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香港を笑えない。選挙の投票率が5割を切る日本人が捨てた民主主義

大規模なデモが続く香港で、11月24日に行われた区議会選挙。投票率は過去最高の71%を記録し、民主派が8割を超える議席を確保し圧勝しました。それでも「香港の真の民主化はまだ遠い」との見方を示すのは、有名ブログ「きっこのブログ」の著者にして、メルマガ『きっこのメルマガ』で毎週社会問題を独自の視線で切り続ける「きっこ」さん。きっこさんは今回の記事で、その理由を香港のトップである行政長官選の実態を挙げつつ解説するとともに、今年7月に実施された我が国の参院選の低投票率を「恥ずかしい」とし、日本国民がデフレや不景気から本当に脱却したいのならば投票に行かなければならないと記しています。

本当の民主主義とは?

正式名称「中華人民共和国香港特別行政区」、通称「香港」の地方議会である区議会選挙の投票が11月24日に行なわれ、翌25日までに開票されました。ちなみに「香港」という名称は、沈香(じんこう)や白檀(びゃくだん)などの「香木」の集積地だった島の南部の港や周囲の村の名称で、それが島の名称になったそうです。また、日本語や英語の「ホンコン」という発音は、中国の一部地域だけで使われている広東語の発音に倣ったもので、中国の公用語である普通話(ふつうわ)では、「香港」を「シャンカン」と発音しています。

今回の区議会選挙は、定数452議席に対して過去最高の1,104人が立候補しましたが、全体の85%に達する388議席報道によっては390議席を民主派が占める結果となりました。1997年の中国への返還後、民主派が過半数を取ったのは初めてです。改選前は親中派が議席の7割を占めていたので、民主派の歴史的大勝利となりました。これは、今年6月の「逃亡犯条例改正案」に端を発した大規模デモが、多くの市民に支持されたことを意味する結果です。

香港の人口は約750万人、東京都の半分ほどです。そして、この約750万人のうち、18歳以上で選挙権を持つ市民は約420万人です。前回2015年の区議会選挙では、430万人の有権者のうち投票所に足を運んだのは約140万人だけ、投票率は過半数に達しませんでしたが、今回は前回の倍、300万人もの有権者が自分の1票を行使し、投票率は過去最高の71%に達しました。それが、民主派の歴史的大勝利という結果となったのです。

しかし、この大勝利という結果を受けても、香港の民主活動家で日本でも良く知られる周庭(アグネス・チョウ)さん(22)に笑顔はありませんでした。「この結果は第一歩にしか過ぎません。私たちはこれからも警察による暴力の問題を解決し、行政長官選での真の普通選挙導入など、本当の民主主義を実現するために戦って行きます」と宣言しました。

今回の区議会選挙は「定数452議席」と書きましたが、実際には区議会の議席は「479議席」なのです。でも、市民が選挙で投票できるのは「452議席」だけで、残りの27議席」は北部の新界地区と離島に振り分けられた議席で、最初から親中派の議席」として固定されているのです。つまり、100%の投票率で有権者全員が民主派に投票したとしても、この27議席だけは親中派の議席として残るのです。もう、この時点で民主主義とは呼べないですよね。

先ほどの周庭さんの宣言にもありましたが、民主派が香港政府に対して掲げている「5大要求」の1つに「行政長官選での真の普通選挙導入」があります。現在の香港の行政長官は、6月から続く大規模デモで日本でも有名になった林鄭月娥(りんてい・げつが)長官で、英語圏では「キャリー・ラム」と報じられているメガネのおばさんです。中国の名前で姓が二文字なのは珍しいですが、もともとは「鄭月娥(てい・げつが)」という名前でした。その後「林」という姓の夫と結婚したため、夫の姓を自分の名前に冠したのです。

こうした豆知識も織り込みつつ、香港では、この行政長官が実質的なトップなのですが、とても民主主義とは呼べない「出来レース的な選挙もどき」で、この行政長官が選出されて来ました。香港の行政長官選挙は、市民には投票権がありません。1,200人の委員で構成される選挙委員会の投票によって決められます。そのため、まずは、この選挙委員会の委員1,200人を選ぶための選挙が行われるのですが、この選挙も市民には投票権がありません。産業界の代表者や立法会議員、区議会議員、全国人民代表大会(全人代、中国の国会に相当)の香港代表、中国人民政治協商会議(政協)香港地区委員など、限られた人たちにしか投票権がありません

