から中国大陸に進出した1962年設立の老舗総合食品メーカー「中国旺旺控股有限公司」と上記のマスメディア事業などを統括する「神旺控股有限公司」で構成された企業グループ。創業当初は台湾の宜蘭県で主に農産物・水産物の缶詰加工品の輸出を行っていたという。現在の同グループ経営者で「台湾一の富豪」として知られる蔡衍明氏がトップに就いたのは1977年のことだ。2年後の1979年には、あの時報広場ビルにも大きく掲げられていた「旺仔(旺旺坊や)」が誕生し、自社ブランドを確立したという。

大きな転機は1983年、日本の岩塚製菓株式会社と技術提携し、台湾にて米菓(煎餅)の製造販売を開始したことだ。その後、短期間で台湾の米菓市場をリード。1989年には、台湾企業として初めて中国大陸で商標登録を実現し、「旺旺」ブランドの登録を完了した。さらに1992年、中国・湖南省に現地法人「湖南旺旺食品有限公司」を設立し、旺旺グループが中国大陸市場へ進出するための堅実な基盤を構築。現在も中国大陸で積極的に事業を展開し、煎餅などの菓子類を中心に、飲料から乳幼児向けの食品までを手がける大企業に成長した。台湾一の富豪となった蔡衍明氏が「親中たる所以である。

さらに旺旺グループは2008年11月、新聞社やテレビ局などを所有する台湾のメディアグループ中時集団を買収し、蔡衍明氏が大手紙『中國時報』やテレビ局「中国電視」「中天電視」のオーナーに就任。すでに中国寄りだったメディアグループを丸ごと買収したことで、旺旺グループが台湾の親中派メディアを掌握した形となった。

この買収劇には台湾人も危機感を覚え、2012年には学生らによる反対運動反媒體壟斷運動」が勃発。中国寄りメディアが台湾で強大化することに若者たちは強く反発した。現在も旺旺グループの「台湾は中国の一部」という報道姿勢は変わらず、来年1月の総統選を前に「親中工作」は今以上に激しさを増す可能性がある。

経済によって「統一」を謀る、中国の台湾「買収」工作

台湾には中国大陸から大きな利益を得ている大企業が少なくない。中国に製造拠点を持ち、シャープを買収したことで知られる鴻海(ホンハイ)精密工業などもその一つだ。中国による「統一」へのマインドコントロールは、経済界を中心に、すでに台湾社会全体にまで広がりつつある。中国は、台湾と戦争をするより買収する方が現実的だと考えたのだろう。

とはいえ、総理大臣が国慶節にお祝いメッセージを送り、習近平国家主席を国賓として招く予定を立てるなど、「親中ぶりをアピールしている日本もまた他人事ではない。経済界によって中国に洗脳された台湾の現状を「明日は我が身」の出来事ととらえるべきではないだろうか。

だが、6月に発生した香港における反政府デモにより、台湾人の心情にも少しづつ変化が表れている。連日報道されている香港デモ激化のニュースを目の当たりにし、台湾を「第二の香港」にしたくない、台湾は中国から独立すべきだとの思いが台湾人の中で日に日に増していることは、先に示した調査結果を見ても明らかだ。また、11月8日に香港デモ参加者の大学生が死亡したことで、中国共産党や香港政府に対する風当たりはますます強くなることが予想される。

運命の「中華民国総統選挙」は、2020年1月11日。中国との統一をめざしながら経済を優先するか、台湾人としての矜持をとるか。台湾は今、大きな選択を迫られている。

text & illustration: kouikusen
日本語版テキスト・MAG2 NEWS編集部

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