MAG2 NEWS MENU

なぜ65歳以上の高齢者が障害年金を請求しても断られるのか?

病気や怪我で働くことが困難になった場合に請求することができる障害年金制度ですが、65歳以上の方々の障害年金新規請求は原則として不可なのだとか。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、障害年金の詳細な説明と高齢者の新規請求について、そして65歳以降でも請求ができるケースについても説明しています。

65歳以降に新規で障害年金を請求する事は原則として不可になってしまう

年金には病気や怪我で働くのが困難になった場合の保障として、障害年金制度が用意されています。最近は障害年金の周知が広まってきた事もあり、すこーしずつ知ってる人が増えてきたのかなと思います。とはいえほとんどの人が知らないのが現状。しかしその存在は知っていても年金制度自体が複雑すぎるために、理解自体はそんなに進んでいないです。

さて、障害年金は重い病気や怪我になると、初診日初めて病院行った日から1年6ヶ月経てば請求できる(例外はいろいろありますがこの記事では割愛)という話にはなりますが、請求にはリミットがあります。歳を取って体が不自由になったら障害年金を…という事をたまに言われたりしますが、高齢になってからの障害年金の請求というのはごくごく一部の例外を除いて不可。65歳になると障害年金の新規の請求というのはできなくなる。

なので高齢になって例えば要介護状態になったからといって、障害年金は請求できない。それを考えると障害年金は若い世代のために作られてるともいえる。比較的に若い時に重い病気や怪我で働くのが困難になっても、社会保障で社会に復帰させれるようにするため。

なぜ65歳以上になると請求できないかというと、65歳になると老齢の年金(国民年金から老齢基礎年金や厚生年金から老齢厚生年金)が大半の人は受給する事になりますよね。もう65歳になると老齢の年金がその人の生活資金としての年金を支給するから、障害年金を請求するというのは不可になるわけです。

ちなみに昭和61年4月から複数の種類の年金を貰える権利を持っていても、1人1つの年金の種類を受給するという原則ができたために、複数の年金を同時に受給するという事ができなくなった(遺族厚生年金と老齢基礎年金などの一部の年金は可能です。遺族年金は残された遺族の老後保障の役割もあるから)。なぜかというと、老齢年金も遺族年金も障害年金も結局は生活保障を目的としているから。どれか1つが支給されているのに、他の年金も支給したら社会保障の過剰給付になってしまう。

たとえば遺族年金や障害年金で生活保障されてる人に、65歳になったからといって更に生活費がかかるようになるという事は必ずしもそうならないですよね。冒頭で言ったように、もう老齢の年金が支給される年齢になったら、老齢の年金で生活保障するから障害年金を新規で請求する事はできなくなる。

というわけで、65歳までに障害状態になった人がどういう時に請求できるのか、できないのかを簡単に見ていきましょう。

1.昭和36年7月12日生まれの男性(今は58歳)

何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法(参考記事)

国民年金強制加入である20歳到達月の昭和56年7月から平成26年10月までの400ヵ月間は厚生年金に加入。なお、これで65歳から貰える老齢厚生年金は120万円とします。平成26年11月から60歳前月の令和3年6月までの80ヶ月間は未納。未納ですが60歳までは国民年金には強制加入中(民間保険は滞納してたらすぐ解約されてしまいますけどね^^;)。

なお、59歳時の令和2年2月22日(初診日)に病院にて糖尿病による腎臓機能の低下を指摘され、このまま生活習慣を改善しなければ腎不全となって一生人工透析になる可能性があると医師から言われた。その後、一応薬は飲んでいたが多忙のため通院もサボりがちで、生活習慣も気を付けていなかった。

数年が経ち、65歳令和8年7月の5ヶ月後に酷い体調不良を訴えて病院に行って人工透析となる。人工透析は障害年金では2級になる。

じゃあ、この人は障害年金は請求できるでしょうか。

まず初診日は国民年金加入中なので、支給されるとすれば障害基礎年金1級または2級のみ)。過去に厚生年金に400ヵ月も加入してますが、初診日の制度から障害年金が支給されるので一切厚生年金は反映されない。