その総数は、約6万5,000人です。香港の人口は約750万人、有権者は約420万人もいるのに、その中の特権階級の人たち約6万5,000人だけで、この1,200人の委員を決めているのです。420万人のうちの6万5,000人、つまり、1.5%の権力者が98.5%の民意を無視して委員を選んでいるのです。そして、この6万5,000人は、その多くが中国共産党の恩恵を受けている人たちなのですから、親中派の委員を選ぶことが初めから決まっているのです。事実、現在の林鄭月娥長官が選出された時の委員も、1,200人のうち1,000人が親中派でした。

さらに言えば、そもそもが、行政長官選挙の候補者はすべて親中派なのです。ようするに、この選挙は「誰よりも中国の言いなりになる忠犬の中の忠犬」を選ぶための選挙であり、誰に決まるのかは選挙の前から中国共産党によって決められていて、それに合わせて出来レースをしているだけなのです。こうした香港の「選挙もどき」の実体を知れば、民主派が「行政長官選での真の普通選挙導入」を要求していることも理解できると思いますし、国際社会が香港の「自称・民主主義」のことを「欠陥民主主義」に分類していることも理解できると思います。

あたしは、インターネットの中継で今回の区議会選挙の開票速報を見ていましたが、開票が進むにつれて親中派の大物議員の落選が次々と報じられ、そのたびに歓喜する市民らの映像が見られました。特に歓喜の声が大きかったのが、7月に暴力団を使ってデモ参加者の市民を襲撃させた事件の黒幕、現職の何君堯(ユニウス・ホウ)氏(57)の落選が伝えられた時でした。何君堯氏は自身のフェイスブックに「異常な年の異常な選挙で異例の結果になってしまった」と敗戦の弁を述べました。

今回の民主派の歴史的大勝利は、これまで投票に行かなかった有権者の多くが「このままじゃいけない」と気づき、投票所に足を運んだ結果です。現在の日本の国政選挙の投票率は、何とか50%を超えていますが、地方選挙ではほとんどが50%以下、中には30%台で有権者の3人に1人しか投票していない選挙も散見されます。以前、ツイートしたことがありますが、あたしの知り合いの数学者が、2012年以降の安倍政権での国政選挙の投票率と自民党の得票数をすべて計算したところ、自民党の得票率はわずか14%」だったことが分かりました。有権者の14%の投票が、この国の在り方を決めてしまっているのです。

たとえ民主的な選挙が行われていたとしても、過半数に達しない投票率では本当の民意は反映されません。「投票に行かないことも『現状のままでいいという1つの民意だ」と言う人がいますが、あたしはそうは思いません。現在の日本で投票に行かない人たちの多くは、決して現状を肯定的に受け入れているのではなく、現状に不満を持ちつつも「自分の1票じゃ何も変わらないと思って、諦めているだけなのではないでしょうか。「いくら不満を口にしたって、どうせ安倍晋三が好き勝手なことをするだけだし、野党もだらしないし、もう、どうでもいいや」と、政治に期待することをやめてしまったのではないでしょうか。

でも、こうした考え自体が、安倍政権による「民主党政権時代の悪夢を繰り返してはならない」という印象操作に乗せられた結果なのです。あたしはデータを出して何度も指摘して来ましたが、現在の安倍政権よりも、かつての民主党政権時代のほうが、名目GDPも、実質賃金も、正規雇用の有効求人倍率も、世帯別の消費も、すべて良かったのです。現在の安倍政権は、各省庁の調査データの数字を改竄し、計算方法を変更し、あたかも民主党政権時代より改善したかのように演出しているだけなのです。だから、いくら「デフレを脱却した」「景気は回復基調だ」と連呼されても、大半の国民には実感が伴わないのです。本当にデフレから脱却したいのなら、本当に景気回復を望んでいるのなら、有権者1人1人が選挙のたびに投票に行かなくてはならないのです。

あたしは、香港の周庭さんのツイッターをフォローしていますが、今年7月21日、周庭さんは日本語で次のツイートをしてくれました。

今日は参議院選挙です。日本人は、私たち香港人が持っていない民主的制度を持っています。だから、自分の権利を大切にしてください。日本の皆さんには、香港のことを見て、自分が自分の国の未来を決められることはどれだけ幸せなことなのか、知っていただきたいです。

しかし、今年の参院選の投票率は、わずか「48.8%」、前回2016年の「54.7%」を大きく下回り、24年ぶりの過半数割れとなりました。あたしは、民主主義を手に入れるために戦い続けている香港の人たちに対して、本当に恥ずかしくなりました。そして、過半数を割っていた投票率が70%を超えたことで、親中派と民主派の議席数が大逆転した今回の香港の区議会選挙の結果を見て、改めて「有権者が投票に行かなければ民主主義は成立しない」ということを痛感させられました。

image by: Isaac Yeung / Shutterstock.com

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