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なぜ今年の東京モーターショーは来場者の大幅増加に成功したのか

車離れが叫ばれ、回を追うごとに減少していた東京モーターショーの来場者数が、今年は前回開催の2017年と比較して約7割増の大幅アップで、130万人を超えたと話題になっています。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんが、東京モーターショーになぜ人が戻ってきたのかを解説。人口減少が確実な日本の中で、モノを売る人たちが学べる点を探り、伝えています。

大変身した東京モーターショーの来場者数が大幅増

売り上げはイマイチ伸びない、新しいお客様が呼び込めない、と、誰しも悩む時期があります。多くの場合、「チラシを変えよう!」「ホームページを作り直そう」「流行りのSNSに力を入れよう」と、手法で改善しようとします。

しかし、こういう施策を変えるだけではうまく行きません。万が一うまくいったとしても、すぐまた元に戻ります。小手先の対応ではダメ。元から変えていかないと、うまくいかず長続きもしません。

今号で紹介するのは「事業コンセプト」です。今年大成功を収めた、東京モーターショーの事例で考えていきましょう。

先日第46回目の東京モーターショーが開催されました。テレビやラジオでの報道や、CMなどを見ていると、「これまでのモーターショーとは違うな」という印象を受けました。

一方で、ここのところ車離れなどとも言われて、世界各地のモーターショーも集客に苦戦しています。東京モーターショーも、1991年には200万人を超えた来場者数が徐々に減り、前回の2017年は来場者77万人となったとのこと。今年は大きく上回る100万人の来場者を目指しての開催、結果は130万人を超えたとの報道でした。

東京モーターショーの今までのイメージは、「大きな会場に最新モデルの自動車や、これから発売される予定の近未来車が、自動車メーカーのブースに置いてあり、キャンペーンガールの方が立っていて、各企業の説明の方々が機能などを説明する」ための場所でした。

それを見に行く人たちは、「自動車好き」な人たち。新しい技術や、車のデザインをいち早く見たい、という気持ちの方々で、イノベーター理論でいうところの、イノベーターやアーリーアダプター(=初期採用者)といった感じです。

今年の東京モーターショーは何が違うのか?

今回とこれまでとの最大の違いは「事業コンセプト」です。事業コンセプトとは、「その事業で生み出す価値を、誰に提供するのか?」という、「事業を実行する意味」そのものを表します。その事業の「全体像」と言えます。

事業コンセプトとは、

を指します。3つめの顧客価値とは、自社プロダクトを体験することによって、顧客が感じる利益のことです。

この事業コンセプトがはっきりしていればいるほど、顧客に選ばれる理由になります。逆にコンセプトが明確になっていない商品は、顧客から見たときの買う理由がはっきりせず、選ばれず、売り上げにもつながりません。

私が在籍していたときのアマゾンのコンセプトは、「本が好きな人が欲しいと思っている本を用意し、1秒でも早く届けます」というコンセプトが明確でした。

強調フィルタリングで、お客様の欲しい本を見つけ出し、「おすすめ本」としてメールでお知らせをしたり、サイトを毎日のように改善して、買いやすい環境を作っていたのです。

コンセプトが明確でないと、数多くある販売促進の手法に惑わされ、やらなくてもいいプロモーションをやってしまい、ひいては、売れなくなってしまうのです。

今回の東京モーターショーは、「OPEN FUTURE」と題して、自動車という枠にとらわれず、ひろく「未来のモビリティ(=移動)を核に、対象者を、自動車好きの人たちのみでなく、ファミリー層や若い層などに広げて、彼らに向けて様々なイベントを企画したのです。

「自動車を見に来てください」というよりも、「楽しみに来てください」という姿勢が溢れているように見受けられます。モーターショーのイベントPR動画は、先端の技術を使ってかなりかっこいい内容になっています。高度なCGでスピーディーな動画の中には、エグザイルも登場するなど、楽しく見ることができる内容になっていました。

会場の中も自動車の展示のみでなく、キッザニアや、ラジオブース、お笑いのライブステージがあります。ゲストにゴスペラーズがきたり、お笑い芸人さんのライブを観て楽しめる、という具合です。

会場そのものもかなり広く、会場内も電動スクーターで移動でき、まるでエンタメパークにいるような雰囲気です。

今年の東京モーターショーに何を学ぶべきか?

今回の東京モーターショーの事業コンセプトから学べることは、柔軟な発想で想定する来場者の幅を広げたこと。やはり自動車関連のイベントだと、「自動車に興味がある人」という固定観念から、自動車好きな人が楽しめる内容になりがちです。そうなると、より多くの人たちにアピールすることができません。

ターゲット層が欲しいものを的確に提供できていることです。通常は、企業が売りたいものと顧客が買いたいものは違います。企業は電動ドリルを売りたいのですが、お客様が欲しいのは正確に開く穴です。

今回の東京モーターショーで売りたい・アピールしたいのは、もちろん自動車なのですが、お客様の方が欲しいのは、「目的地までの快適な移動」です。そこを軸にして実現しているのが見事でした。

ここのところ、コネクテッドサービスという、自動車がインターネットに直接繋がり、より便利に目的地まで行ける考え方が実用化されてきています。運転を支援する技術や自動運転が発達し、今までの自動車とはかなり違う、「クルマ」の姿が見え始めてきます。そこで、メーカーとして消費者に先んじて、「将来はこうなる」という未来像を提示したのが、今回のモーターショーといえるでしょう。

お客様が何かを買うときの決め手は、「この商品を買う価値があるかどうか」です。買うに至るまでには、値段や機能など色々と考えますが、まずお客様に見せるべきは、「この商品を使ったらあなたはこうなる」と、見せてあげることです。

今回のモーターショーはそれを見せているという意味で、参考になる事例でした。

image by:  ODEGORO / Shutterstock.com

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