そして初診日の前々月までの保険料を納付しなければならない期間の納付状況を見る。この男性なら20歳(昭和56年7月)から、初診日の前々月の令和元年12月までの462ヵ月。年金加入期間の462ヵ月のうちの3分の2が保険料納付済み期間または免除期間でなければならない。まあ、400ヵ月納付÷462ヵ月=86.5の納付率だから、3分の2以上(66.66%以上)は満たす。

次に、障害状態を確認する障害認定日の状態を確認する。障害認定日の初診日から1年6か月経過した日である令和3年8月22日(医師の診断書はこの日から3か月以内の症状のものを書いてもらう)。この障害認定日から障害年金請求可能となる。ところがこの障害認定日時点はそんなに症状が悪くはなかったが、その数年後の65歳超えてから人工透析まで悪化しましたよね。

一応、障害年金制度を知っていたので年金事務所に相談してみた。ダメだった。なぜかというと65歳超えていて、障害認定日以降に時が経ってから障害年金に該当するくらいに悪化した場合の請求だから。障害認定日以降に時が経って症状が悪化したから請求する障害年金を「事後重症請求」という。大半の人が後になって病状が悪化したから事後重症請求してみるというパターンですね。よって、障害年金は請求不可。

65歳以降は老齢厚生年金120万円分と、老齢基礎年金780,100円÷480ヵ月×400ヵ月=650,083円の合計1,850,083円(月額154,173円)を受給する。

ところがですね、もしこの男性が障害認定日時点(令和3年8月22日時点)ですでに人工透析のような障害状態2級に該当していたならば、65歳(令和8年7月11日)以上になっても請求できていた。

認定日時点ですでに2級以上(障害厚生年金の場合は3級まで)の障害状態にある場合の障害年金請求を認定日請求という。認定日請求から随分と請求忘れていても、認定日時点の症状が障害年金に該当するほどであり、診断書が医師に書いてもらえるなら65歳以上になってようが請求できる。年金も障害認定月の翌月以降5年以内の時効にかかるまでの年金は遡って一時金で支払われる。

この男性が認定日時点(現症としては令和3年8月22日から令和3年11月22日までの3ヵ月を診断書に書いてもらう)で人工透析治療を開始していたとします。とすると、65歳5ヵ月でこの認定日時点に遡って認定日請求して、障害基礎年金2級780,100円(令和元年度定額)を請求できる。

そうすると、老齢厚生年金120万円と障害基礎年金2級780,100円は同時に受給できるから、合計1,980,100円の年金受給となる。老齢厚生年金+老齢基礎年金の場合よりも年金額が多くなりましたね^^記事の冒頭で言ったように複数の種類の年金の同時受給は不可と言いましたが、平成18年4月の改正で障害基礎年金と老齢厚生年金の併給が可能になったから。

障害基礎年金受給中は老齢基礎年金は停止となる。これは障害年金受給者となっても、厚生年金に加入して働いた分の老齢厚生年金を反映させるため。

なお、65歳以降の障害年金の新規の請求は原則として不可ですが、今まで障害年金を受給してた人が65歳以降も障害年金を受給するのは何も問題はない。障害状態が続く限り障害年金の支給は続く(日本年金機構への定期的な診断書の提出は必要)。

ちなみに、障害厚生年金は老齢基礎年金や老齢厚生年金との併給は不可。障害厚生年金を受給したい場合に併給できるのは同じ種類の年金である障害基礎年金のみ。

※ 追記

事後重症請求は65歳の誕生日以降65歳誕生日の前日は不可になりますので、病状が悪いなあ~と思って、もし請求を考えてる人は65歳誕生日の前々日までに行わないといけない。ただし、障害年金の請求資料は集めたり書類書いたりするのに結構時間がかかるので早めに動く必要がある。せめて請求リミットの1ヵ月前までには。医師に診断書お願いしてもすぐできるわけじゃないですからね…^^;

何していいかわかんない場合はお近くの障害年金専門の社会保険労務士に相談するのが早い事もある(料金は成功報酬+消費税の場合が多いですが、おおむね年金の2ヶ月分とかそのくらいはかかる事が多い)。

それでは本日はこの辺で。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座 』

【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け